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秘められた紫  作者: みすみいく
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初歩

 長い物語の始まりです。6歳だったアウルは22歳に、泣き虫アレンは21歳になっています。彼等は若き政治家として、政変に着手します。

 彼等の奮闘と、愛の形をご覧下さい。

 その日、登庁するために都心のアパートから、市街地の小高い丘の上に有る内務省の庁舎を目指して車を走らせて居た。インカムに着信。


 「はい」


 かけてきたのは俺の上司、シェネリンデ王国の現国王、マルグレーヴの双子の弟で、コンスタンツ・アウロォラ・フォン・オルデンブルク。

 シェネリンデの公爵閣下だ。


 こう呼ぶと彼は怒るんだが…


 「アウル。ロォア橋の手前ですよ。ええ、間もなく。何です?!また?!怪我は?!良かった…判りました。車両部に回って指示してから伺います」


 2本目。


 「はい。ああ、爆弾だそうだな。アウルに聞いた。被害は?!何よりだ。其方へ向かっている。迂闊に触れるな。処理班の到着を待て。2~3分で着く」


 3本目。


 「はい。おはよう。クロルが?!こんな時間にか?!…車両部に回ってから行く。エマージェンシーだ。待たせて置いてくれ。頼むよ」


 何かトラブルだなと舌を打ちつつ、専属の補佐官とも言うべきエドナとの会話を終えた。

 車は内務省の、東門から入った直ぐに設けられた車両部の建物の前に着いた。降りると所員が走り寄ってきた。


 「伯爵。おはようございます」


 庁舎に備えている車両の内、主に内務省の主、オルデンブルク公爵の公用車として使っている3台が、今朝の始動前点検で爆発物が仕掛けてあるのが判明した。

 昨日の担当者が、退所した時と様子が変わっているのに不信を覚えて判明したのだ。


 「こいつはドアのフックに手をかけて引くと、破裂します。もう一台はイグニッション。あっちは、サスペンションに加重がかかると通電する。全て別の方法とは…手間をかけたもんです」


 車両部のチーフが渋い顔で報告した。


 「なるほど。だが、これは嫌がらせだな。アウルの暗殺を狙うなら運転手付きの車を始動と同時に爆破しても意味が無い」

 「仰るとおりです」

 「ですが、伯爵。それ以上の問題は、これだけの細工をする時間を与えてしまったことです。私の失態です申し訳ありません」

 「…相手が悪かったんだろう。シュバルトの噂を聞いているか?!」

 「はい。ここの所、方策が変わってきていますから」

 「阻止方法を多角化する。警備との連携を考えてくれ」

 「はい。とにかく隅々まてチェックをやり直さねば閣下にお出まし願う訳にはいかなくなりました」

 「尤もだが、確か今日はフランス大使公邸でレセプションに出席のはずだ」

 「あ…」


 自分のテリトリーを犯された事に相当ショックを受けたらしい。アウルの予定を失念しているとは。


 「俺の車を使う。公用車では無く迎賓用の車庫に入れて警備を付けて置いてくれ。そちらへ連絡を入れさせる。すまない。インターセプトがもう1件入って居るんだ。後を君に一任する」

 「承知致しました」


 それぞれの仕事に戻りかけた俺達の前で、公用車の点検をしている所員達の何とも気楽な与太話が耳に入ってきた。


 「いつも一緒だもんな。姫君並のシャンだしな。伯爵と一緒だとエスコートされてるみたいなんだよなぁ」

 「旨いこと言うなぁ」


 俺にエスコートって、話していたのはアウルの事だが…

 「おい!てめーら…」


 俺では無く、チーフが遠慮の無い軽口を嗜めた。


 「あの方を姫君だなんて言っててみろ。とんだ事になるぞ」


 ああ。やっぱりアウルの事か、姫君って…。


 「あっ!ボス!伯爵。申し訳ありません。悪口で言ってるんじや無いんですよ。公爵閣下って凄い綺麗だよなって所から出た話でして…」

 「俺、前に伯爵とご一緒の時にお見掛けして、男に使う形容じゃ無いと思うんですけど、あんだけ徹底されると男も女も関係ないっすね。俺達とは違う人間って感じで」

 「んで、姫君だなって。伯爵なんて困るっしょ。あんな綺麗な顔を毎日拝んでると、女に手が出なくなって」

 「んな事無いだろ?!3日にいっぺん違う美女とゴシップに乗ってんだから。ね?!」


 俺に言う。チーフがまじまじと見る。

 ああ。そうだよ。悪いか?!。

 呆れたように眼を丸くしつつ、部下に向き直った。

 

 「お前らがあの方を姫君だなんて嬉しがってる馬鹿者だと知られたら、首と胴が生き別れってな事になっても知らねえぞって言っているんだ」


 と言いつつ、手刀で首をちょんっと切って見せた。


 「あの方はな、ここの所滅多に表に出てお出でにならないが、俺がここに配属になった頃は、恐ろしい勢いで人を切っていらした」

 「かく言う俺も、前任者を切って俺にすげ替えられたんだが、前任者も、悪人でも能力がそれ程劣る訳でも無い。だが、公は彼に先が望めなかったと仰った」

 「今ここで自分が望む改善策を出し得ない者だとな」

 「きびしー」

 「ホントですか?!」


 おずおずと恐ろしそうに聞く。


 「切られた方にも生活が有る。面子も、でも、そこの所を判らずに切ってらっしゃる訳では無い。俺にはその方が恐ろしくてですね」


 俺を振り返り、同意を求めて彼の口は閉ざされた。


 「確かにな。目的に沿ってやらなければならない事は必ず実行に移す。どんな相手で有ろうと容赦がない。だが、それは彼自身に対しても同じなんだ」


 俺が言うのを聞いて、ポカンと口を開けた2人が青くなった。


 「それって怖い」

 「逃げ場が無い…」

 「解ったら、公に滅多な事を言うんじゃ無いぞ」

 「だしな…公は国王陛下の双子の弟君だぞ!解ってんのかてめぇらは!!」

 

 怒鳴られて2人は大慌てで逃げていった。

 主任、話の筋が違う。


 4度目の着信。


 「はい。ああ。直ぐ行く。後を頼んだぞ」

 「あ、俺がお送りします。そのままお預かりしますから」

 「悪いな。手間をかけて」

 「いいえ。今現在の俺の最重要課題です。当然の事ですから…にしても伯爵。ご苦労な事ですな」


 後部座席に着きかけて、彼の言うのがてっきりアウルの恐ろしいの延長かと思った。


 「俺は別に、君が言うほど恐ろしいと思った事は無くてね。鈍いのかもしれん」

 「あ、いえ、当然、伯爵は公を怖がる訳が無い。俺が言うのは、ここの責任者を公から引き継がれるのは大変だなぁ…と。違いましたか?!」


 驚いて顎が落ちて暫くは声が出ない。


 「…何だそれは?!どこからそんな話が出てるって?!アウルが俺に後を譲って何処へ行くって言うんだ?!」

 「え?!あ、いや。公が担当してらしたものが、次々に伯爵に切り替わっていってるんで…てっきり…所員どうしで話に出ただけです。外には漏らして居ません。信じて下さい。…あの…伯爵?!」


 相手の狼狽えかたにようやく少し自分を取り戻した。


 「ああ…すまない。そう言う見方も有ったのかと、びっくりしただけだ。俺がアウルにとって代わるなんて予定は、俺は聞いていない。ポストの移行は彼が…」


 自分で言いながら、胸の奥がずきりと痛むのを感じていた。アウルは何か俺に言わずに、計画を進めていると言うのか?!ここを俺に引き継いでどこへ…。


 「庁舎ですが…伯爵?!」


 その時俺は、随分妙な顔をしていたんだろう。アウルの真意を測りかねて、不安に居たたまれなかった。

 

 「妙なことをお聞かせした様で…すみません。俺達の与太話の結果ですから、気になさらんで下さい。では、車はお預かりして行きます」


 「頼む」


 今の俺にはきつい一撃だった。

 アウルが俺を置いて行く?!

 ふぬけたように成っていただろう顔を、深呼吸で切り替えて、庁舎に入った。


 俺が所属している内務省の入ったこの建物は、故15代オルデンブルク公爵の時代、今からざっと15年前までは、公爵家の夏の居城だった。


 俺がアウルと呼んでいる当代の公爵は、もう少し北の以前は離宮だった所に、居を移している。一次大戦の頃には一時王宮として使われた所だっただけに、広さも設備も十分だった。


 俺の執務室は2階の北翼、アウルのは南の元は主寝室だった所を、改装して使っていた。

 ほぼシンメトリーに成っている城館の、中央に有る昔ながらの扉は今は常時半分開け放たれていて、出入りする度に案内を請う必要は無いが、警備の会釈と言うチェックは受けて通る事に成る。


 「おはようございます」


 声を掛けてきたのは、警備担当首座のカール・スタウトだった。


 「おはよう。事件の時意外に顔を合わせたいな」

 「全くです。おまけにここの所頻繁ですしね」


 渋い顔で言う。


 「インターセプトがかかって居るんだ。説明している時間が無い。車両部のチーフと話し合って、今日の段取りを作り直してくれ。午後からのレセプションには予定通り出席する」

 「判りました。伯爵は?!公の所へ?!」

 「そのつもりだ」

 「何事も無くて幸いでした」

 「全くだ」


 カールと別れて逢う人ごとに、告げられる挨拶に会釈を返す合間に、アウルに連絡を入れる。秘書のルィザが対応に出て、アウルの声を聞くまで、俺の胸は痛み続けた。


 「アレン?!」


 少し眉をひそめたくなる程の痛みと共に、アウルの声を聞いた。乾いた、ひんやりとした感触の何時もの声だった。


 「また何か有ったのか?!」


 怪訝そうに聞かれて我に返った。


 「あ、いいえ。車両部の方は今日いっぱいかかるでしょう。レセプションには俺の車を使って下さい。迎賓用の車庫に入れて、張らせてあります」

 「お前が付き合え。」


 当然の様に返って来た応えに、思わず返事をした。


 「はい。」


 通話を切って、少し落ち着いている自分に気が付いた。アウルが俺にレセプションに付いてこいと言う。

 俺へのスタンスが変わっていない事を感じて、ほっとしていたのだ。


 アウルとの打ち合わせの後、待たせ続けの俺の秘書に会って、学生時代の友人であるクロルが、朝早く俺のオフィスを訪れた訳を聞くために急いだ。

 

 アウルの執務室の反対側に位置している俺のオフィスでは、秘書のエドナが待ち構えて居たように、鼻先でドアを開けた。


 「伯爵!お早く!!」


 怖い顔で急かす。


 「今俺が一仕事熟して来たのを知ってて、そんなに急かすわけ?!男なんて、仕事させるだけさせられる使い捨てだと思って無い?!まぁ、君くらいの美女だと当たり前なんだろうけど?!」


 あ、しまった。これがゴシップの元か。


 「まぁぁ…伯爵ったら…」


 ほわっとなりかけた頭を振ると、優秀な秘書殿は、その職務を思い出して俺を睨んだ。


 「お悪戯をなさっていると、お仕置きを致しますわよ。とにかく中へ」


 中に入るとグラヴゼル時代の悪友が待っているのが眼に入った。ただ、その顔は、見たことも無いほど憔悴にしおれていて、持ち込んだ問題の大きさを物語った。


 そいつは工作機械の設計担当として、国内の企業で若くして辣腕を振るっている奴だった。


 アウルと俺が、この国の抱えている、経済的に自立出来ないと言うジレンマを解消すべく、新事業を興す準備をしていた頃、率先して助力を惜しまなかった。


 長く国の基幹産業であった農業と観光で、人々は生計を立てて来た。これを軸に、彼等の形態を大幅に変えること無く、新たな産業に組み込んでいかなけらばならない。


 一次産業に毛が生えた程度だったものに、その物のみで利益を生む機能を持たせる。その、まだ、形に成らない黎明期に、俺は彼に話を持ち掛け、彼は乗ってくれた。


 「俺はグラヴゼルでは成績が悪くて、とても国家の為にと言える様な人間じゃ無い。だが、お前の手助けをさせて貰える事になるなんて」


 謙遜の言葉とは裏腹に、これまで十分過ぎるほど役立ってくれた。だが、事態は余りにも深刻だった。


 「減産分までかぶれと言うのか?!」


 彼の部下が担当していた香料プラントが、3月も前から50パーセントもの減産に追い込まれて居るという。

 前にも言ったが、この事業には一次産業従事者の低所得層が、多く関わって居る。事業が立ちゆかなくなれば直ちに生活が成り立たなくなる。


 まだ事業を立ち上げたばかりで、管理も何も彼に一任していたこちらの落ち度も有るわけだが、如何せん、知識を持つ人材が育たなくては、管理のしようも無い。

 世話をかけている彼の所から、ヘッドハントと言うわけにもいかない。

 ようやく研修を終えた所員が、今月から着任しているが、まだ、報告は、上がって来ていない。


 「すまない。いや、保険で減産分の補填は出来る。だが、ハードが耐久年数を大幅に上げてしまっていて…何としてもメンテナンスをしっかりやって、通常の交換に近いところまで持たせる」

 「だから…お前から公爵に、口添えをして貰うことは出来ないだろうか?!頼む!こいつはまだ仕事を始めたばかりなんだ。俺の監督不行き届きで、事ここに至ったと思っている。こいつの将来のためにも、どうか…」


 友に頭を下げられる事に抵抗は無くても、下げることには抵抗が有るはずだ。ましてや、彼は俺と同級の友だった。対等で居たいと思う相手にこれ程に…


 だが、俺には上司が自分のために三拝九拝しているのに、形だけ頭を下げたきり、悪びれもせずにいる部下の方が気になった。彼には悪いが、こいつを何とかしようという気にはなれないぞ。


 「君の頼みだ。アウルに言っては見よう。だがな…」


 アウルの返事は案の定。


 「否。君の要求を飲まねばならないいわれが無い」


 にべもなく言い切った。

 取り付く島もない様子に、ただ下を向いている彼等に言いつのる。


 「無論、ハードは全交換。その際の撤去、運搬、設置、その他の諸費用。加えて、再稼働までの休業補償、それに…今後の取り引きは半年後の状況を確認の後判断する事とする。こちらの要求に不条理があるかね?!」


 淀みなく言いの退けられて、俺の友人は膝に置いた手を握りしめ、言い募られる間に、自分のしでかした事の波紋の大きさに、それまで悪びれもせずにいた奴が、オロオロと身の置き所も無い様子で狼狽え始めた。


 「いいえ。全く」


 思い切ったように友が言い。慌ててそいつが言う。


 「部長!俺が…俺が辞めます。貴方のせいじゃ無い!俺が下らない意地張って、仕事を舐めてたから…」


 終わりは涙声になるのを聞いて、俺はアウルに叱責を食らう事を覚悟で、敢えて切り出した。


 「アウル」

 「伯爵。もう…」


 余計な事を言い出すなとアウルの目が睨むのを見て、友人が止めに入った。


 「事業を始めた頃、俺は彼に随分無理を言いました。彼の貢献に対して、いくら何でもこれでは…仁義ってものが有るでしょう?!」


 彼の俺を見る、翠色の眼の中に、今までとは違う色が浮かぶ。


 「お前は、では無く、こちらはだろう?!仁義に悖ると言うならば、失った信頼を取り戻してからの話だ」


 極めて冷静だったその顔に、仄かに血の色が指してきて、俺の好奇心が頭をもたげた。


 「監視体制を確立せずに事を急いだ此方にも非は有る。他のことはともかく、業者の交代は有り得ません」

 「ノウハウを一から作り直す必要が有る。担当者は居るが昨日今日研修を終えた者に手に負える事じゃ無い。以前のように俺が担当する事も不可能です」


 「そんなことは百も承知だ。お前に言われる迄も無い。だがな、事業はとうに私の手を離れて国家レベルのプロジェクトの一端だ。コンスタントな実績は不可欠なんだぞ!!」


 「誰のためのプロジェクトです?!国民の大多数が、現在の生業を崩さずに済むようにと考えられたはずでしょう?!これじゃ本末転倒だ!!」


 「もういいっ!!止めてくれ!!」


 悲鳴のように叫んで、クロルが割って入って、俺は、我に返った。

 

 「公と君が反目する事態に成るのなら、其れこそが本末転倒だろう?!俺の首で済むならそれで良いんだ」


 全く、人の良いのも程が有る。状況を自分の好奇心の解消に費やす俺と、庇って貰っていても屁とも…でも無いか、さすがに目を見張った成り自失している。


 部下の様子を見ていた俺と同様、アウルの目も変化を見定めていた。


 「反目?!俺とアウルがか?!」

 「…違うのか?!」


 呆気にとられつつも、露骨にほっとした様に息を吐く友に、俺も、本音はアウルに聞いてみたい事なんだと、思いながらも続けた。


 「違うって何が…」

 「もう良い。分かった」


 うんざりしたようにアウルが言う。


 「こちらにしても、一から始めていては、シェアの喪失を招く。そこでだ、クロル君、君が上手くやるんだ」


 えっ?!


 「私が…ですか?!」


 驚いた友の声が聞く。


 「そう。君は私を説き伏せて、社に降りかかる損失を半分で済ませたんだ」


 その反転の早さに、絶句した。

 くそ、いつの間に。


 見てのとおり、俺とアウルの間にはとんでも無い力量の差がある。取って代われる訳が無い!!


 ちんぷんかんぷんの2人を連れて、アウルの元を辞して、俺の執務室に戻った。資料を見せながらでなくては、納得させる自信が無かったからだった。

 案の定、資料を前に説明しても、容易に理解して貰えなかった。


 「分からないかな?!アウルの言うのは、現在の施設の直ぐ横に、全く同じ施設をもう一つ作ると言う事だよ。補償を金で、つまりは保険金で支払えば、ほぼ100パーセントの損失だが、自社開発の製品なら30~40パーセントの損失で済む」


  ここまで説明しても、まだ釈然としない顔で聞く。


 「それは理解できた。だが、其れでは公はなぜ休業補償の請求を取り下げるんだ?!やっぱりお前に免じてか?!」


 ビジネスの上でアウルが俺に甘さを見せて、要求を呑むってか?!そんなことなら悩みはしなんいだよ!!


 「俺じゃ有るまいし。アウルは仕事に私情を差し挟まない。傷んでしまった設備は撤去し無いんだ」

 「そう…か、施設が2個所残る」


 溜息と共にそう言うと、呆気にとられた顔をつるりと撫で、呆然と、だが、何処かに興奮を秘めて友人の顔が輝いてくる。そう、其れがさっき、俺をアウルに食い下がらせた理由だよ。


 「そう。50パーセントの減産=50パーセントの増産さ。新規分を加えると、150パーセントの生産体制が敷かれることになる」

 「もう一つ、減産に至っているとは言え、撤去し無い場合、生産は継続される。休業補償の必要も無い」


 其れまで気づかなかった事実に次々にゆき当たっているはずだった。


 「その上、例え、設備投資紛いになると判っていても、撤去、と言われたときの費用、休業補償を合わせて考えれば黙らざるを得なくなる」


 「で?!」


 むずむずを我慢している顔で聞くのに。

 

 「そう。君が上手くやるんだ」

 「…あ…」


 友人の頭は目眩がしているだろう。

 だが、これ以上は割く時間が無い。レセプションの時間が迫っていた。


 「良いか?!順番を間違えるな。最悪の結果から言い募れ!アウルが初めに君達に浴びせたように。畳み掛けて考える余裕を与えるな」

 「分かった!社の連中に、この位で済んで良かったと思わせれば良いんだろう?!」


 彼もまた先程の俺と同じ悔しさを感じているだろう。


 「それで良い」


 頭を抱える友に言ってやっていた俺に、友の部下が、おずおずと声を掛けてきた。


 「…あの…俺、部長や伯爵に、尻ぬぐいして貰って…他に何も出来ません。傷んでしまったハードのメンテナンスをさせて貰う訳には行かないでしょうか?!」

 「お願いしますっ!!」


 俺が答えを渋って居ると思ったのか、初めの態度とは打って変わって、精魂込めて訴える様子に、クロルの人を観る眼を見直しもした。


 今回のことは何か他に理由が有ったのだろう。


 「君の裁量で、俺の部下の中から、2人選んでくれ。君は俺が雇う。新規分のメンテナンスも頼む」

 「本当ですか?!ありがとうございます!!」


 最敬礼と共に、嬉しそうに顔を輝かせて言った。

 友人の顔にも安堵と、喜びが伺えた。其れだけに留まらず、俺を意味ありげな顔で横目に見る。


 「良かったな。今度はしっかりやるんだぞ」

 「それにしても、まぁ。ちゃっかりヘッドハントとは、抜け目のないやり方だな。泣き虫アレン?!」


 久しぶりに聞く嫌な呼び名だった。


 「グラヴゼルの頃はチビでピーピー泣いてたお前がさ」


 呆れたように言われて、そんなにあざとかったかな?!そりゃ、一石二鳥を狙いはしたが。


 「チビって…伯爵がですか?!だって、180越えてるでしょう?!」


 驚いたと眼を丸くする。


 「だろ?!女の子つった方が早くてさ。これでも、こう…青い眼が大っきくて、すっげぇ可愛くてさ」

 「何がこれでも…だ!!昔のことを持ち出すな!!」


 畜生、恩を仇で返しやがった。


 フランス大使公邸でのレセプションに、一緒に出るように言われていて、普段のスーツから着替える時間を持てずにいて、政府高官や著名人が居並ぶ中では、ひょっとして、プレスに間違われないかと危惧しながら、アウルのオフィスに向かって歩き始めた。


 一様に仕事を始めたのだろう所員達は、それぞれの部屋に引き取って、或いは、外交へ出かけているのだろう。


 閑散とした廊下を歩いていると、昔の、グラヴゼルの寮へと向かう過程に居るかのような錯覚を覚えた。

 お読みいただきありがとうございました。書き始めの2人は青年の域に達しています。本当は、もう一つ、レイトン・カレッジとの間に話があるのですが、それは又次回に見送ることに致します。

 ではまた。

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