ヴォイド・シンカー
めちゃくちゃ投稿が遅れました……申し訳ないです……
三章はこのまま行きますが、四章以降は書き溜めてから投稿する形式になるかもしれません
急ブレーキをかけた時のような、甲高い摩擦音。
それが背後で鳴った瞬間、私は考えるよりも早く回避行動をとっていました。
バイクは私がいた場所を物凄いスピードで通過して行き、鈴井はすれ違いざまに刀を振るって私に攻撃を仕掛けてきました。
咄嗟のことで防御できず、一撃食らってしまいます。
「おいおい、これも避けるのか? とんでもねー奴だな。刀霊の能力っつーか、シンプルに戦闘経験が多いのか」
「どうも。一撃貰いましたけどね」
「必殺技まで使ってそれじゃ割にあわねーよ。まあ、お前が死ぬまで何度でもやるつもりだけどな——『虚深く眠れ』」
「ちょっ、またですか……!」
瞬間的な加速と消滅。
必殺技という割には何度も使えるんですね。これまでに見た必殺技は志柳の『鍔得還し』だけですが、アレのようなデメリットも無さそうですし——
——摩擦音。
「《火神——」
「遅え!!」
硬い音を響かせて、私の一撃はバイクに吸い込まれ、代わりに鈴井の刀が私の肩口を斬りました。
痺れは……出てませんね。傷は浅いようです。
とは言っても、流石に打開策を考えなければなりません。いくら浅い傷でも受け続ければやがて死にますし。
そう考えてどうにか隙を探ろうとしますが……
「オラオラァ!! さっきまでの動きはどうした!!」
何度目かの《虚深く眠れ》と、何度目かの衝撃。
私の身体は吹き飛ばされ、どうにか着地しようと体勢を整えますが、上手くバランスを取れなくなってきました。
直撃こそ回避していますが、防御力の低い自分の身体では掠っただけでもダメージが入るほどです。
少なくとも、カウンター主体では勝てない。
そう考えて、消える前に一撃入れようと《襲雷弩刀》で鈴井の正面に躍り出ましたが、攻撃する前に彼はハンドルを切って横に進み、加速したと共に消えてしまいます。
その直後、背後から音が響き、鈍い衝撃が走りました。
「ぐ……ッ、ほんと厄介ですね……!!」
カウンターマークは表示されるものの発動する為にはあまりにも時間が足りず、バイクが消えてから出現するまでの時間もランダム。
とりあえず、現段階で確実なのは「背後から攻撃してくる」ってくらいですかね。今のところ全部背後からの攻撃ですから。
攻撃方法に関しても、摩擦音がなってから一直線に突っ込んで来るものだけのようです。
もちろん、能力に制限があると思わせるタイプのブラフである可能性はあるでしょうけど、正直そこまで疑ってしまうと身動きが取れなくなってしまいますし……。
「ふう……どうせジリ貧ですし、一か八かやってみましょうか」
メニューからパーティーチャットを開いてベアにメッセージを送ります。
公平にするためにフレンドチャットなどは使えなくなっていますが、パーティーチャットだけは使えるようになってるんですよね。まあ、フィールドが割と広いので声だとコミュニケーション取りづらいですし。
すぐにベアから「了解」と返事が返ってきて、自分の右の方で木の根がメキメキと音を立てて成長し始めます。やがてそれは指定通りの形になって、敵を撃破する為の罠となりました。ベアから距離が離れているため耐久力はそれほど高くないでしょうが、今は問題ありません。
想定していた使い方ではないんですけど、恐らく読み通りなら上手くいくはずです。
「よし……」
刀を鞘に納め、木の根の方を向いて全神経を集中させます。
次に彼が姿を現した時を、この戦闘の終幕とするために。
□◇□◇□◇□
虚深く眠れは気配を消す技じゃない。一度虚空に潜航し、それから標的に突撃する技だ。
そこまでがワンセットの技だから、単純な逃げに使うことは出来ず、攻撃に関しても潜航を解いて背後から突進するだけで融通が効かない。
助走が必要であり、身動きの取れない状況では使えないなどのデメリットも多いが……それでも、この技は強い。
仕組みに気づかれたとして、並大抵の反応速度では回避もままならないだろう。
アイツの様に感覚で避けてくる様な奴は苦手だが、それでも完全に避けられることはない。
更には、潜航中の自分は完全に存在していないことになっている為、タイミングさえ合えばどんな大技だろうと回避できてしまう。
リキャストも無く、大技の回避に転用することもできる必中の技——それが《虚深く眠れ》だ。
出来ることならこの能力を使うのはもっと勝ち進んでからが良かったが、こればかりは仕方がない。
「……頃合いか」
潜航中に地上の様子は窺えないが、解除のタイミングは自分で考えられる。相手の集中を切らせたいのでなるべく長く潜っていたいのだが、虚空に長時間潜ると存在が解けるという理由付けによって実質的な制限時間が存在する為、そろそろ解除しなくてはならない。
ハンドルに装着された赤いボタンを押し込むと、前方に浮かぶ光に向かってバイクが加速していく。
そして——
「ッ!!」
甲高い摩擦音と共に俺が現れた瞬間、リクドーは高く跳躍した。それを狙って俺も刀を振り上げ、頭上で斬撃が交差する。
良い反応速度だが……やはり遅い。すれ違う寸前、俺の刀だけが相手に到達した。致命傷ではないが、決して浅くはない当たりだ。
いたぶるのは趣味じゃないが、相手が上手く避ける以上こうやって機動力を削いでいくしかない。
後方を向いてリクドーの状態を確認しつつ、休む間も与えずに虚深く眠れを発動しようとし——その寸前、前方から強い衝撃を受けた。
「ぐッ……何だ!?」
前を向くと、そこにそびえ立っていたのは巨大な木の壁だった。大樹の根のような堅牢な木が重なり合って作られたその壁は、俺を取り囲むように前方と左右に存在していた。
謂わゆる袋小路というヤツだが、これは少し……というか、かなり……
「マズいな……ッ」
「予想通りみたいですね。そのバイク、後ろに下がれないんでしょう?」
「…………ああ、流石にバレてたか」
大抵のバイクはバックが出来ない。バックギアが付いているものもあるが、それはごく一部のものだけだ。
俺のこのギンガ NEO-49もそれは同じで、高い機動力を持つものの、そこだけは明確な弱点として存在している。
なるべく悟られないような動きをしていたはずなんだが……まあ、これまでも見破られることはあったから不思議ではないか。ここまで的確に追い詰められたのは初めてだけどな。
だが、幸い壁の材質は木だ。切り倒して進めばどうにか逃げられ——
「《襲雷弩刀》!」
「——んな余裕はねえか!!」
居合の一撃でもって一息で距離を詰めてくる敵を見て、流石に斬り倒して逃げるのは不可能と判断し、刀での防御に転じる。
……いや、防御なんて生温いこと言ってられる状況じゃねえな。
ここで殺す。俺が生き残る可能性を掴み取るためには、最早それしか無い。
「——《潜幽斬禍》!!」
夜薙朧流の流派技、《潜幽斬禍》は発動の速い横薙ぎの技——に見せかけた二段構えの技だ。
ハッキリと目に見える刀は妖術で形作ったブラフであり、その影に隠れるように遅れて本命の一撃がやってくるという技で、その性質上、防御には使いにくいのだが……今回の場合はまた話が変わってくる。
リクドーがカウンターを狙いに来ていることはここまでの戦闘で理解した。それならば、俺が技を放った時、奴が狙うのは俺本体ではなく刀の方であるはず。
しかしその刀は幻のためカウンターは発動せず、そのまま体勢を崩した所に俺は致命の一撃を叩き込む。
奴だからこそ刺さる戦法というわけだ。
勢いよく突っ込んでくるリクドーに対し、俺は勝利を確信しながら刀を振るい——
「だから、眼は良いんですって」
——空を切った渾身の一撃と、背後からかけられた声。
振り向くよりも速く首に痺れが走り、そのまま俺の意識は途絶えたのだった。




