第88話 【強欲】の魔王『後編』
設定ガン無視でごめんなさいっ!
今回の話書いてて思い出したけど、ミユには魔法効かないはずなのに主人公バリバリミユ眠らせてた...。
眠らせる方法だけ変更しましたのでお納めください......。
「舐めるなぁぁ!クソどもがぁぁ!!」
シスは俺の刀を目の前にして暴れ喚く。それを俺は逃すまいと距離を詰めて振り下ろした。しかし、その刃はまるで何かに歪められたかのように、空を切った。
「何?」
刀は勢いあまり地面を削るように切り裂く。反してシスへのダメージは奴の衣服を裂くのみで薄皮一枚も切ることが出来なかった。
「邪魔だ!【黒隻】ィィィ!!」
シスはいつの間にか身に纏っていた風の鎧を俺たちを吹き飛ばすように弾けさせ、握っていた魔槌を俺に向けて叩きつける。
俺は風の勢いに逆らわず後ろへと下がりながらシスの魔槌を受け止める。近くで見て気づいたが、それほど槌部分は大きく無い。俺の顔より一回り大きいぐらいだろうか。
「がっ?!」
だが、能力は侮るなかれ。それまで簡単に潰せていたため警戒を怠ってしまった。槌を刀で受け止めた瞬間、目の前で放たれた衝撃波を防ぐ術がなくモロにくらってしまった。
「貴様もだっ!異界の勇者ぁ!」
ミユはスキルに“武制魔否”を持っているため、風の衝撃は無効化できたが、なまじステータスの高いシスの攻撃を完全に受け流すことが出来ていない。
「こっちもあるよっ!」
そこに背中が完全にガラ空きになっているところへキノが武技“崩拳”を叩き込んだ。それは狙い違わずシスの背中へと吸い込まれる...はずだった。
「あぐっ?!」
シスの背中へキノの攻撃が直撃する瞬間、またも空間が歪み、そしてグリッという音が鳴ってもおかしく無いほどキノの手首が本来曲がらない方向へと曲がった。
「ぬっ?!誰だっ!そこにいるのはっ!......クク。ですが、我にダメージがないということはきちんと機能しているということなのでしょうねっ!」
「くぁっ!?」
冷静さを取り戻したのか、以前ガイロの城で出会ったときのような慇懃無礼な口調へと変化する。そして力任せにミユを弾き飛ばした。
キノは未だ気づかれていないことを確認して後方へと下がり、テミスの治療を受けている。そして戦況は一旦膠着した。
(キノと同じように俺が攻撃をした時も空間が歪んだ。それに今思えばミユの攻撃もあの位置から服しか斬れないなんてことは普通ならありえない筈だ)
いくら体勢を無理やり変えたとはいえ、すでにバランスを崩し倒れそうな敵を斬り損ねるほどミユは素人では無い。この世界に来てから感覚がおかしくなっているが、元々ミユは武道家の娘だったそうだ。
それ故か武具の扱いに長ける一方で魔法を一切使えないのだろう。ただ、使えないだけでなく、敵の魔法も無効化するためあながちデメリットばかりでは無い。
ただ、シスに攻撃をした時に空間が歪む現象は何か検証する必要がある。俺はそれが何かを見極めるため2人に指示を出した。
『サニア、左から魔法でシスを攻撃し続けることはできるか?』
『...できる.......』
『わかった、頼む。ミユは右からひたすら近接戦闘をしてくれるか?』
『わかったよ!やってみる』
『頼んだ。歪みがいつ発生するかわからないから手首に負担をかけないようにしてくれ。2人ともとにかく攻撃を当て続けるんだ』
『『了解っ(.......)!』
俺は“異種伝心”に2人にさっと作戦内容を告げた。そして威勢の良い返事とともに2人がシスに向かって走り出す。サニアは氷の礫とたまに致命傷になりかねない弾丸状の氷を、ミユは軽くはあるものの反撃の隙を与えないような連撃を浴びせる。
「小賢しいっ!小賢しいわぁぁぁ!!!」
シスは再び風の鎧を纏い、サニアの氷の威力を減衰させる。相性的に氷は風に弱い傾向にあるからかまともにダメージが通っていない。
対してミユの剣撃は大半がシスに直撃する直前で歪んでいるものの、十回に一度ほどだろうか、歪まずにシス自らが動き攻撃を躱している。
(確実に空間を歪ませるわけでは無いのか...)
それでも圧倒的に歪みで剣撃を防いでいる回数は多い。だが、それに反してサニアの魔法には一切の歪みが発生していない。根本的にシスにダメージが通っていない可能性もあるが、試す価値はある。
『サニア、どさくさに紛れて高威力の弾丸を作ることは出来るか?』
『弾丸......?』
『わかってやってなかったのか?サニアがたまに混ぜてる細長い氷だよ』
『あぁ.......!出来るよ、やる.......?』
『よし、頼む』
『.......こくっ』
伝心なのにうなづく様子が伝わるとはつくづくスキルとは不思議なものだ。そんなことは置いておいて、おそらく弾丸はジーンと戦っていた時に見様見真似で真似たものなのだろう。
そうして俺の指示を受けたサニアはたまに混ぜる弾丸の中に速度を増した一発を刷り込ませるようにし始めた。
その甲斐あってか、今までは風の鎧に任せきりでサニアを完無視していたシスだったが、次第に鎧が削られ無視できなくなってきたのかサニアに魔槌の衝撃波を浴びせ、ミユの攻撃を回避することに専念し始めた。
「クソどもめっ!煩わしいっ!」
サニアは衝撃波をうまく足で逸らしつつ、ミユに意識が向いた的確なタイミングで高威力の弾丸を見舞う。そうして強制的にサニアに意識を割かざるを得なくなった隙を突いて今度はミユが反対側から攻撃を仕掛ける。
(良いコンビネーションじゃないか...)
感傷に浸っている場合では無い。
こうして2人にいろいろやってもらってわかったことは一つ。
歪みは魔法には発動しない。
ということだ。ならばやることは一つ、俺は2人に俺の言うタイミングでシスから離れるように指示して魔力を高める。
使う魔法は“大地魔法”。イメージするのはセキアルの細い槍。
2人に気を取られているシスを尻目に俺は魔力を込めて今作れる最硬の槍を造り出す。そして俺はそれを肩に担ぐように逆手で持つ。
「下がれっ!」
俺の声にすぐに反応してサニアとミユはパッとシスから離れる。
「な、きさ...まっ!」
「オラ!受け取れぇぇ!!」
俺はパッシブの“遠投”と投げ放つことに補正がかかる“弓聖術”を使って全力で左手に持つ槍を投げた。
その槍はギュリーー!!と風を裂くような音を発してとてつもないスピードでシスへと迫る。
ここでも俺は一つ検証をしていた。奴が何かに対してだけ空間を歪めて防御行動を行なっていることはわかった。ならそれは魔法以外の直接攻撃なのか、それとも武術スキルという括りで行っているのか、だ。
結果、俺の槍は狙ったど真ん中からずれて、ほんの少し空間が歪んだことでシスの右肺を掠り持っていった。これで判明した。奴は防御の対象を武術を使った攻撃に設定していたのだ。
さらにミユの攻撃にもたまに歪みが発動しないタイミングがあったが、それは単に歪みが発生しなかっただけなのだと思う。
思い出してみると、奴のスキル“賽子命操”はあくまで確率を操作するものだ。おそらく100%では無いのだろう。というかそうでないと困る。
「グハッ!?貴様...らぁ!!邪魔だぁ!!」
俺の槍によって肺を貫かれた衝撃を醒めやらず、再度これまでの怒りをぶつけるかのように2人は攻撃を再開する。さらに俺の攻撃で続けて使えなくなったのか歪みも先ほどよりずっと少なくなっていた。
「舐めるなぁ!!こんなところでこの我が死ぬものかぁ!!」
ドゴンッという音と共にシスは地面へ魔槌を叩きつける。それを見た2人は一旦俺の元へ戻ってきた。
「ありがとな、2人とも。これで奴のカラクリが見えた」
「.......問題なし」
「任せて!」
これだけ動けるこの2人が弱いものか。俺は2人にお礼を言い、目の前のシスへと目を向ける。
「ハァ、ハァ、ハァ。良かろう、貴様ら程度にこの技を見せてやることを光栄に思え!我が身を守るためにこれを使わされるとは...!だが、もう終わりだ!これを使えば、貴様らはもう我に攻撃を当てることすら不可能っ!この真なる姿、とくと見よ!!!」
シスは突然、高笑いしだすと徐に俺によって貫かれた傷を自分で抉り出し、自身の肉を取り出す。それを神に捧げるように天高く持ち上げた。
それから数瞬もしないうちにその肉を巻き取るように赤黒い螺旋がシスの手の上で踊り出す。しかし、それは長くも続かず、代わりに現れたものは日本で言うルービックキューブほどの大きさのサイコロだった。
しかし、色はお世辞にも綺麗とは言い難い。血塗れの肉を無理やり固めて作ったかのような赤黒く鳴動している物体だった。
(な、んだよ、アレ?!)
俺は咄嗟にソレに向けて“全鑑定”を行う。
スキル:賽子命操 運命を操るサイコロを創り出す。(最大5個:現在6@&2&)触れている者(無、有機物問わず)に対して設定された事nwi:&’jdする確率を操作する。サイコロ数が多いほどnw&-82’nceJa高まる。
それを見たシスはニヤリの嫌らしく口角をあげたかと思うと今度はそれを自身の心臓部分にあてがった。やがてそれはズブズブとシスの体に埋まっていく。そうしてサイコロの全てが埋まった途端、シスの体に劇的な変化が訪れた。
「ウグッ?!グッ...ガッ..ァァァァ!!!」
ビギビギと音が鳴るほどシスの体が巨大化していく。服は弾け、今までの痩身で軽薄な印象は消えて筋肉隆々の肉体が姿を現す。俺が先ほど開けた穴は筋肉によって塞がり、体格は先程の二倍ほどまで膨れ上がった。
「グググ!ゴレデワダグジヲダオゼルモノナドゾンザイジナグナッダゾッ!!ゴグゼギィィィィ!!!」
声帯が変に潰れたのかとても聞き取りづらい声になってしまったが、どうやら俺の名を呼んでいるようだ。さらに厄介なことに先ほどまで人の顔とそう変わらないほどの大きさだった魔槌はシスの体の大きさにあわせたのか先ほどの数倍に膨れ上がっていた。
「ヅブレロォォォォ!!!」
「来るぞっ!」
やはりスピードは見た目通りなのかドシンドシンッとのっそりした速度で走ってくる...と思った瞬間、シスの姿が視界から掻き消えた。
「ダァァァァ!!!」
次に見えたのは俺を覆う黒い影。体長はもはや3メートルを超えているかもしれない。そんな巨体が俺たちを纏めて潰そうと大きく槌を振りかぶっていた。
「避けろっ!」
俺とサニアとミユは三方向へ、テミスとキノはさらに後方へとバラバラに攻撃を避けた。しかし、威力が莫大なせいか地面を殴った破片がそこら中へ飛び散る。
『お疲れ様、ミユ、サニア。2人はキノとテミスを連れて下がって...』
『待って、カイトくん...』
『ここはわたしたちが...』
『『やるっ!』』
俺は肥大化しスピードも桁違いに成長したシスを前にサニアたちへ下がるよう言おうとした。しかし、それに重ねるように勇気を示したのだ。
『もううちがカイトくんに助けてもらうだけのお荷物じゃないことを証明するっ!』
『主さまはゆっくりしてて.......』
『サニア、ミユ.......。分かった、でも気を付けろよ。さっきまでとはパワースピードも桁違いだ。俺の方でも出来る限りことはする。存分に行ってこいっ!』
一抹どころでは無い不安はあったが、それでも彼女たちのその思いに応えないなんてことは出来なかった。ならば、と俺は出来うる限りの支援魔法を使う。
ただ、ここでも問題はあった。ミユのスキル“武制魔否”で“賜与魔法”を弾かれてしまうのだ。
『ごめんなさい、でもうちは大丈夫だから!』
『そんなわけに行くか、魔法での支援が出来ないならミユに一発も攻撃を浴びせさせないように援護してやる。お前らは気負うことなくやりな!俺が全部フォローしてやる』
きちんと俺の思いは伝わっただろうか。ただ、彼女たちの意志、そして決意は充分伝わった。後はそれを成功させられるようにするだけ。
俺はキノとテミスにも可能な限り手は出させないように伝え見守ることにした。
「行くよ、サニアちゃん!いいえ!サニア!」
「うん.......、うんっ........」
2人は同時に走り出す。サニアは氷を礫状ではなく鎧状に纏い、ミユも【天剱】を抜き、まるで俺を真似るように低くした身に刀身を隠すようにひた走る。
「ザゴガァァァァ!!!」
周りを飛び回るハエを叩き落とすかのようにシスの持つ槌はサニアとミユを追い回す。しかし、その一撃は何も捉えない。サニアには俺がフルでかけた諸々の魔法がある。
ただでさえ速いサニアのスピードがもはや倍以上になっているのだ。その速度を一瞬でモノにし、使いこなしているのはもはや天性の才すら超越しているかもしれない。
かたやミユには欠かすことのない援護射撃を行なっている。元々高い運動神経に確定した未来を視る眼。そしてどんな攻撃も寄せ付けないと言った俺を心底から信頼してくれているのか、一切引く気配を見せない。
スピードを活かしたサニアは時に上から、時に下からはたまた死角から。そしてミユは一撃一撃がとても重く歪みだけで無視するには些か無理のある攻撃を放ち続ける。
最初は2人を無視して俺へと突き進もうとしていたシスはもはや彼女たち2人に注力せざるを得なくなっている。そして戦闘の始まりにはほとんど入らなかった彼女たちの攻撃は苛烈さを増し、徐々にシスの体に傷をつけるにまで至っていた。
「バガナァ!?ゴノワダグジガギザマラバムジゴドギニマゲルダドォォォォ?!?!」
「ブザゲルナァァ!!ゴブッ!ヤメロ!ヤメロォォ!ガブッ!?」
一瞬で移動するスピードがありながら彼女たちには一切攻撃が出来ないシス。やはり無理が祟ったのか動きもどんどんどんじゅうになっていき、ついには血塊まで吐き出した。
やがて歪みを維持できなくなったシスはついに致命的な一撃を受ける。最後の抵抗とばかりに起こった歪みをあたかも予見していたかのように使い、歪みによって発生した流れを利用してミユが渾身の一撃を放つ。
「はぁぁぁぁ!!!」
「ゾンナ、マザかっ?!ゴボッ、このワダグしがこやつらごときにっ!?」
それは狙い能わずシスの体を斜めに切り裂いた。そうして口から体から大量の血が溢れ出し、体も元の痩身な体つきへと戻っていく。
大きく広がった赤い水溜りの中に倒れ伏すシス。その体からルービックキューブ大のサイコロが一つと小さなサイコロが2つ転がり落ち、地面で弾け光へと消えた。
「この我が...、こんなやつ...らに」
「部下を駒と見下し、信用しなかったツケだよ。大人しく終われ」
俺は最後だけ頂くのは申し訳ないと思いながらもスキルのことを考えて譲ってくれた2人に感謝してシスへと振り下ろす刀を大きく持ち上げる。
「あの世で悔いろ、愚か者」
俺はフッと息を短く吐き刀を振り下ろす...はずだった。
「この娘獣人にしてはずいぶん可愛いジャーン!」
その声は俺のすぐ真横で聞こえた。気配すら感じなかった。だが、そんな俺の思考を塗りつぶすかのように。俺を考えに耽らせる暇など与えぬかのようにそれは起こった。
「ぁぁぁああああ!!!」
トンッと音としてはなんてことなかった。だが、それがもたらしたものは大きかった。氷を纏った彼女が吹き飛ぶ。しかし、そのくらいなら彼女の身体能力で受け身を取れるはずだった。
ーー腕がミイラ化していなければ。
見るとサニアの肩から顔の大きさほどの真っ赤な華が咲き、瞬く間にサニアの腕や顔へと根を張っていく。それはサニアを養分にして腕や肩が赤茶色に変化し、次第に腕はどんどん細くなっていった。
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