第87話 【強欲】の魔王『前編』
「んぅっ?!」
俺がせっせと“大地魔法”で急造の刀を造っていた時、ビクンッと体を跳ねさせながらミユが目を覚ました。
「...ぁ、カイトくん、サニアちゃん...」
「おう、起きたか。少しは休めたか?」
「え、うん。ありがと...」
やはりそう都合よく記憶が消えたりしないからか、つい数時間前のことは鮮明に覚えているようだ。だが、だからといって俺はミユに何かを言うつもりはないし、ましてやパーティから抜けろだなんて言いたくもなかった。
「多分みんなもそろそろ目を覚ますはずだ。大層なものは出来なかったが、少し腹に収めるくらいの飯は作っておいたから食べときな」
俺はそう言って買いだめしておいたレツァーに具を挟んだものをミユに渡す。
「...ありがと」
心の裡を吐き出し、少し眠ったからか落ち着いてはいた。それでも罪悪感は未だついて回るのだろう。しかし、それは俺がどんな言葉をかけてもミユ自身で解消させて行かなければ薄まるものではない。
「...カイトくん。ごめんなさい、刀も...。うち、もっと強くなるから。だから、だから!」
「分かってるよ、大丈夫一緒に頑張ろう。もし、今回も抜けた方がいいなんて言ってたら俺ほんとに怒ってたかも」
みんなそれぞれ抱えているものはあるのだ。今回はそれを強く感じた。俺だって嫌われないように隠していることだってある。それがみんなにもあるだけなのだ。
ならば俺にできる事は、傷つき倒れそうな時は側で寄り添い支え、辛く苦しい時はそれを吐き出せるように、吐き出してもらえるようにしていかなければ。
顔を上げたミユの笑顔にはまだ若干の陰りはあるものの、いつもの活発さが垣間見えていた。
「よし、それじゃ行こうか。【強欲】が何を思って無防備な俺たちに手を出さなかったのか分からないが、それもこの先に進めばおそらく分かるだろう」
俺は目を覚まし準備を整えたみんなを前に先に続く道を指差して言う。腰に下げる刀は今までお世話になった黒刀よりだいぶランクは落ちるもののそれなりの出来になったとは思う。
また、サニアとミユはまだ若干ギクシャクはしているが、互いに歩み寄ろうとしているのか離れる様子はない。キノとテミスは言わずもがな。
俺は改めて暗い道の先へと歩みを進めた。
「光が見える。普通に考えればこの先に【強欲』の魔王、シス・イントゥルフェがいるはずだが...」
何度か転移をしつつ進んだ先でようやく暗い道の先に光源を見つけた。これまで特に罠らしい罠もなく、ただひたすら道を歩くだけだった。
逆にその事実が俺たちをさらに警戒させ行進速度をいたずらに遅らせることとなったが、ようやくそれも終わるだろう。
俺はみんなにさらに警戒レベルを引き上げるよう伝え、慎重に光の元へと進んだ。そして光の先へと進み現れたものはダンジョンの中とは思えないほど広く明るい場所だった。
そこは横長に広く、王城の謁見の間と言われても遜色ないほど。壁には小さく四角に区切られた窓と部屋を映えさせるためにしつらわれた赤いカーテン。
床や壁面には何の素材か分からないが薄茶色の大理石のような材質で形作られていた。天井にはシャンデリアが飾られ豪奢な印象を抱かせるが、それ自体に光は点っていない。
にもかかわらず、この部屋が真昼のように明るいのはひとえに窓の外に広がる広大な景色と太陽があるからだろう。しかし、正確では無いが時間はすでに夕方を過ぎて夜へと入っているはず。
ならばこの景色は...と窓の外を注視しようとした瞬間、俺の“皇之眼”に内包された“予知”が発動した。俺はとっさに腰に掛けていた刀を抜き、目の前からバリバリと音を立てて迫ってくる不可視の衝撃に向けて振るう。
まるで車が突っ込んで来たかのような衝撃を叩き伏せ、俺はこれを放った目の前の人物へと視線を向けた。
「ようやく会えたな、【強欲】の魔王」
「...なぜ、なぜだ。なぜ貴様がここにいる?!ジーンはどうした?!あやつは貴様を討つために一度姿を隠したのでは無かったのか?!」
「は?何言ってんだお前。あいつならとっくに逃げたぞ?」
「な、何を言っている...?奴が...逃げた、だと?」
「なんだ、お前俺たちを監視してたんじゃなかったのか。あいつは忍者気取りで煙焚いてその隙に逃げてったぞ」
実際、煙を焚かれた瞬間から奴の気配を感じることが出来なくなったので、本当に逃げたかは分からないのだが、ジーンの口振りからするとおそらくもうここにはいないだろう。
それにこの反応を見るにこいつは部下に全てを任せてここでぐうたらしていたようだしな。いや、隠れたことは知ってるから見てはいたのか?
「そんなわけがあるかっ!?ジーンはこの我が召喚してやったのだぞ?!貴重な触媒と大量の生贄を用意してようやく召喚できたのだ!奴は我に恩ができたと言っていた!その奴が我を裏切るだと?!」
「知らねぇよ、現に今ここにあいつはいないじゃないか。どうせ部下を切り捨てるような奴だからって見限られたんだろうよ」
「...ふ、ふざっ、ふざっ...けるなぁぁぁぁ!!!」
シスは怒りの咆哮を上げるとともに右手に持つ小槌を駄々を捏ねる赤子のように振り回す。そしてその小槌を振り回すたびにガラスの割れるような音が響き渡り、そのまま連続して叩き割るような音が続く。
その瞬間、まるで狙ったかのように四方八方から俺に向けて不可視の衝撃波が奔る。それはシスが小槌を振り下ろせば上から衝撃波が、真横に振れば横からというようにどうやらシスの動きに対応するようだ。
(なるほど、最初の衝撃波はそれでやってきたのか)
俺はシスのスキルなのか、武器の能力なのか見極めるため、両方に“全鑑定”を使用する。
名前:シス・イントゥルフェ
種族:気占族
Lv:1011
スキル: 賽子命操Lv.- 強欲Lv.- 槌聖術Lv.10 雷嵐魔法Lv.6 軀力特自動回復Lv.10 剛力Lv.10 博識Lv.10 剛打Lv.10 烈破Lv.7 重撃Lv.7 超力Lv.10 彗落Lv.2
称号:操命者 七罪一者 槌の寵愛 軀の寵愛 力の寵愛 識の寵愛 槌技覚者
スキル:賽子命操 運命を操るサイコロを創り出す。(最大5個:現在3個)触れている者(無、有機物問わず)に対して設定された事象に抵抗する確率を操作する。サイコロ数が多いほど操作できる確率が高まる。
名前:小威の魔槌
Gr:達人級
魔力を流しながら振るうことで指向性を持った衝撃波を放つことが可能。ただ、魔力の多寡によって多少は変動するものの、決して威力の高い衝撃波は放てない。
(衝撃波を放っていたのはあのハンマーか)
確かに、不可視で向かってくる衝撃波を潰しながらシスの行動に目を向けるのは厄介だが、食らっても致命傷には程遠い威力のため、対応がとても困難というわけではなかった。
「散開っ!!」
俺は自信に向かってくる衝撃波を潰しながらみんなに指示を出す。俺の声に従ってキノとミユが左右からシスへと走りより、俺の後方からはテミスとサニアが遠距離魔法を放つ。
それで分かったことは、あの魔槌は対象を複数設定出来ないということだった。
キノとミユが走り出した瞬間、俺へと集中していた攻撃が全てミユへと移った。だが、ミユも俺と同じく迎え撃つように【天剱】で衝撃波をいなしていく。
「クソどもがぁ!!なぜ我に従わないっ?!なぜ逆らえる?!」
おそらくかつての部下に対して言っているのだろうが、もはやその言葉は誰にも届かない。ガムシャラに槌を振るうシスに対して、3方向から向かう俺たちに対処仕切れなくなったのか、周りにバラまくように風を放つ。
だが、そもそもシスはキノが見えているのか?と思うほど、キノの向かう方向に対しての防御が薄い。
「グガッ?!」
当然というべきか、左から迫っていたキノの蹴りをモロに喰らったことで体が傾ぎ、そのままミユのいる方向へと倒れかける。
「はぁぁ!!」
これ幸いとミユは受け止めるように【天劔】を振るう。それをシスはギリギリで体を捻らせ掠らせる程度に留めた。
「終わりだ!」
しかし、体制を崩したのかそのまま膝をつき倒れ伏す。そこへ俺が首を落とすため刀を上から振りおろした。




