(11)
「何やってんですか? 2人とも、もう、いい成体竜人でしょ?」
クロちゃん達が落下した山の頂上まで辿り着くと……そこでは、珍しい聖女騎士サマの不機嫌そうな声。
「……ごめんなさい……」
「……ごめんなさい……なのだ……」
クロちゃんと、その許婚のシュンとした声……。これまた初めて聴いた……。
「謝るのは、私にですか?」
「えっ……あ……ごめん、あんた達みたいな小さか子を、ウチらの喧嘩に巻き込んでしもうて……」
「ごめんなさいなのだ……」
「ぎゃう……」
「ぎゃう……」
「ぎゃう……」
「ぎゃう……」
謝られた4匹のドラゴンは……いいよ、いいよ……って感じだが……。
小さいって何だ?
クロちゃん達より遥かにデカいだろ、この4匹。
子供とは言え、町の1区画ぐらい1匹で壊滅させる事が出来るんじゃね〜のか?
「で……そもそも、クロさんが結婚式から逃げ出したのは、どうしてですか?」
「この子を見て判らんとねッ?」
クロちゃんは、そう言って、自分の許婚を指差すが……ごめん、さっぱり判らない。
聖女騎士サマもポカ〜ン。
俺、含めた他の連中もポカ〜ン。
「ウチみたいなのは……こぎゃん可愛くて素敵な子には……絶対に釣り合わんッ‼ 絶対に、この子を不幸せにしてしまうけん……」
「そんな事ないのだッ‼ ボクだって、お姉ちゃんにふさわしい竜人である自信なんて無いのだッ‼ でも、お姉ちゃんと結婚したいのだッ‼ 死ぬまで何百年もお姉ちゃんと一緒に居たいのだッ‼」
「でも……ウチなんか……」
「だから、そんな事無いのだ。お姉ちゃんは、ボクにとって、世界一可愛くて素敵な竜人なのだッ‼」
「違うッ‼ あんたこそ、世界一素敵な竜人たいッ‼」
「そうじゃないのだッ‼ お姉ちゃんが世界一なのだッ‼」
「そんな事無かッ‼ あんたこそ……」
え……えっと……俺達……何に付き合わされてるんだ?
気付いた時には……2人の会話は竜人の言葉になっていったが……。
「あ……あの……さ……あの2人……何言ってんの?」
ラビット・パンダの爺さんに、そう訊いてみたはいいが……。
「さっきから、ずっと同じ会話を延々と……」
「あ……そ……やっぱり……」
そして……。
時だけが過ぎ去っていく。
太陽は、いつの間にか、ずいぶんと高く……早い話が、クロちゃんと許婚の言い争い(なのか?)が始まったのは、まだ、朝方だったのに……そろそろ……。
ぐぅ……。
腹が鳴ってるのは、俺1人じゃない……。
ガキのドラゴンたちも困った表情になってる。
ドラゴンの困った表情ってのが、どんなモノか説明しにくいが……ともかく、困ってるように見える表情だ。
「あ……あのさ……その話は、あとでゆっくり話し合ってもらうとして……そろそろ、腹が減ってない? 昼飯に……」
「ここは……大地の霊力が集中してる場所なので……」
俺の提案に対して、聖女騎士サマが訳の判らない事を言い出した……。
「どゆこと?」
「ドラゴンさん達や竜人さん達は、この辺りにある膨大な霊力のほんの一部を吸収してさえいれば……体力は消耗しません」
「え? わかんない、わかんない、俺馬鹿だから、ど〜ゆ〜事か、さっぱりわかんない」
「えっと……何って言ったらいいのかな……ああ、そうだ……ここに居る限り……少なくとも、あと何日間かは……あの2人は、不眠不休で、延々と、あの話が同じ所を堂々巡りしてる口喧嘩を続けられるって事……」
アイーシャが……そう説明するが……。
ありがとう……。
解説ありがとう……。
それが本当なら……余りにも絶望的だけど……ともかく、ありがとう……。
で、結局、この馬鹿馬鹿しい口喧嘩……いつ終るの?




