(13)
「で、さぁ……ゴブリンは妖精の一種で、オークは人間の一種で、妖精やドラゴンが生まれた世界は、この世界じゃないって言われても、よくわかんないんだけど……」
とりあえず、今晩は、この山で一夜を明かし、夜が明けたら……町に戻る事になった。
俺は、うっかり、成行きで、ただの人間2人……それも町のエラいさんを冒険者ギルドの危険呪物保管庫に放置プレイしちまった、と思っていたが……どうやら、その2人は、人間に化けたゴブリンだったらしい。
それは……それで、何が起きるか知れたモノじゃないが……。
あと……マジで聖女騎士サマの言う通り……初めっから、人間に化けたゴブリンが町にゾロゾロ居たのか、それとも、元は人間だった奴らがゴブリンに誘拐されるか殺されるかして……人間に化けたゴブリンと入れ替わったのか……一体全体、どっちなんだ?
「じゃあ、昔話をするね」
サファルから「そもそも人間界と妖精界って、何が違うんだ?」と訊かれたアイーシャが、そう説明を始めた。
「昔話?」
「と言っても……何かの真実は有るみたいだけど……大昔……何万年も前か……それより更に前か……偉い神様達が、ある楽しみを発明だか発見した……。それは『世界』と、その『世界』に住む生物達を作り出す事」
「へえ……それで、この世界が出来たって……」
「違う。最初に作られたのは、私達人間が住んでる、この世界じゃない」
「は?」
「神様達は……そうだね、芸術家としての才能とか……想像力とか……そういうモノも人間より遥かに上だった。神様達は、とんでもない世界と、そこに住むとんでもない連中を生み出した。ある神様はドラゴンを……ある神様は不思議な力を持つ霊獣や魔獣を……別の神様は妖精達や巨人達を……更に別の神様は死者の国を作り出した。そうして出来た世界は……何て言うか……私も詩人とかじゃないから巧く説明出来ないけど……もの凄い世界だった。まぁ、どこからどこまでを『1つの世界』と見做すかはややこしいんで、その世界は諸世界と複数形で呼ばれてる」
「もの凄いって、どんな風に?」
「昔、その世界を見た人間の吟遊詩人によれば……昼の空は、人間の世界のどんな絵の具を使っても再現出来ないほど青く、昼間は、人間の世界より、ずっと明るくて歓びで溢れ、逆に夜は、ずっと暗くて恐怖に満ち……木や草は、人間の世界のモノより、ずっと美しい花を咲かせ……葉っぱの緑の色さえ、うっとりするほど鮮かだった……。美しいモノはずっと美しく、恐しいモノは、ずっと恐しく、善いモノはずっと善く、邪悪なモノはずっと邪悪……何もかもが、ずっと極端な世界。とんでもなく明る光と暗い闇、とんでもない善と、とんでもない悪、とんでもなく美しいモノと、とんでもなく醜いモノや恐しいモノが、隣り合わせで存在するのに、絶対に混じり合う事がない、そんな世界。そして、ドラゴンや霊獣や魔獣や妖精や巨人は……その世界で、人間からすれば『生き急いでいる』ようにしか思えない生き方を何百年か……下手したら千年以上も続けていた……って」
「なるほどね」
「で……最初の諸世界が生まれて、何万年か……更に、もっと長い時間が過ぎてから、ある位の低い神様が、偉い神様達の真似をして、自分の世界を作り出した。でも……位の低い神様に作られた、その世界は……何から何まで、もっと偉い神様達が作った世界の出来の悪い紛物だった。その世界に住んでる生物さえもね……。ドラゴンの紛物として太古の恐竜やカイジューが生まれ……霊獣や魔獣の紛物として、不思議な力を何も持たない普通の動物が生まれ……草木に咲く花もイマイチで……巨人達の紛物としてオーガやオニやトロルが生まれ、死者の国の住人達の紛物としてアンデッド達が生まれ……妖精達の紛物として生まれた様々な種族は、やがて、乱交して混血し……人間という1つの種族になった。そして、善と悪、光と闇、生と死……そんなモノの境も曖昧だった」
「それが、この世界って事?」
「概ね、そう。でも、その出来の悪い世界を見た、他の神様達や、元の世界の住人達は、こう思ったの。『案外、悪くないぞ』ってね」
「出来の悪い世界なのに?」
「出来が悪い代りに……その世界は何もかもが、ずっと穏やかだった。激しい生き方を何百年も続ける事しか知らなかった、元々の世界の住人達は……短かく退屈だけど、穏やかな一生を送る事が出来る新しい出来の悪い世界の住人達をうらやましがり……そして、出来が悪くて退屈だけど穏やかな世界が更にいくつも作られて……元の世界の住人の中から、そこに引っ越す者達も現われ始めた」
「そいが、ウチらの御先祖様や、この山のドラゴンさん達の御先祖様たい」
クロちゃんが、そう言った。
「ちょ……ちょっと待って……」
「何、リーダー?」
「その小難しい話、俺にも判るよ〜に解説してもらえる?」
「つまり、この山のドラゴンとか、クロちゃん達の御先祖様とかは、元々、カイジュー大戦争が日常茶飯事な世界の産まれだけど、そんな世界が嫌になって、この世界でスローライフを送る為に引っ越してきたの」
「あ、そ、なるほど、わかった」
「じゃ……何? ゴブリン達が、人間の世界にやって来てたりするのは……その……」
「多分だけど……元の世界より、ずっとのんびり安全に暮せる……そんな所じゃないかな?」




