【書籍発売記念SS】ソフィアと猫(1/2)
明日7月2日に書籍発売を記念して、SSを投稿します!
時系列的には、第1章と第2章の間くらい、ソフィアが修道院に来て4,5か月目くらいの話になります。
全2話です。
(あれは何かしら?)
それは、初夏の青空が広がる昼前のことだった。
ソフィアがいつものように大聖堂へやって来ると、石段の端に見慣れないモフモフがいた。
(動物……よね?)
気になって近づいてみると、それは一匹の小さな猫だった。
茶色の縞模様が愛らしく、石の階段をまるでふかふかのベッドであるかのように使い、のんびりと寝そべっている。
(まあ、猫だわ……!)
ソフィアの胸がどきどきと高鳴った。
彼女は驚かせないよう、少し離れた場所にそっとしゃがみ込む。
猫は気持ちよさそうに目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。
(かわいい……)
ソフィアは、そっと声を掛けてみた。
「こんにちは」
猫の耳がぴくりと動く。
しかし、すぐに耳は元に戻り、猫は何事もなかったかのように、すうすうと寝息を立てている。
ソフィアは上下する柔らかそうな毛並みを見ながら思案に暮れた。
そして――
「にゃーん」
こんにちは、という風に小さく鳴いてみる。
すると、猫がぱちりと目を開けた。
つぶらな瞳が、じっとソフィアを見つめる。
(まあ!)
ソフィアは思わず息を呑んだ。
もしかして、通じたのかしら? 思わず頬が緩む。
彼女は静かに話し掛けた。
「ごめんなさいね。寝ているところを起こしてしまって」
すると猫は、気にするなと言う風に「にゃーん」と小さく鳴いた。
再び目を閉じると、何事もなかったようにまた寝始める。
(なんてかわいいのかしら……)
ソフィアは胸がじんわり温かくなるのを感じた。
猫と少し鳴き声を交わしただけなのに、とても幸せな気持ちになる。
彼女は満ち足りた気分で立ち上がった。
「今日も懺悔室、がんばりましょう」
そう呟くと、足取りも軽く大聖堂の中へ入っていく。
*
その日から、ソフィアは度々その猫を見掛けるようになった。
猫はいつも石段の端に寝そべっており、気持ちよさそうに昼寝をしている日もあれば、半分だけ目を開けてぼんやりしている日もある。
この話をヒルダにしてみたところ、
「猫って、涼しい場所を見つける天才なのよ」
と教えてくれた。
「前にうちで飼ってた猫も、いつも日陰の石の上に寝てたわ!」
「そうなのね」
ソフィアは納得した。
石段はひんやりとしているし、大きな木の陰になっている。
一日中日陰だから、きっと涼しいのだろう。
(猫ちゃんは賢いのね! わたくし、あの猫ちゃん、撫でてみたいわ)
ちなみに、ヒルダによると、猫を撫でたい場合は、信頼関係の構築が大切らしい。
「猫は気まぐれだし神経質なところもあるから、向こうのペースに合わせるのが大切よ」
「そうなのね、勉強になるわ」
――そんな訳で、ソフィアは猫の信頼を勝ち取るべく、動き始めた。
食べ物をあげることも考えたが、大聖堂の階段が汚れてしまうと困るため、とりあえず地道に挨拶から始めることにする。
大聖堂に行くたび、少し離れた場所にしゃがみ込み、「にゃーん」と鳴く。
最初は微妙な顔をしていた猫だが、そのうち慣れてきたのか、「にゃーん」と返事を返してくれるようになった。
(ふふ、順調だわ)
ソフィアは思わず笑みをこぼした。
あのもふもふを撫でさせてもらえる日も近いわね、と密かにわくわくする。
*
そんな猫とのささやかな交流が続いていた、ある日の午後。
ソフィアはマーサに頼まれて、町へ買い物に来ていた。
砂糖や塩など、頼まれていた品を一通り購入する。
買い物を終えたあと、なんとなく大聖堂の近くの大通りを歩いていると、ふと見慣れた毛玉が道の向こうから歩いてくるのが見えた。
(まあ、あの猫ちゃんだわ)
ソフィアはそっと猫に近付いた。
周囲に聞こえないくらいの小さな声で「にゃーん」と挨拶する。
猫はぴくりと耳を動かすと、つぶらな瞳でソフィアを見上げた。
「にゃーん」
返事をするように鳴くと、くるりと向きを変えて歩き出す。
ソフィアは首をかしげた。
(どこへ行くのかしら?)
後ろ姿を見送っていると、猫が不意に振り返った。
彼女の目を見て、「にゃーん」と鳴く。
(……もしかして、ついて来いってことかしら?)
ソフィアがそっと後を追うと、猫はスタスタと歩き始めた。
時々立ち止まってはソフィアを振り返り、「にゃーん」と鳴いては、また歩き出す。
(いったいどこへ連れて行くつもりなのかしら?)
不思議に思いながらついて行くと、猫は大聖堂の裏手へ向かった。
裏手にある木々に囲まれた小さな広場に入っていく。
猫に続いて広場に入り、ソフィアは思わず目を見開いた。
「まあ……!」
(つづく)
本日7月2日、講談社Kラノベブックスfより書籍発売です!
約2倍に加筆しておりまして、主に懺悔室でソフィアが活躍する話や、ロイドとのあれこれ、修道院の話などを追加しております。
ぜひお手に取って頂けると嬉しいです。(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ
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