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夢うつつ

結婚後のお話です

 何度も何度も同じ事夢を見る。

 優しい声で私の名を呼ぶ夢を。


 今日も私の名を呼ぶ所から始まった・・



 「エバァ、そろそろ起きましょう。あまり寝ると貴女の大好きなクッキーをお父様に食べられてしまいますよ?」


 その声で私は飛び起きる。

 

「おとうたま!それエバのだよ!」


 お母様の腕に抱かれていた私は慌ててテーブルの上に置かれたクッキーに手を伸ばした。


「エバァ、まずはおててを洗わなきゃ!でしょ」

 

 そう言われお母様に手を引かれて井戸の所まで行く。

 今は祖国を離れ、隣の国へ来ている。

 と言っても私はこの国で産まれたので、祖国と言われても分からない。

 でも、お父様とお母様が時々話してくれる祖国は、とても素敵な国だった。


 「あと一年で祖国に帰れるから、そしたら一番に親友の所に行こう!確かエバァと年の近い子がいたと思うよ。仲良くなれると良いね!」


 夢の中のお父様はその日が来るのをとても楽しみにしている様子だった。

 お母様も慣れない土地で苦労したのか、


「もう派遣員は断ってくださいね!エバァの為にも同じ所にいた方が良いですから」


 私は話の内容は分からなかったけど、お父様とお母様が笑っている事がとても嬉しかった。


 (私も早く、祖国に行きたいなぁ)




 でも、その祖国に帰って直ぐに両親を失うなんて・・私は夢にも思わなかった。


 亡くなった時の記憶は無い。

 失ったのかも知れない。


 ただ、淋しくて淋しくてずっと乳母の胸で泣いていた様な記憶がある。


 お父様とお母様の しんせき と言う人たちがいっぱい来た。


 私を引き取るから爵位がどうとか、お金がどうとか怒りながら話し合っていた。


(怖い、怖い、怖い。どうしてみんな怒っているの?わたし何かしたのかな?)


 ずっと不安だった。

 そんなある日、とても優しそうな こうしゃくさま と おくさま が屋敷に来た。

 そして私に言ったのは


「エバァちゃん、もう心配はいらないからね。おじさんとおばさんがエバァちゃんの事を見守るから」

「この屋敷も私たちが責任持って管理する。君のお父さんとの約束だからね!」


 良く分からないけれど不安は無くなった。

 そして私の手を引っ張る子が・・


「ここは大人に任せて、僕と一緒に遊びに行こう!」


 その子と一緒に庭へ駆けていく。

 私を見る目がとても優しくて、自然と笑顔になっていた。


 その日から私はその子とくらすようになった。

 それでも淋しさは消えず、泣きたくなったり一人では怖い時は必ず男の子が側にいてくれた。


 その男の子の名前は・・


「エバァ!エバァ!大丈夫かい?すごくうなされていたけど」

「・・・レイモンド・・さま・・」

「ああ、すごい汗だ。すぐにタオルを・・エバァ?」

「大丈夫です。少しこのままで・・」


 私はレイモンド様に抱きついた。

 最初は驚いたレイモンド様も、ベッドの中に入り抱きしめ返してくれた。


「医師も言っていた。この時期は心も身体も不安定になると」

「悪い夢を見ました。昔の・・」


 ここ五年ほど見なかった夢を見たのは、何だか嫌な気分になった。

 何故ならこの夢は私が不安になると見る夢だったから・・

 レイモンド様は私を落ち着かせるように、優しく背中を摩ってくれた。それが気持ち良くていつの間にかまた眠りについてしまっていた。





「おはようございます旦那様。奥様は起きておいででしょうか?」


 寝室を出るとエバァ専属侍女長のユメが立っていた。


「悪い夢を見たと明け方汗をたくさんかいていた。今は眠っている。」

「では起きられましたら湯浴みと着替えを。シーツも取り替える準備を致します」


 そう言って頭を下げた。

 このユメはもともとケンブリット公爵家でエバァの専属をしていた。

 結婚後、こちらに住居を移した際エバァに付き従って来たのでそのまま専属にし、経験もあるためエバァと相談して侍女長にした。


 ユメはエバァの期待を裏切らずしっかり他の侍女やメイドを取り仕切っている。


「旦那様おはようございます。お食事の準備が整ったとコックのサンから連絡がありました」


 寝室の隣、自身の部屋で着替えていると執事見習いのベンが伝えに来た。

 ベンはケンブリット公爵家の執事長の息子で、ユメの旦那となった男だ。

 執事長の合格が出たらこちらのハーバッセン公爵家の執事長になる。

 予定だ。


 エバァと結婚したのち、昔エバァの両親が住んでいたこの屋敷を改装して住み始めた。

 住んでいたと言ってもエバァにとっては思い出も無く、最初は建て替えようと思ったが


「せっかくなので改装だけに留めませんか?」


 と言って来たのでそのようにした。

 両親亡き後はケンブリット公爵家が管理をしており、時々はこちらの屋敷でも夜会やお茶会などを催した。

 

 食事が済んだ後はハーバッセン家の執務をこなす。本来ならエバァと共にするが、体調が悪いので暫くは自分一人でやらねばならない。

 もともとエバァと結婚する事は決まっていた為、父公爵に兄と共に付き従って仕事を覚えた。


 本来ならケンブリット公爵家が持っている他の爵位を貰う予定だったが・・


「お父様!僕はエバァと結婚したいです!どうしたら結婚出来ますか!」


 と、エバァを迎えに行ったその日に両親へお願いした。記憶がある・・


「貴方は次男と言っても公子です。まず断られる事は無いでしょう。ですが、エバァちゃんの気持ちが大切です。エバァちゃんがレイと結婚したいと言ったら、そこから考えましょう。そうね・・エバァちゃんが十歳になったら確認しましょう」


 母にそう言われた俺は、全力でエバァを守るナイトになった。

 それを見た父が 兄と一緒に仕事を覚えなさい! と、付き従う事を許してくれた。


 自身のためならきっとここまで頑張る事は無かっただろうが、エバァの為だと思うと自然と頑張れたし嫌では無かった。

 ただ一つ、腑に落ちない事は


「何故エバァの爵位が男爵なのですか?」

「それはね、ハーバッセン家のもう二つある内の一つだから」


 だったらもう一つの伯爵位でも良く無いか?と思ったが、両親の事だからきっと、何か理由があるのだろう。


 でもそのせいで学園では男爵という事で高位貴族の令嬢に目を付けられた。

 同じように辺境伯令嬢を娘の母方の姓でエバァの護衛として一緒に入学させたから、イジメにあうことは無かったが・・


「身分で近寄ってくる様な人はダメ。本当のエバァちゃんを知って貰うには爵位は邪魔なのよ。だから男爵なのよ」


 あとは貴方がしっかり守りなさい!


 なるほど?と思ったが、そのおかげかエバァの性格を知ってもらえた事は良かった。

 今ではエバァを支える人達となり、楽しくお茶会を開いている。


 ちなみに学園時代に一緒入学したエラは、辺境伯を継ぎゾルドと共に辺境伯騎士団に力を入れている。


 王都へ来ると必ず夫婦でハーバッセン家に顔を出し、そのまま(何故か)シーズンが終わるまで滞在する。

 今年も滞在すると手紙が来ていた。

 

(まぁ、辺境伯はこの国の要でもあるし、陛下からもよろしくと言われている以上は断る事も出来ない)


 何よりエラが来るとエバァが喜ぶからまぁ良いとしよう。



 お昼近くになりエバァの準備が整ったと連絡がきた。

 私はエバァの部屋へ迎えに行くと何故か青白い顔でソファーへもたれかかっていた。


「エバァ、どうしたんだ?体調悪いならベッドへ・・」

「レイモンド様。お伝えしたい事がありますの」


 私が側に来たのを確認したエバァが、身体を起こしながら言ってきた。





 ここの最近なぜか体調が優れなく身体がダルい。

 何となく熱っぽい感じもした為ユメに相談したら、想像もしていなかった事を告げられた。


「奥様、月のものが先月と今月きておりません。一度医師に診て頂いた方がよろしいのでは?」


 と・・

 無い事もないなと思い、診察を依頼した。


「子供ができました、レイモンド様」


 ん?反応ないわね。


「レイモンド様、私こども」


 言い終わる前にレイモンド様に思い切り抱きしめられた。

 私を抱きしめる身体が震えている?

 そっと顔を覗いて見ると


「レイモンド様・・泣いてらっしゃるの?」

「こんなに嬉しい事はない。ずっと体調悪く、顔色も悪かったから不安で心配だったんだ・・そうか。子供が・・」


 しばらくの間その体勢だったけど、身体を離したレイモンド様の顔は涙でグチャグチャだった。


「今年の社交はお休みだ!君とお腹の子が一番だから。そうだな、始まりの王宮だけにしよう。」


 何ならエラたちも断ろう!と言い出した時は驚いた。

 エラとの交流まで無くしたら困る!と言っても


「胎教に良くない」とか「流産したらどうするんだ」とか言い出した時、ユメが一言


「旦那様、お言葉ですが奥様からエラ様を取り上げると逆に不安定となり、流産の恐れがあります」


 何とかエラたちの訪問だけは許してもらえた。



 社交シーズンが始まる少し前にエラたちが来てくれた。私はちょうど悪阻が始まり、ベッドから起き上がる事も出来なかった。が何とエラも懐妊しており驚いた!本人は


「安定期入ったしエバァ様に会いたかったから、父とゾルドにお願いして来たんです!時期的にシーズンが終わる前に領地へ帰る事になりますが・・」


 と、二重の喜びとなった。


 エラが滞在している間に安定期を迎え、屋敷でお茶会なども開けるようになりそこでも懐妊ラッシュに驚いた。


「我が子と同じ年の子が増えるのは嬉しいですね」



 夏が過ぎ、秋に差し掛かる頃にエラたちは領地へと帰って行った。

 お腹も大きくなっており、夫のゾルドは


「来た時の倍、時間を掛けて帰ります。」


 と言ったので、領地内の宿は押さえるようにベンにお願いをした。



 社交シーズンも終わり庭でゆっくりお茶を飲む。

すでに私のお腹は大きくなり、最近ではお腹の子もあまり動かなくなっている。

 一度心配になり主治医に聞いた事があるが、


「お子が大きくなるとお腹の中で動けなくなるのですよ。モゾモゾ動いているのが分かれば大丈夫。それも無ければお呼びください」


 大丈夫、今日もお腹の中でモゾモゾ動いている。

 本当に不思議な感覚だわ!と、優しくお腹をさするとお腹の子はまたモゾモゾ動く。


 一人クスクス笑っていると後ろから優しくストールを掛けられる。

 振り返るとレイモンド様が微笑んでいた、


「今日も我が子は元気そうだな。でも、そろそろ冷えて来たから中へ入ろう」


「そうですね。あっ!先ほどエラから手紙が届きましたの!男の子が産まれたと!」

「ああ、私の所にもゾルドから手紙が来た。後継が出来て父も騎士たちも大喜びだと」


 ふふふ。と二人で笑う。


「我が家はどちらでしょう」

「どちらでも。君と子が無事なら。」


 そう言いながら優しく抱き上げる。


「主治医が歩きなさい!と言ってましたよ?」

「まぁ今だけは私のストレス解消だと思って、受け入れて欲しい」


 なら仕方ありません!

 私はレイモンド様の首に腕を回して抱きついた。

 お腹が少し邪魔だなぁと考えたら通じたのか、


「痛っ!何故かお腹の子に蹴られたぞ」


 と、レイモンド様は笑いながら言ってきた。


 お腹の子に会えるまで、あともう少し。

 楽しみで仕方ないけれど、二人の時間もあと少し。


 そう考えたら今この時間も愛おしい。




(お父様とお母様も、私を身籠った時同じ気持ちだったのかしら?)


 ふと思った日の夜。

 久しぶりに両親の夢を見た。

 怖い夢ではなく、とても心が温まる夢・・



「可愛い可愛い私たちの宝物エバァ。

 大丈夫よ。心配ないよ。安心して子を産みなさい。私たちが必ず二人を守りますからね」




 夢を見た二日後、私はレイモンド様との子を産んだ。


 可愛い可愛い男の子と女の子の双子を・・



 

結婚後のお話でした。


次で最後になりますが、スマとゾルドの馬車での会話となります。

覗いて頂けると嬉しいです。

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