(12)
夕方になっても、意味不明な(竜人語で話してるせいと、どうやら、話が同じ所を延々と堂々巡りしているという、両方の理由で)百合痴話喧嘩は続いていた。
「今日も、ここで泊まるのか?」
「みたいだね……」
「あの……俺の縄は……いつ解いて……も……」
グルル……。
グルル……。
グルル……。
周囲に居る(どうやらマジで人間の言葉が判るらしい)動物どもが急に吠え出し……。
だから、何で、俺1人だけ「ここに居る人間どもの中で、たった1人の危険人物」扱いなんだよッ?
その時……。
クロちゃんと、その許婚の視線が……何故か、聖女騎士サマの方に向いた。
「えっと……カマルちゃんは、ウチとこの娘の、どっちが可愛かと思うね?」
あ……あのなぁ……。
「クロちゃんにとって世界一可愛い竜人さんはアオくんで、アオくんにとって世界一可愛い竜人さんはクロちゃんで、いいんじゃないですか?」
大真面目に答える聖女騎士様……。
「やっぱり、カマルちゃんは頭が良かね♪」
「ほんと〜にそ〜なのだ♪」
はっ?
「ぎゃお……」
「ぎゃお……」
「ぎゃお……?」
「ぎゃお〜……」
ん? 何か、クロちゃんと、クロちゃんの許婚の声の調子が変ってるような……。
「あ……リーダーさん……」
「え?」
クロちゃんが、俺に向かって、急に何か言い出した。
「ウチ、故郷に帰って、この子と結婚するけん……パーティーから抜けさせてもらえるね?」
「あ……ああ、いいけど……えっと……」
駄目だ。並の相手なら「わかった、けど、辞めるなら俺達に退職金を払え」とか言う所だけど(退職金ってのは辞める方が払うモノなのかは置いといて)……クロちゃんには言い辛い。
流石の俺でも、無茶苦茶な要求をするのは微かに残った良心が咎めるレベルの善人なのと……ウチのパーティーで最強のメンバーなんで、「嫌だ」と言われた場合、力づくで言う事をきかせるのが、ほぼ無理だって、両方の理由で……。
「で……これで万事……」
「解決してない事が有りますよ」
いきなり、ジブリルが、そんな事を言い出した。
「え……何が……?」
「あの……クロさん……市会議員と自治会長をゴブリンと間違えて捕まえちゃった時……何をやりました?」
えっと、クドいよ〜だが、竜人の「キョトンとした表情」ってのが、どんなモノか説明しにくいが……ともかく、クロちゃんは、キョトンとした表情になった。
「気絶させた以外は、何もしとらんけど……」
おい……待て……今まで、すっかり忘れてた俺がエラそ〜な事を言うのも何だけど……。
「ちょ……ちょっと待て……じゃあ、お前が言ってた、あの2人の生命力か何かが変だってのは……お前の勘違いか?」
「そ……そんな馬鹿な……確かに……何かが変でしたけど……」
「あの……何の話ですか?」
あ……マズい……聖女騎士サマの前で……知られちゃマズい事を口走って……。
「そりゃ……あん人達は……その……ウチらの言う『気』が普通の人間さん達と違うのは当り前じゃなかとね?」
今度は、クロちゃんが困惑したような声で、そう言った。
「あ……当り前? 何が? 何で?」
「だって、あん人達は……妖精系の人間さんやろ? 他の人間さんと色々違って当り前じゃなかとね?」
ク……クロちゃん……何を……言ってんの?
妖精系の人間?
ナニ、それ?
「いや……妖精系の人間なんて居ないよ。妖精は……俗に言う『妖精界』……私達『秘術系』の魔法使いの言い方だと『本源諸世界』で生まれた連中か、その子孫で……人間は、あくまで、この人間界……私達の言い方だと『派生世界群』で誕生した種族だから……」
「ハーフエルフとかは?」
アイーシャの説明にサファルが、そう言った。
「ああ、あれは、芝居とか講談とか吟遊詩人の詩とかに出て来るほどは居ない。エルフは妖精の中では人間と子供を作る事が多いけど……そうだね、普通のエルフが何百年も、ずっと、人間とやりまくっても数人生まれりゃ御の字……魔法的な方法を使わなければの話だけど……」
「じゃあ……妖精系の種族と人間って……魔法無しじゃ、ほぼ子供は出来ないの?」
「そ……知らない人も多いけどさ」
「うん、そうたい……ウチら竜人が元々居た世界も、魔法使いさん達が『本源諸世界』って呼んどる世界の1つで、まあ、早い話がウチらの御先祖様が生まれた世界は妖精さん達が生まれた世界とは隣近所みたいなモンやけん……だから、ウチらは、妖精さんか普通の人間さんかは『気』で判るとよ」
へっ?
「ちょ……ちょっと待って……ホントに人間の町に……人間そっくりだけど……」
「そっくりじゃなかよ。ウチらと人間さんは目の仕組みとかが違うけん、人間さん達には、人間さんそっくりに見えとるごたるけど……ウチには別の姿に見えとったよ」
「そ〜なのだ、人間さんの町に、人間じゃない妖精さん達が、いっぱい居たのに……人間さん達は、その妖精さん達を人間として扱ってるよ〜にしか思えないのだ」
「たしかに、それの通りです。でも、人間の皆さんが、そう振る舞っているので……そんなモノなんだろうと思っておりました」
クロちゃんだけじゃなくて、クロちゃんの許婚に、ラビット・パンダの爺さんまで……おかしな事を言い出しやがった。
一体全体、何が……どうなって……えっと……?
「ねえ……じゃあ、その……私達人間が『人間』として扱ってるけど……妖精界出身らしい人達……えっと、人達でいいのかな?……ともかく、そいつらは、クロちゃん達からすると……どうな風に見えてるの?」
アイーシャが腕を組みながら、そう訊いた。
「ゴブリンそっくりたい」
「そ〜なのだ。人間さんがゴブリンと呼んでる妖精さん達にしか見えなかったのだ」
「ええ、人間の皆様にも色々と事情が有るので、とやかく申し上げるのも何ですが……妖精の中でも一番タチが悪い種族であるゴブリンを人間扱いしているのに、肌や髪や目の色が違うだけの同じ人間を『オーク』と呼んで怪物扱いしているのは、いかがなモノか……皆様がお住まいの町に来てから……そう思っておりました」
……。
…………。
……………………。
待て……おい……まさか……。
「それって……私達の町の中に……人間に化けてるゴブリンが紛れ込んでるって事?」
アイーシャがクロちゃんに、そう訊いたが……。
「じゃ……何で、ボク達人間は人間に化けてるゴブリンが人間の姿に見えてたのに、クロちゃん達は、ゴブリンの姿に見えたんですか?」
ジブリルがアイーシャにそう訊いた。
「多分だけど……対人間特化型の幻術だと思う……だから、気配を感知する能力が下手な魔法使い系より上なのに加えて、目の仕組みなんかが人間とは違うクロちゃんは騙せなかったんじゃな……」
「ちょっと待たんね。えっと……ゴブリンじゃなかよ。だって……」
「だって……何?」
言葉には出来ないが……嫌な予感しかしない。
「だって……ウチがゴブリンそっくりの妖精系の人間さんばゴブリンと間違えて捕まえて来る度に、みんな言うとったやろ『こいはゴブリンじゃなか、どう見ても人間やろが』って……」
……。
…………。
……………………。
え?
何?
まさかその……今までクロちゃんが捕まえてきた……「ゴブリン」どもは……「クロちゃんが人間とゴブリンの区別が付かないんで、間違えて捕まえてた単なる人間」だった訳じゃなくて……本当に「人間に化けて、人間の町に入り込んでたゴブリン」だったの?
え……えっと……俺達が、もし、「何か変だ」って気付いてたら……もっと早く、このヤバい事態が起きてた事が判ったの?
「あ……あの……えっと……良く判らないんですが……クロさんが『町に入り込んだゴブリン』だと言って……市会議員と自治会長を捕まえてきた……そして、他の皆さんは、それがクロさんの勘違いだと思い込んでいたけど……実は、市会議員と自治会長は、本当に人間に化けたゴブリンだった……そう理解して良いのでしょうか?」
聖女騎士サマが……困惑気味に、そう訊いてきた。
いや、聖女騎士サマにバレちゃマズい事だと思ってたが……もう、この際だ……。
「は……はい……その通りです」
「じゃあ……その……市会議員と自治会長は最初から人間に化けたゴブリンだったんですか? それとも、どこかの時点で人間に化けたゴブリンと入れ替わったんですか?」
「あ……あの……何か心当りでも?」
「いや……そう言われましても……町の偉い方々は、何故か、ずっと、私を避けているようなので……多分、どこかの時点で様子や雰囲気が変ったのなら、皆さんの方が気付かれてる可能性が高いと思うんですが……」




