幕間〜野望の行方を危ぶむ【強欲】
「クソどもがっ!」
我は堪えきれぬ怒りに思わず、玉座を叩き割る。しかし、それでも気は晴れない。こんなチンケなもの一つを壊した程度でこの煮えたぎるような怒りは収まるどころか増していくばかり。
「使えん虫ケラどもめっ!貴様らを取り立ててやった我に対する恩を仇で返しよって!」
今我がいるこの部屋には侵入者が呑気に眠っているところだけが見えるものの、声は届かない。今すぐ奴らに制裁を下してやりたいが、セキアルによってそれが出来ないように設定された。
「何がボスの助力は必要ない、だっ!あんな小僧に負けるのならば奴の言う通りにしなければ良かったわ!」
腹が立つほどうまく行かない。ガイロに任せた『回帰の魔』の収集もあと一歩であの小僧に食い止められた。他にも色々厄介なことが重なり、そのせいで集められた『回帰の魔』はほんのわずか。
我のところに持ってきたのはジーンとイラムのみだった。あの筋肉バカには期待していなかったが、セキアルさえも持ってこなかったのは衝撃だった。
仕方ないので追加の宝玉を作らせようとまの胡散臭い悪魔に連絡を取ろうにも、ここ最近全く音沙汰が無い。どこかの洞窟に篭っていることは知っているが、それ以降一切報告してこないのだ。
そのため『回帰の魔』を追加で集めることもできず、八つ当たりとばかりにガイロを始末しに行ったところ、なんとあの憎き小僧が目の前にいたのだ。
ーー運命だ。
そう確信した。神は我に雪辱を晴らす機会を与えてくださったのだと。その末席に我を加えてくださるための試練をお与えになったのだと。
まぁ、神など崇めてはいないが、あの時ばかりは崇めてやってもいいとすら感じた。
我は全てを欲し、全てを手中に収める【強欲】の魔王!!
なれば、運命が与えた試練でさえも勝利で彩り、奴の全てを手に入れ、我に楯突いたことを後悔させてやる!
そう誓った。そして奴はのこのこと我の居るこの街にやって来た。部下も全て集めて万全の態勢で奴らを全力で以て叩き潰す。
そう心に決めた時、いつもは寡黙なセキアルが珍しく我に諫言、いや今にして思えば奴は我に歯向かったのだ。
『ボス、彼らは生半な戦力ではありません。ここは各個撃破していくべきです。そのためにも彼らを私達のアジトへと招き、転移魔法陣で彼らを分離させそこを私達で仕留めましょう』
『ふむ、なるほど。あなたがそこまで言うのであればそうしましょう。そして我がここから援護すればそう苦労もしないでしょうしね』
『いえ。今回、ボスの助力は必要ございません』
『....なんだと?」』
『各個撃破さえ出来れば、ボスのお手を煩わせるほどの敵ではありませんので』
『...ふむ。釈然とはしませんが、いいでしょう。ただし、ここまで大言を宣ったのです。ミスは許しませんよ?』
『ハッ!』
そう言って奴は部屋を出ていった。今にして思えば、奴はただ自分の欲求を満たすためだけにこの機会を利用して、一対一に持ち込んだのだと確信できる。
「忠誠心のかけらもないゴミめっ!死んでセイセイしたわっ!....ふっ、まぁ奴らがおらずとも我さえいれば事は済むのだ。そう、最初から奴らに任せたりしなければこんなことにはならなかった!」
それに忌々しいことにあれからジーンの姿も見えない。あのお調子者のことだ。煙を放って今もどこかで奴らを誅する機会を伺っているのだろうが、奴は遊びすぎるからな。
「仕留められる力がありながら甚振ろうとする、悪い癖よ」
まぁあやつのことはいい。どうせ飽きたら奴らを殺すに決まっている。それより今は我の新しい拠点だ。
裏切り者のせいでこのアジトをバラしてしまうことになったし、面倒ではあるが『回帰の魔』集めるための駒を探さなければ。
釈だが、一度アヤツの元で身を隠すか。だが、アヤツの国には雑魚しかおらんからな。また足を伸ばさなければならないとは。
「あぁ、めんどくさい!」
我は苛立ちつつもその人物へ知らせを届けるよう羊皮紙に我の造り出したサイコロを括り付け、空へと飛ばした。
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「ふいー、危ないところだったー。あんな化け物とやってられっかっての。すまんねーシスの旦那ぁ、さすがにセキアルの兄貴に勝つようなやつとは正面切ってヤレねぇわ」
ーーだって、旦那より強かったんだぜ?兄貴はよ。
「ま、旦那は知らねぇんだろうけどな。というか、拙者より弱いことにも気付いてるかどうか...。そうだな、生き延びられたらまた会おうや」
それかすでに逃げる先を探してる可能性もあるが。とそう1人呟きながらアンバスの街を後にする。早くも陽は沈みかけ、空を赤く染め上げていた。
「こっちの世界でもやっぱ空は綺麗だねぇ。いつかニホンの夕焼けも見てみたいもんだ」
かつて日本出身の祖母に見せてもらった夕焼けの写真を思い出して黄昏る。今のこの景色も綺麗だが、あの写真は飲み込まれそうなほど綺麗だった。
「さぁーて!次はどこに潜もうかねぇ」
腰に引っ掛けていた銃を指先で弄りつつ、地平線の先まで続く夕焼けの中へジーンの姿は溶けていった。
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