紡ぐ糸
ちょっと投稿が開いてしまって申し訳ないです
影業所を出てすぐに、彩音が私を呼び止めました。
「リクドーさんっ、わたし、修行してくるっ!」
「修行?」
「うんっ」
修行……ですか。
レベリング的な感じでしょうか? まあこのゲームにはレベルの要素はないんですけど、戦闘を重ねればステータスは上がりますし。
「私も手伝いましょうか」
「う、ううん。手伝ってほしいのは、それはそうなんだけど……でも、一人でやらないといけなくて……」
「そうですか。……理由を聞いても?」
そう聞くと、彼女は少しの間逡巡するように目線を泳がせて、それから、正面から私の目を見て言いました。
「この前負けちゃって、それで……思ったの。もっと強くなりたいって……。わたし、回復能力だけしか持ってないから……」
「それでも充分助かってますよ」と言おうとして、躊躇います。
こういうのは、周りがどう思っているかではなく、自分がどう思っているのかが大切なのですから。自分の在り方に納得できなければ意味がありません。
おそらくは、それ故に彩音は悩んでいて……先ほどどーぷ・えんじぇるに言われた言葉によって、何か掴んだのかもしれません。あるいは、吹っ切れたか。
どちらにせよ、彼女は成長するはずです。
「わかりました。それなら、私がでしゃばるものでもないでしょう」
それから、一言付け加えます。
「期待して待ってますから、思いっきりやってきてください」
「うんっ!」
笑顔で返事をして、彩音はどこかへ去っていきました。
さて……これは私も頑張らないといけませんね。
もし計画がうまくいってトーナメントに参加することになったとして、初戦敗退なんてことになったら目も当てられませんし。
まあ、まずは小手先の強化をしてしまいましょう。
私は一度同盟拠点を訪れて、保管していたアイテムを回収してから藍路へと転移しました。
――――
「いらっしゃいませー! あっ、リクドーさん! お久しぶりです!」
「久しぶり……ってほどでもないような気がしますけど」
「そうでしたっけ? 工房にこもりっぱなしなんで、日にちの感覚がなくなっちゃうんですよね」
装備屋デスドレインの店長、レアメタルは、そう言って頭をかきました。
いかにも彼女らしい理由ですけど、リアルは大丈夫なんでしょうか? まあ一日のほとんどをこっちで過ごしている私が言うのもどうかと思うんですけど。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「えっと、これをアクセサリーにしてもらいたいんです」
インベントリから[雷神石の欠片]を取り出して、レアメタルに渡します。
彼女はそれを一目見て、すぐに答えました。
「これ、特殊なアイテムみたいですね……システム的な保護がかかっているので直接的な加工はできませんけど、そのまま指輪にするくらいならできると思いますよ!」
ああ、やっぱりイベントアイテム的な扱いになっているようですね。
まあ当然と言えば当然ではあります。そう簡単に加工できるようなものではないでしょうからね。
とりあえず身に着けられる形にしておきたいなと思っただけなので、指輪にできるのなら問題はありません。
雷神石の欠片は彼女が言った通り指輪にしてもらうことにして、それから私は、もう一つのアイテムを取り出しました。
「……で、こっちが本命なんですけど。前に言ってた銀餓狼のベースになる素材、これで行けますか?」
「どれどれ……おおっ、[黒夜叉の心核]ですか! 本来なら相性の良い素材ではないんですけど……そこは私にお任せください! いい感じに仕上げますよ!」
どうやら問題なかったようです。正直言って、こんな宝石みたいな素材から防具を作れるのだろうかという懸念はあったのですが、まあゲームですからそういうのはある程度無視できるところなのかもしれませんね。
さて、これで一先ずの目標は達成できたのですが……
「あの、作業するところを見せてもらったり出来ますか? 邪魔にならないようにするので……」
「勿論です! デザイン面も決めないといけませんから、いてくれるとこっちとしてもありがたいです!」
私の申し出に、彼女は快くうなずいてくれました。
やっぱり自分の装備ですからね。単純に生産職がどのような感じなのかも気になったというのもありますが。
「それじゃあ、工房に案内しますね! まあすぐそこなんですけど!」
店内の奥の扉を開けた先の部屋には、糸車や染色剤らしきものが置かれていて、確かに工房のようになっていました。
窓のようなものが一切ないので、確かにこの中にいたら時間とか日にちの感覚が狂うのも無理はありませんね。
その部屋の中央に置かれた大きな机の上に、黒夜叉の心核や銀餓狼の素材を並べてから、彼女は刀を抜いて能力を発動しました。
「さあ、今日も張り切っていきますよ! 『紡ぎ針』!」
瞬間、刀はみるみるうちに縮小していき、最終的に小さい針へと変化しました。
こういうのもあるんですね……これ、戦闘に使えるんでしょうか?
その疑問を察したのか、彼女は自身の能力について説明してくれました。
「これは素材を作るときの形ですね! 『紡斬嵐』って名前で呼ぶと、長い針みたいな刀になりますよ!」
「使い分けられる刀ですか……初めて見ました」
「生産系能力のある刀だとこういうものも結構あるんですけど、そもそも刀霊の能力まで生産職っぽくなることが稀ですから、普通に遊んでるとなかなか見ないと思います」
なるほど。確かに生産職やりたくて<虎狼 零>をやる人ってあまりいないでしょうし、そもそもの人数が少ないんでしょうね。
「じゃあ、やっていきますよ!」
えいっ! と声を上げて、彼女は針を[黒夜叉の心核]に突き刺します。
その瞬間、黒い宝石のようだった心核は糸のようになってしまいました。
「これは……?」
「貫いたものの防御値が一定以下のものなら糸にできるっていう能力です!」
「なるほど。……あの、これって人体にも効果あるんですか?」
「人の場合は防具が邪魔になるので一発では無理ですけど、何回も攻撃していればそのうち糸にできますよ!」
「おおう……」
なかなか凶悪な効果ですね……生産というか普通に攻撃面でも滅茶苦茶強い気がします。
「さあ、素材も用意できましたし早速作っていきましょうか!」
袖をまくって、ものすごい速度で装備を織っていくレアメタル。
私はその様子を後ろから眺めながら、かなりの頻度で飛んでくる質問に答えることに専念したのでした。




