第62話 彗燼瀑隕
「ありがとう、それじゃ再戦だっ....!」
ラムラスは余裕を見せるためか、はたまた形勢を整えるためか、俺たちが回復する時間何も手を出してこなかった。
「おぅおぅ、威勢のええこっちゃ。けどなぁ、彼我の差は気合だけじゃ縮まらへんぞっ?!」
ラムラスは可視化できるほど濃い黄土色の魔力を纏わせた岩を右手に大量に蓄え、左から右へ薙ぐように投げつける。
魔力で調節しているのかは分からないが、壁を跳弾しつつ、正確に俺たち3人を狙って岩が飛んでくる。
俺とミユは“予知”で、ユキはミユの後ろに隠れて、一緒に守ってもらっていた。
この岩を飛ばすスキルは“彗燼瀑隕”。
これだけ聞けば、子供が遊ぶような使えないスキルと思うかもしれないが、そんなことはない。これ単体でも厄介極まりないのだ。
スキル 彗燼瀑隕 魔力を溜めた分だけ隕石を落とす。落下地点指定可能、溜めた魔力により個数、質量が変化、速度を指定可能。
そう、これまで幾度となく撃ってきた岩は隕石だったのだ。これなら道中の穿たれた痕も納得がいく。そして、さらに厄介なのが、ラムラスの持つ“弓聖術”と“大地魔法”。
あのスキル単体でも隕石を創り出すことは可能だが、それ相応に魔力を使う。だが、“大地魔法”ならそこまで魔力を使わない。
このスキルは隕石を無から岩を創り出すのに対して、“大地魔法”は地面などの媒体を使って岩を造り出すからだ。
そうやって岩を造り、隕石スキルで強化。さらにそれを撃ち出すことで“弓聖術”のスキル効果まで上乗せしているため、低コストで最大限の威力を発揮しているようだ。
「へぇ...後ろの女もそこそこやるやないか。...けど、今は邪魔やのぉ!」
ラムラスはそう吼えた瞬間、爆発したかと錯覚するほどの魔力が膨れ上がる。そして、自身の周りに拳大の隕石を多数浮かばせた。
やがてそれはラムラスの周りで回転を始め、次第にギュリイイインと鉄を千切るような耳障りな音を立てる。
そうしてラムラスの全身を回っていた隕石はその速度を落とすどころかより速めながら、徐々に両腕へと収束する。
ラムラスの腕に纏われたそれはもはや鎧などではなく、まさに兵器と呼べるほどの物となっていた。
「ほんなら、行くぞ...」
ボソリと呟いたラムラスは、前傾姿勢になると突然、その姿が掻き消えた。だが、その瞬間、
「ぎぃあぁぁあ!!!」
斜め後ろから唐突に聞こえた叫び声に弾かれるように振り向くと、目の前を飛ばされていくユキの姿とそれを追うように流れる血と肉片の雨。そして、腕を振り切った形で立っているラムラスがいた。
「なぁっ!?...速すぎる...っ!」
しかし、ラムラスの猛攻はそれで終わらず、今度はミユの方へと一瞬で距離を詰める。
「うぐっ!!....いやぁぁあぁあ!!」
ユキへの攻撃を見ていたからか、ギリギリで“予知”が働いたからか、すんでのところで受け止めていたが、衝撃までは殺せなかったようで、そのままユキを伴って壁を突き破り城の外へと落ちていった。
なんて速さだよ...!自分を加速させるスキルなんて持ってなかったじゃないかっ!
「おぅ、これでようやく邪魔もんがおらんくなったなぁ、【黒隻】ィィィィ!!!!」
吼えるラムラスはそのままユキたちにやったのと同じように姿をかき消し俺の真横に現れ小隕石を纏った腕を叩きつけてくる。
俺はすんでのところで“予知”が働き、ラムラスの腕と自分の体の間に刀を挟み込めた。だが、それは“予知”というより本能的なものだったのかもしれない。
なぜなら“予知”で見えた姿は俺の肋骨と心臓がバラバラに砕かれ引き裂かれるところだったからだ。
「ギッ!ぐっ!」
俺はなんとか刀でラムラスの破壊的な腕を防ぐことができたが、踏ん張っても衝撃までは殺すことは出来ず、ギャリギャリという音を立てながら後ろに飛ばされた。
それに追い打ちをかけるようにラムラスは身に纏っていた小隕石を全てこちらに向けて放ってきた。
ただ、厄介なことにそれは素直に真正面から飛んでくるだけでなく、まるで意思でもあるかのように上下左右から回り込みつつ俺に向かってくる。
俺はそれを“予知”をフル稼働させて、自らに向けてまっすぐ飛んでくる小隕石を砕こうとした。
しかし、それは運がいいのか悪いのか。
自らに向けて飛んできた小隕石は刀の切れ味が良すぎるために、一切の抵抗なく寸断できた。
ーーそう出来てしまったのだ。
そのため、小隕石は速度を殺すことなく、より鋭利な隕石へと変貌してしまったのだ。
しかも、俺は数多の小隕石を一気に切り裂いてしまったため、壁に反射して帰ってきた小隕石は砕けることなく俺の肌を容易く裂いていった。
「ちっ!」
俺はすぐに刀を峰の方に持ち替えて、小隕石を切らないように弾く。
「オラオラオラァァ!!躱せるもんなら躱してみろやぁぁ!!」
ようやく体が慣れてきた時にラムラスはここぞとばかりに小隕石を追加してくる。
「ぐっ!くっ!」
俺は負けじと“予知”と“深化”そして、申し訳程度の“看破”を駆使しながら小隕石を弾いていくが、数が多すぎることや最初に切りまくった鋭利な小隕石のせいで、全身にどんどん傷が増えていく。
だが、“軀力特自動回復”と“自己再生”を使って回復し続けるが、切り裂いた小隕石と砕けた隕石が多すぎて回復が追いつかない。
さらに、視界の端をたまに赫いスパークが弾けるせいで、時々“深化”が途切れてしまう。
「チッ!殺しきれんか...。なかなかしぶといのぉ。しゃーない、『アレ』しかあらへんか」
一向に途切れる気配の無い隕石の乱舞に翻弄されている間、何やらラムラスが徐ろに両手を掲げる。
しかし、俺はラムラスに何をやろうとしているか聞くことすら叶わず、峰で弾くことによって砕けた隕石がより厄介になり始めた。
そのまま終わりの見えない血みどろの円舞をしていると、砕けすぎた破片でもはやラムラスすら見えなくなっていた視界が突如クリアになった。
あれだけ俺の周りを回っていた小隕石が全て弾けたのだ。
「ハァハァハァ...、一体、何が...」
だが、戦いはそこでは終わらなかった...。
「ホラ、冥土の土産にもらっとけや」
どれ程の時間そうしていたのだろう。俺が小隕石と踊っている間、ラムラスが溜めていたであろう濁った黄土色のとんでもない魔力の塊が天井へと打ち上げられた。
それは天井を突き破って屋根も巻き込み、空へと舞い上がる。
やがてラムラスは持ち上げていた両手を振り下ろした。
すると、数秒しないうちにゴォォォォという轟音と共に残った天井がめくれ上がった。
そして、めくれ上がった天井と同時に現れたのはまるで月を持ってきたと言われても信じられるくらいの大きさをした隕石があった。
ソレは大気を裂き、ゆっくりとこちらへ降ってくる。
「ほな、存分に味わってくれや。わいからやれる最高の土産や」
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「ハァッ!ハッ!...クッ!セヤァ!!」
おかしい...。いくらなんでもおかしすぎる...!
こいつは【炎】と呼ばれてた!なら魔法師タイプのはず...。
それに反してキノは他の魔王と違って、武術スキルが完成してはいないものの、ステータスは圧倒している。
なのに、なんでキノと“闘術”で渡り合えてるの?!
戦いが始まった最初は、キノの攻撃が受け止められたことや、今までこいつらに何回かお世話になったことがバレていたことに驚くだけだった。
それにテミスの話だと、キノの半分ほどしかレベルが無いと聞いて余裕もあった。
そして、戦いはカイトと【憤怒】についていけない勇者たちや、おそらくさっきの【憤怒】との戦いで落ち込んでいるサニアもこちらに参戦し、さっさと倒してカイトの元へ行くような流れになっていた。
だが、5対1の戦いにもかかわらずなかなか決着がつかないまま戦場もいつのまにか城外へと移り、常に5人で【炎】を囲いつつも城から飛び降り荒野にいた。
本来なら、キノは圧倒的にステータスを凌駕しているし、レベルは低いといっても皆が全て超越しているのだ。
それですぐに倒せるはずだった。しかし、実際の【炎】、ノリトメはキノから決して目を離さず、それなのにほかの勇者たちの攻撃は受け流し、躱し、反撃するのだ。
ただ、それでも唯一数が功を奏しているのはその反撃の全てが決定打にならないため、こちらの消耗もあまり無いことだ。
それでも【炎】はおそらく時間稼ぎをしたいようなのであまりいい流れでないことも確か。
かといって、5人全員で襲いかかってもまだ、こちらの連携が拙いこともあってそこを突かれて、一網打尽にされては目も当てられない。
そんな風に睨み合いの膠着状態から抜け出せずにいると、突然城のそばに柔らかい葉が生い茂った樹が生えてくる。それからすぐにその葉の上に血だらけのユキと彼女を抱えるミユが落ちて来た。
「ミユッ!ユキッ!なんだその傷っ!」
1番近くにいたアサヒは焦ったように脇目も振らず彼女たちの元へ急ぐ。ミユも酷かったが、何よりも優先すべきはユキだった。
服は裂け綺麗な肌色だった地肌からは肋骨が突き出て、内臓がまろび出ている。体は血と色々なものが混ざった液体に塗れており、かろうじて息はしているものの危険な状態だ。
最後に残った意識なのか左手で溢れる内臓を抑えながら、落下の衝撃を殺すために無我夢中で“自然魔法”を使ったのだ。これが生存本能のなせる技なのだろう、すでにユキは意識を失っていた。
ユキたちに走り寄るアサヒの後ろから小さくだが、悪魔のような声が聞こえる。
「よほど彼女たちが大事なのですね...」
当然のことのように【炎】は彼女たちを狙った。まるで燃やしてくれと言わんばかりの柔らかい葉を生やした木に赤白い炎を放つ。
「まずは彼女たちからです」
「くっそ!やめろ!...やらせるかぁ!」
アサヒが自分を犠牲にしてでもと体をノリトメの炎の前にさらけ出す。
その時、アサヒの体がノリトメの炎に負けないくらいの赤と見るだけで凍えるような青の2種類の光を放つ。
そしてアサヒはユキたちを襲う炎に向けて掌を翳した。
それだけでノリトメの炎は勢いを失い、まるで主に反旗を翻すようにノリトメへ襲い掛かる。
ーーアサヒのスキル“炎海掌支”が本当の意味で振るわれた瞬間だった。
その起死回生の一手はだが、決定打とはなり得なかった...。
ノリトメへと襲い掛かった赤白い炎はたしかにノリトメへと直撃した。淡い赤色の爆発を起こしながら。
だが、だからといってダメージとはならない。なぜ彼女が【炎】と呼ばれていたか、なぜ“鑑定”を持っているにもかかわらず、アサヒの近くで炎を放ったのか。
その答えはすぐに明かされた。
「甘いですね。だからこうなるのですよ!」
爆炎によって一瞬ノリトメの姿を見失ったアサヒは彼女たちを救うこと叶わず、死角から躍り出たノリトメに殴り飛ばされてしまった。
「ぐっ!くそ!ミユ!ユキを連れて早く離れろっ!その女さっきからなんかおかしい!」
「させませんよ!...さすが我が主。回復使いから潰すのは戦いの鉄則、ですよね。燃えなさい、我らに歯向かった事を後悔しながら」
「やらせるかぁ!!」
「チッ」
今にもまた燃やされそうだった彼女たちの元へ今度はサアラが自身を加速させながらハンマーを大きく振りかぶって叩き込む。
「オラオラァ!」
「邪魔です...、またあなたですか。その戦法は通じないと言っていますのに」
くっ!やっぱりバレてる!
「テミス!彼女たちの回復をしてあげて!」
「わかりました!すぐに戻ります!」
仕方ない、今までのキノの戦法が通じないなら後は彼女たちの回復をテミスに頼んで、今度は7対1にするしかない。
その時、地面が怒り狂ったかのような揺れがキノたちを襲った。弾かれるように皆が空を、城を見上げる。
「何?!...あれは...あれは一体?!」
「ふふ、ふふふ!あはははは!やはり我が主に敵うものなどいない!それこそ、小童にあの技を使ってもらえただけありがたいほどよ!」
「な!?あれはあの男の?!カイトっ!?」
「ふふ、諦めなさい。あの技を喰らって生きていた者などいないわ」
キノはある意味感じ慣れた絶望が押し寄せた。
...そんな、カイトが負けた...?あんなに強いカイトが...?
「それじゃあ、こちらもそろそろ終わりにしましょう。そろそろ貴方達も鬱陶しくなってきましたしね」
言い終わるやいなや、今まで見たことのないスピードでサアラを蹴り飛ばす。もちろん全身に青白い炎を纏わせて。
さらにそのままの勢いでサニアを攻撃するが、サニアは咄嗟に自身を水で覆い炎の勢いを殺す。
そして、【炎】の攻撃を爪で弾きながら応戦するが、もともとのステータスに差があるためまともなダメージになっていない。
「キノを忘れるなっ!」
「ええ、忘れていませんよ。ハァ!」
キノも参戦するが、やはり対応され今度は腹にまともに拳打を喰らい手痛い反撃までもらってしまった。
そうして、数分もしないうちに誰もが地を舐め諦めかけたその時、突然【炎】が苦しみだした。
「なっ、かはっ。まさか...そんな...........、あぁ、ラムラス...さま...ずっと、おそ..ばに....」
「えっ...終わった...?」
【炎】は苦しみ灰になりながら彼方へ手を伸ばすが、緩やかな風に流されていった。
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