第90話 白き魔力の具現
「サニアっ!あと少しだけ我慢してくれ、すぐに助けてやるからっ!」
俺は特殊な華に触れているせいで今もなお爛れ続けているでの痛みを無視してサニアの肩から華を引きちぎろうとする。今この時ほど自分の手がちゃんと2本あればと思ったことはない。
「ぎゃああぁぁ!!」
だが、サニアの体に根を張っているからか華を引きちぎろうとした瞬間、サニアは喉が潰れんばかりの叫び声をあげる。
俺は急いで華の根元を“神聖魔法”で癒しながらなおも華を抜こうとするが、“神聖魔法”には決して麻酔効果があるわけではない。痛みが発生する端から癒し弱めているだけなのだ。
「ごめんっ!あとでいくらでも恨み言は聞くから!今は、今だけは耐えてくれっ!」
俺の今までの直感が告げている。スキルでもなんでもない、ただの経験則だが、これはサニアを気遣ってゆっくりやっていれば取り返しのつかないことになると。
サニアの苦痛を想像してか知らずにこちらも片方しか満足に開かない右目から涙が出ていた。それでも根は伸びることをやめない。むしろ引き抜かれることを危惧していち早く根を伸ばそうとする。
俺はなんとか相殺のようなものが出来ないかと“自然魔法”で華の成長抑制を試みる。片手で魔法を2つ操るのは本来、想像を絶する難易度の高さと思考容量の問題からとてつもない頭痛がする。
だが、俺はその2つの問題を“並列思考”のスキルでギリギリ行うことが出来た。その結果、気持ち伸びが治まったようにも感じるが、それもおそらく気休めだろう。
(俺にもっと力があればまた違ったのか...?)
もっと俺が周りに気をつけていれば。もっと早く【強欲】にトドメを刺していれば。
そんな益体のない事ばかりが頭を巡る。
「ふざっけるなっ!今更そんなことでぐちぐち悩んでんじゃねぇよ!」
そうだ。終わったことを悩んでいる暇がどこにある。そんなことを考えている自分にイラついた。そんな暇があったら魔力を回せ!今はサニアを救う事にだけ専念しろっ!
俺はそのイライラを俺の“自然魔法”を食い破って侵食しようとする華の根と半ば崩れかけた華と接触しているサニアの肩を癒やす“神聖魔法”へと魔力としてぶつける。
“並列思考”しているとは言え、ただでさえ難しい並列の魔法思考による頭痛にさらに強引に魔力を流し込んだせいで頭痛がひどくなる。
だが、今はそんな頭の痛みでさえ鬱陶しい。
「邪魔だ、邪魔をするなっ!どけぇ!!!」
何かが俺の邪魔をする。それは無茶な魔力行使に対する防衛反応なのか、それとももっと別の何かなのか。さっぱり分からないが、何かがサニアを救う邪魔をしていることは分かる。
「ァァァァアアア!!!!」
ブチンッと俺の中で何かがちぎれたような音がした。それと共に視界が白く染まっていく。それは目の前のサニアでさえも白い絵具で塗り潰すように徐々に白く消えていく。
「はぁ、はぁ。やめろっ!やめてくれっ!サニアっ!」
俺の声は虚しくサニアは白く染まる視界の中へ消えていった。
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「...ーぃ......ぉーい......うぉーーーーいい!!!」
「な、なんだ?!」
「おきろぉぉぉぉ!!!」
「起きてるわっ!」
「あ、おきた」
俺は唐突に聞こえた大きな音に驚き、反射的に体を起こす。そして音を探すため辺りを見回した。
「あれ?何もない、幻聴か?ってそんなことよりサニアは?!サニアはどこ行った?!」
「げんちょうじゃないわよっ!こっちむけやー!」
「痛っ?!」
キョロキョロと辺りを見回すも聞こえた声の主は見つからず、それよりサニアを探して立とうとした時、再度聞こえた不思議な声と同時に左耳が引っ張られる。
そうして振り向いたそこには小さな女の子が浮かんでいた。
体長は約15センチほどで、白みがかった緑色の髪と同色の服を着ている。さらに頭には髪の間から2本の小さな突起があり、背中には後ろが透けるほど透明な羽が2対4枚生えていた。
「...なんだお前?」
「おまえとはなによー!ようやくあたしのすがたがみえたとおもったのになんてこといってんのよ!」
「.....?お前俺のこと知ってるのか?」
「あたしはおまえなんてなまえじゃないですぅー!ちゃんとしたなまえよんでくれないとへんじしませんー!」
(めんどくさいな...)
ただでさえサニアの安否が分からなくて焦っているのだ。正直取り合っている暇は無かった。
「分かった、ならお前のことはいい。起こしてくれたことは感謝する。それじゃ俺はサニアを探しに行くから、早く帰れよ。ここも危険なんだし」
「.....え?ちょ、ちょっとまってよ!せっかくみれたのに!てかここからでるほうほうしってるの?!」
「チッ、そうだった。...はぁ、名前聞いてやるから早くここから出してくれ!サニアが、俺の仲間が危険なんだよ!今は1分1秒が惜しいんだ!」
「わ、わかってるわよ。....こんなはずじゃなかったのに...。あのこはだいじょうぶだよ、もうたすかるから」
「....は?何を言ってる?どういう意味だよ?!」
「そんなおおごえださないでよっ!せっかくあえたのに...。ようやくあたしをみつけてくれたのにっ!あたしはレイにたのまれたのっ!あなたをみまもってって!いっしょにいてあげてって!!でも、あたしからむこうのせかいにはさわれないから、ずっとこうしてまってたのに...」
「す、すまん。それよりどういうことだ?ちゃんと説明してくれ!サニアが大丈夫ってどういう意味なんだよ、それにレイって...ま、さか.......」
小さな女の子に諭されてようやく我に帰った。確かに今もなおこの状況が分からない以上、サニアは心配だ。だが、我に帰ってようやく気づいたが、目の前の少女からとんでもない魔力を感じた。
「お前は...いや、君は一体...?」
本来、魔力はある程度感じることは出来てもそれは相手の魔力量が多く、さらに魔法を使うなど魔力を外に出しており、なおかつこちらもそれなりに魔力に対して過敏になっている時だ。
だから戦闘中などは相手が何の魔法を使おうとしているかまでは分からずとも何か魔力を使ってしようとしていることくらいは分かる。
だが、今は戦闘中ではない。さらに言えば目の前の少女は魔法を使おうとすらしていない。にもかかわらず目の前の少女からはこれまで感じたこともないほどの魔力を感じた。
「やっとおちついてくれた。せっかくいろいろかんがえてたのにだいなしじゃん...」
「ごめん、今すごく焦ってたんだ、許してくれ。それで早速で悪いけど説明してくれ、君は何者なんだ?サニアは?それにレイって...」
「いーよ、ゆるしてあげる。あたしはかぜとかみなりをすべるエレメンタル、なまえはなかったけどレイがシルフィってなまえをくれたの!だからあなたはシルフィってよぶことをゆるしてあげるわ!」
「シルフィか、それにさっきから出てくるレイはまさか、レイミアなのか?」
「そうだよ!....レイはあいつらにつかまったあとしばらくしてからあたしにいったんだ。もしレイになにかあったら、あなたのとこにいってって」
「ミア...ミアが...。でも、君ならっ!それだけの魔力があればあいつらに勝てずともミアを逃すことくらいは出来たんじゃないのか?!」
俺はもう考えまいとしていた彼女の名前を聞いて動悸が激しくなる。もはや過去のことであり、目の前の少女、シルフィに言ったところでどうにもならない事など分かっているのに感情は止まらなかった。
「あたしだってやっつけてやりたかったよっ!レイがめのまえでいろんなきぐつけられてくるしそうにしてるのをたすけたかった!でも、あたしはっ!あたしはそっちのせかいにてをだせないのっ!けいやくしゃをとおさないとまほうもつかえないの!」
「ミアと契約してたんじゃ無かったのか?!」
「してたよ?!でも、それもあのへんなやつにふうじられてこえしかきけなくなったの!さいしょはあたしのこえさえきこえてないみたいだったし、それからレイもあたしがみえても、いろんなきぐをつけられてからは今度はあたしのすがたもみえなくなっちゃったみたいなの...」
「...くそっ!」
どうすることもできなかったシルフィもきっと相当悔しかったのだろう。それほどまでに【傲慢】の魔王が慎重だったということなのだろうか。
「...すまん、君も君でミアを助けようとしてくれたんだな。ありがとう」
また、感情が落ち込んでしまいそうだった。乗り越えた、とそう思っていたが、そんなことは無かった。考えたくなかっただけなのだ。
もちろん忘れるつもりなど毛頭ない。忘れたいとも思わない。けれどきっとそれは、感傷に浸るのは今ではないのだ。もう彼女のように失わないために今出来ることをしなければ。
「...シルフィ、サニアは助かるってどういうことなのか教えてくれ」
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