dope!!
「そういえば、そのPvPイベントってどういう感じなんですか?」
「戦って勝つ」
「いや脳まで筋肉ですか。PvPについてはわかってるんですよ」
「まあ、シンプルなトーナメントだぞ?」
そう言って、龍子は説明を始めました。
「サシで戦う個人戦と3vs3で戦うチーム戦があって、それぞれ制限の有無で部門が分かれる。つまり全部で四つの部門があるってことだ。正直言って制限なしはステータス差があるからしんどいだろうし、神龍寺も制限ありルールを選ぶとは思う」
「なるほど」
まあ、わざわざ強いほうに行くとは思えませんし。
というか制限なしを選ばれたら私自身神龍寺と対戦する前に他のプレイヤーにやられてしまいそうです。
「ちなみに観客の数に違いとかあります?」
「制限なしの方が人気は高いけど、制限ありでもそこまで変わるわけじゃないからその辺は問題ないんじゃねーかな。試合の時間もかぶらねーし」
「ですね」
「あとはまあ、皆伝能力も使えなくなるな」
「皆伝能力……ってなんでしたっけ」
「まだ全プレイヤーの中で数十人しか会得してない、現状の刀霊が到達できる最強の能力ってやつだ。こんなところで皆伝能力を明かす人間はいないだろうから、これはまあ気にしなくてもいいけど」
全プレイヤーの中で数十人……このゲームってプレイ人口どのくらいなんでしたっけ。確かアクティブユーザーは数十万人いたはずですし、そう考えると大体一万人に一人って感じですか。
本当に選ばれし廃人って感じですね。
「それって奥義とは違うんですか?」
「ああ。奥義はまた別のだな。ややこしいところなんだけど、奥義は刀霊の成長に伴って解放される必殺技的なやつで、皆伝っていうのは刀霊そのものが次の段階に進んだもの……って感じだ」
「なるほど……やっぱ皆伝の方が強いんですよね」
「まあな。奥義は分かっていれば対処のしようがあるものが多いけど、皆伝はわかってても相性的にどうしようもなかったりするからな……ふたばとか……」
龍子は遠い目で呟きました。
なんかトラウマをえぐってしまったっぽいです。……というか数十人しかいないような相手と戦ったことあるんですね。
確かに龍子は強いとは思いますけど、思ったよりも人脈が広かったりするんでしょうか?
「大丈夫ですか?」
「……あ、ああ。ちょっとフラッシュバックしてたわ。にしても、もう奥義覚えたのか?」
「いえ、昨日一緒に戦った人が使っていたので」
「そういうことか。そういえば動画でも使ってたな。やたら強い一撃だと思ったけど、やっぱり奥義だったか」
デメリットも大きいですが、その分威力の高い攻撃でした。
話を聞く限りでは皆伝よりは全然だれでも会得できるようなものらしいので、私も目指してみたいですね。もちろん、最終的には皆伝にも到達したいですけど。
と、そんな風に話していると、室内にログインのエフェクトが現れました。
パーティクルの渦は次第に像を結んで、アバターに変わっていきます。
そのような感じでログイン処理が終わり、現れたのは彩音でした。
「おはようございます、彩音」
「よっ」
「お、おはよう……っ」
ログインしてきた彩音は、少し落ち込んでいるようでした。
笑顔もどこかぎこちないです。
「……そうだ。まだクエストの報告していませんでしたよね。これで仇討人にもなれるでしょうし、行きましょうか」
「う、うんっ」
「というわけなんで、ちょっと行ってきますね」
「おう。こっちも丁度配信始まったみたいだから誘導しておくぜ」
「ありがとうございます。じゃあ、まずは討伐組合の方ですね」
――――
というわけで、討伐組合の方で依頼達成の報告をして報酬を受け取ってきました。
係員の人の話では、どうやら先に志柳が来ていたようです。報酬はそれぞれが受け取れるシステムのようですね。
志柳とはもう一度会いたいなとも思うのですが、フレンド登録などはしていないので連絡手段がないんですよね。
まあ、続けていればいずれ会えるでしょう。
さて、そのまま私たちは本来の目的地である影業所へとやってきました。
妖術的迷彩の施されたボロ家に足を踏み入れ、前と同じくスキンヘッドの男に声をかけます。
その前にちょっと名前を見てみたのですが、渦村義堂というようですね。仇討影業所神織支部長という肩書もありました。思ったよりも偉い人だったようです。
「こんにちは」
「ん? ああ、一昨日のか。どうだ、条件は達成できたか?」
「ええ、これで大丈夫ですよね」
二人で討伐組合のカードを差し出しました。
しっかり「初段」と記されています。
「おお、まさかもう達成してくるとはな。いやまあ、アンタは別に初段になる必要もなかったんだが……まあいいや。登録してくるからちょっと待ってな」
そう言って、彼は店の奥に消えていきました。
「さて、これで仇討人になれますね」
「……う、うん」
……やっぱり元気ないですね。
昨日の負けが響いているのでしょうか。
まあ、彩音なりに思うところがあるのでしょう。私は「ヤローテメーぶっ殺ーす!」って感じで復讐の原動力にできますけど、そういうタイプの人って普通に少ないでしょうし。
どう声をかけたものかと考えていると、不意に扉が勢いよく開け放たれました。
「やっほー!!! あれ? もしかして新人さん!? ようこそ~!!」
そんなふうに大声を上げながら、金髪の女性が勢いよく駆け寄ってきます。
駆け寄ってくるというか、もう思いっきり突進してきてるんですけど……。
そのまま激突しそうだったので、ちょっと能力も使いつつ避け――
「あっはー!」
「!?」
寸前でフェイントをかけるかのような動作をして、彼女は私たちに抱き着いてきました。
まさかの動きになすすべもなく、彩音と一緒にもみくちゃにされてしまいます。
「くっ、苦し……」
「おいおい、その辺にしときな」
「は~い!」
いつの間にか戻ってきていた義堂さんが、謎の女性を引きはがしました。
「えっと……」
「わたし、どーぷ・えんじぇる! どーぷさんでいいよ~」
ぱたぱたと手を振って、彼女は笑顔で言いました。
なんかふわふわした感じの人ですね……何者なんでしょうか。
私の表情からその疑問を読み取ったのか、義堂さんが答えます。
「ああ……こいつはウチで一番の仇討人でな。御覧の通り滅茶苦茶なやつだが、腕は確かだ」
「よろしくね~!」
どーぷさんは滅茶苦茶なやつと言われているのを意に介さず、私たちの手を握ってぶんぶん振り回していました。
本当に強い人なんでしょうか……?
「まあ、こいつのことはどうでもいいんだ。アンタらの登録が済んだぞってことを伝えに来たんだよ」
「ああ、そうでしたか。なんか免許証的なものとかあるんですか?」
「討伐組合みたいに物理的な証はないが、仇討人は全員黒い星の模様を体のどこかにつけることになっている。こんな感じにな」
そう言って、彼は力こぶを作るような形で腕を見せつけてきました。
その二の腕には、黒い星印が刻まれています。星型というのでいわゆる五芒星的なものをイメージしたのですけど、彼の模様を見る限り、ひし形を二つ組み合わせたような、十字型の星のようですね。
四芒星形……という言葉があるのかは知りませんが、まあそんな感じです。
わかりやすい星型とは別の形なのにそれそのものを表す言葉がないの、とても不便ですね……。
まあ、それは置いておいて。
「何処につけましょうか……」
展開されたウインドウには現在の自分の姿が映っていて、自由に星型の場所を選べるようでした。
大きさもある程度は自由が利くようです。
「どーぷさんはどこにつけてるんですか?」
「わたしはね~、ここだよ~」
そう言って、彼女は舌を出しました。その表面には、黒い星型が入っています。
なんか……こう…………性的ですね。
――お前キモいぞ……。
雷神さんが念話を使ってドン引きしてきました。ただの気の迷いですから放っておいてください。
「ちなみに、一番多いのは手の甲だな」
「じゃ、じゃあ、わたしは手の甲にしようかな……」
「私は右眼にします」
ここまでさんざん目に関する能力が開花してきたわけですからね。ちょっとオッドアイみたいになりますし、眼にしようと思います。
「おう。じゃあ、さっさと終わらせるぜ」
義堂さんが、黒いオーラをまとった手を私の右眼にかざしました。
「よし、できたぞ」
「あ、これで終わりなんですね」
「模様付けるだけだからな」
すぐに彩音も手の甲に模様をつけ終えて、これにて私たちは名実ともに仇討人となりました。
ステータス欄にも仇討人を表す黒い星型のマークが追加されています。
「本当ならここで適当な依頼でも回してやりたいところなんだが、あいにく今はアンタらに頼めそうな依頼がなくてな。また暇なときにでも来てくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
「あっ、ありがとうございます……」
「じゃ、帰りましょうか」
「ねえねえ、ちょっといいかな?」
「……? どうかしましたか」
どーぷさんが私たちを呼び止めました。
……いや、目線的に用があるのは彩音みたいですね。
「きみ、結構悩んでるよねえ~?」
「えっ、えっと……」
「んふふ~わかるなあ。回復特化の刀霊持ちは悩むよねえ。でも大丈夫だよ~、悩めば悩むほど、刀霊は強くなってくれるからねえ~」
アドバイスって感じですね。
……ん? 聞き逃すところでしたが、何で彩音の能力を知ってるんでしょうか……。
もしかして彼女も昨日の配信を見たのでしょうか。となると私のことも……ああ、体調が悪くなってきました……。
「わたしも同じだったからね~。でも、どうしようもなくなったらまたここにおいで? わたしがいくらでも悩み聞いてあげちゃうから!」
「あ、ありがとうございます」
よくわからないのですが、彩音が落ち込んでいる理由に関係していたりするんですかね?
まあ、頼れる先輩というのも必要な存在でしょう。なんとなく彩音は龍子を怖がっているようですし、ベアも隙あらば口説いてきますからね。
そんな感じで新たな出会いもありつつ、私たちは影業所をあとにしたのでした。
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