荒れる波すら
めちゃくちゃ投稿が開いてしまい申し訳ないです。急に上手く書けなくなってしまって……
どうにか隔日くらいでやっていきたいと思っているのでよろしくお願いします
「《インセグイレ・ラディーチェ》!!」
ベアトリーチェがそう叫ぶと共に、地面から木の根が多数現れた。
それらはベアトリーチェと相対する褐色の男——ビートを目指し、空を波打つように突き進んでいく。
細かな操作こそ出来ないが、ある程度の追尾性能を持つ攻撃だ。ただ闇雲に使うだけでも強力な技なのは間違い無いのだが……
「良い波だ。動きは硬いけど、荒々しい」
ビートは彼自身の妖術で作り上げた波から、サーフボードを巧みに操って木の根へと乗り移る。
そしてそのまま一息にベアトリーチェまで接近し、発生させた水による攻撃を行なった。
「く……っ!」
鋭く刀を翻し反撃を試みるが、斬撃はただ空を斬るのみ。
機動力の高い相手に対し、ベアトリーチェはリクドー同様に苦戦していた。
ベアトリーチェは最初、ビートの能力を「攻撃能力を持つ波を生み出して操る」というようなものだと思っていた。基本的にダメージを与えてくるのは波の方だったからだ。
しかし、この曲芸のような動きを何度もされれば流石に気づく。彼の能力の本質は波ではなくサーフボードの方なのだと。
サーファーが波に乗るように、ビートは様々なものに乗る。波かどうかは関係なく、動くものならば何でも乗りこなす。
それが彼の能力だった。
そんな能力を前に、ベアトリーチェは歯噛みする。根本的に相性が悪いのだ。
持っている遠距離攻撃は、ことごとくがそれほど速度の速くない攻撃であり、簡単に乗りこなされてしまう。
かと言って、近距離で戦おうとしても圧倒的な機動力でもってすぐに間合いの外へと逃げられてしまう。
「さて、どうしたものか……」
次なる攻撃に備えレイピアを構えたところで、不意にベアトリーチェにメッセージが届いた。
しっかりとビートを視界に捉えながら、素早くメッセージを確認する。
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D地形リクドー付近
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トーナメントに向けた練習段階で、ベアトリーチェの能力を使い地形を形成して立ち回るという作戦は繰り返し行っていた。かなり融通の利く行動で、安定して成功させられればかなり有利になるからだ。
その中で、D地形というのは謂わゆる袋小路のような地形構造のことで、敵の攻撃の方向を固定することでカウンターを成功させやすくするという風に用いる予定であった。
そんなわけで、メッセージで送られてくればすぐに作れるよう、ベアトリーチェ自身も意識はしていたのだが……
(この状況では難しいな……)
一度に操れる植物には限りがある。
地形は一度作ってしまえばそれ以降は操る必要がないため、その制限にはあまり影響しないのだが、それでも形成段階では攻撃の手を緩めなくてはならない。ビートを相手に猛攻を続けて渡り合っている現状では、それが痛手になり得る。
そう分かっていながら、彼女は地形生成のスキルを使用した。
「どうした、妖力切れかァ。ならこっちから行くぜ」
それによって生じた攻めの緩みは、当然気取られる。
大きな波音。勢いを増した波と共に迫るビートのサーフボードは鋭利で、ベアトリーチェは咄嗟にその直撃を避けたものの、水飛沫をかなり浴びてしまった。
視界の端から赤が迫り、HPがかなり削られた事を示す。そんなベアトリーチェに対し、ビートは更に攻撃を重ねた。
寄せては返す大波によってベアトリーチェのHPはじわじわと削られていき——やがて一際大きい歓声が上がった。
どこかで決着が付いたようだが、今の自分には関係ない。そう思ってベアトリーチェは技を使おうとしたが……
「……リーダー、やられちまったかァ」
霧深くなった方を眺めながら、ビートは呟く。
その言葉に、ベアトリーチェは横目でパーティメンバーのHPを見て、リクドーの生存を確認した。
上手くやったようだなと満足げに頷いて、戦闘続行だというように彼女はレイピアを構える。
しかし、ビートはサーフボードから降りて戦闘態勢を解除しているようだった。
「冠羽も……ダメそうだ。なら仕方ねェ。敵味方関係なく巻き込むんで控えてたが……普通じゃあ味わえねェ最高の波を教えてやるよ。精々楽しみな」
一方的にそう言って、彼はサーフボードに足を掛けながら指を組む。一部の妖術を使う時に必要な「印」という動作だ。
ベアトリーチェが妨害するよりも早く、ビートは印を結び終え、その能力を宣誓した。
「——《覆盥海瀑陣》!」
「ッ!」
一瞬で変化した周囲の光景に、ベアトリーチェは思わず息を飲んだ。
前後左右、フィールドの外周に現れた巨大な波は、怪物の唸り声のような禍々しい波音を立てて迫ってくる。
「成る程……確かにこれでは敵味方関係ないな——《ペルフェットムーロ》!」
ベアトリーチェの周囲に、一瞬で木の根の防壁が形成される。
根は地形形成の時とは比較にならないほどの密度で絡み合い、ギチギチと音を立てながら完全なる壁を作り出した。
しかし、ベアトリーチェの持つスキルの中で最も高い防御力を誇るこのスキルを使ってなお、彼女は本能的に察知していた。
この壁では力不足だ、と。
程なくして、波が壁を襲った。メキリと音を立てて、壁の一部がひしゃげる。
その部分を補強するように、ベアトリーチェは続けてスキルを発動していった。
攻撃はこれだけでは終わらない。この波は引く事なく押し寄せる。
その度に防壁は嫌な音を立てて、徐々にその隙間を広げ、水の侵入を許していく。
「くっ……防ぎ切れないか……!!」
ごく短い時間の中で行われた大質量の攻防の後、彼女の内に眠る妖力が、遂に底をついた。
同時に壁が砕け散り、ベアトリーチェを守るものは完全に無くなる。
荒れ狂い押し寄せる大波を目前に、彼女は敗北を覚悟し――
「——ッし!! 間に合った!!!」
その寸前、刀霊と共に上空から滑降してきた龍子によって空へと救出されたのだった。
「龍子! ……と、リクドー!?」
龍子と共に刀霊に抱えられたリクドーは、目に見えてボロボロだった。
死体では無いようだけど、死にかけなのは間違いない。
「一応生きてる! バイク野郎との戦闘で大分消耗したみてーだけどな!」
「……あ、ベア……大丈夫ですか……?」
「完全にこっちのセリフなのだけど……私は平気さ」
「良かった……」
そう言って、リクドーは安堵の笑みを浮かべた。
「さあ、さっさと終わらせようぜ。能力制限のせいであまり長くは飛んでられないからな……おい、そこのサーファー、遺言があるなら聞いてやるけど?」
「あー……飛ぶのはズルくねェ?」
「言ってろ。そうでもしなきゃ勝てねー能力使いやがって」
その言葉を皮切りに、龍子の刀霊は飛行速度を上げ、荒れ狂う大波を眼下に空を進む。
そうしてビートの上まで来てから、一気に急降下した。
自由落下よりも速い急降下の中、龍子は刀を構える。
それに対し、ビートは波を操ってサーフボードの位置を高くし——次の瞬間、刀とサーフボードが激しくぶつかり合った。
龍子の刀霊による下方向へのベクトルと、ビートの波による上方向へのベクトル。
それらが強く拮抗しせめぎ合う中、ビートはふと気づいた。……ベアトリーチェがいなくなっている、と。
「タンデムは初めてかい?」
「!?」
背後から急にかけられた声に、ビートは振り向く。
果たして、ベアトリーチェはサーフボードに立っていた。
いつの間に移動したのかというと、龍子の刀がサーフボードに触れる寸前だ。
太陽の光によって逆光となり、更にビートの意識が龍子の刀に向けられる瞬間、ベアはサーフボードに飛び移ったのだ。
「……はァ、こんなのは初めてだよ」
「そうか。私もだ」
諦めたようにため息をつきながらも、ビートは素早く反撃しようとしたが――ベアトリーチェの一撃はそれよりも疾く、ビートの喉元を掻っ切ったのだった。




