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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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幕間〜スラムで吠える1人の少年〜

 周りには海も山もなく、ただ荒地ばかりが囲むある1つの小さな国があった。


 その小国は各地から浮浪者や孤児が多く来ることから蔑む意味を込めて『スラムの宝庫』と呼ばれていた。


 その宝庫はどこにいても人命が軽視され、盗みや殺しが横行し、ゴミのように命が消えていく場所だった。


 もちろん、そんな場所は早く消してしまえ、という声が殺到した。そして周辺諸国もそれに尽力した。


 しかし、この地が消えることはない。


 なぜならそこかしこから浮浪者が生き場所を求めて来たり、望まぬ妊娠で生まれた子供を体良く捨てるためにちょうどいい場所だからだ。


 そんなどこにでもある地獄のような場所に1人の赤ん坊が産み落とされた。




 生まれる前から親達の快楽に振り回されたこの赤ん坊は、生まれてからも地獄だった。




 壊れたおもちゃを捨てるようにスラムの一角へと捨てられたその赤ん坊は、それを見かねた初老の男性が持ち帰った。


 男はそのまま赤ん坊を親代わりとして育てるのかと思いきや、赤ん坊を生きられるギリギリで生かしつつ自らの欲望を満たす、ホモとペドが両立した真性の変態だった。



 それから約8年が経過して、あの赤ん坊も少年となった。当然、毎日のように男に嬲られる体。


 けれども彼には物心付く前からずっと行ってきた行為である。もちろん違和感などない。


 しかし、男の方は違った。成長した少年は男にとって興味の対象ではない。もはや必要ないものなのだ。


 案の定、少年はまたも捨てられた。


 なんなら男の日々を生きる食材の糧にしようと殺されかけた。親だと思っていた相手に突如裏切られた少年。


 彼は未だ状況が分からず、怒りすら沸かずただ心底から沸き立つ本能のみで命からがら逃げ出した。


 それから少年はあてどなくさまよった。今までは男が食料をくれた。そのため、自分で食料を調達する方法を知らない。



 そもそも少年は生まれつき体が弱く、またスラムにいては珍しく善良な心を有していた。


 そのため他人から食料を奪う力もなくまた、そのことを考えすらしなかった。


 当然、日々体は弱っていく。やがて立つ力すら失った少年は路上で倒れ伏してしまった。


 そこへたまたま通りがかった少年達と出会った。彼らは複数人でいるにもかかわらず、彼らだけでは食べきれないであろう量の食料を担いでいた。


「.....ご飯を...、分けて、もら、えない...かな?」


 少年は掠れた声を絞り出しながら、申し訳なさそうに懇願をする。





 しかし、この場所はそんな生ぬるい場所ではなかった。





「はっ、知るかよ。それより...、ちょうどいい!お前らっ!生きのいい肉があんぞ!」


 少年は今、危機に瀕していた。申し訳ないと思いながらも食料を分けてもらおうと少年なりに恥を忍んで懇願した。



 その結果、懇願も虚しく彼らに囲まれてリンチされていた。



 少年は声も出せず、ただただ耐えていた。いつかは終わると信じて。しかし、彼らのボスらしき少年の言葉に言いようのない不安と恐怖を感じていた。


(飯?飯って何?なんで今そんなこと言ってるの?彼らは何を食べるつもりなの...?)


 無意識のうちに答えは出ているのに、少年はその答えに辿り着くことを嫌っている。考えたくないと必死にかぶりを振る。


「...動かなくなったか?なら、さっさと解体しろ。お前ら喜べ!久しぶりの肉だっ!」


 オオッーとボスの言葉に周りの少年たちが呼応する。そして、数人が少年の前に現れた。手にはナイフというには大きめの刃を握って。


「や...めて、何..するつもり、なの...?」

「あ?お前まだ喋れたのか。まぁ今更どうでもいいが。これから死ぬ奴に説明する必要もねぇだろ、さっさとお前の肉食わせろ。痩せててもここじゃ肉はそうそう食えねぇんだからよ」




 少年はこれまで感じていたものとは別種の恐怖に身を侵されていた。だが、痛みと体力の低下で体は動かず、逃げることもままならない。


 やがて、スッと抵抗なくお腹のあたりをひんやりとしたものが入ってきた。それと同時にその場所がカッと熱くなる。


 今まで受けていた鈍い痛みとは違う、鋭い痛みに声を出すこともできず、動かない体に少年の心中に諦めが覆った。いや、覆うはずであった。


 代わりに少年の心中を覆ったのは今まで経験したことないほどの激しい感情だった。


『生きたい』


『死にたくない』


 それは簡潔でそれ故強烈な感情だった。あまりにも唐突で、一瞬他人事のようにも感じたが、先ほどにも感じたものはこれであること、そしてこれが自分の真の想いであると理解するのに時間はかからなかった。


 やがてそれを理解した少年は、今何をすれば生きられるか、どうすればこの状況を打破できるかがなぜか分かった。


 なぜならその少年の側には誂えたかのように小ぶりのハンマーが転がっている。まるで誰かが自分に『イきロ』と示してくれているかのように。






 あァなんダ、かンタんなこトじゃナいカ。

 だッテ、






「コイツラヲツブセバイインダカラ」







 少年が意識を取り戻し、あたりを見回した景色は凄惨の一言だった。


 いたるところに潰れた骨や肉片、さらにどす黒い血が飛び散らかっていた。


 また、裂かれたはずの少年の腹は綺麗に治っており、それに反して少年の口周りには夥しい量の血がまとわりついていた。



 少年はまだ知らない。彼のステータスが著しく変動していることを。


 さらに、見慣れぬスキル“餓鬼道”が浮かび上がっていることを。




 この灯が無く沈まぬスラムの闇夜を照らす満月の下では、甲高く耳障りな嗤い声だけが響いていた。

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