第51話 修了試練
「ヌシら、オレのところに来たいのだろう?ならばその扉をくぐるがいい。だが、その先へ来ることは死と同義と思え」
俺たちは恐怖を飲み込み、奥へと進む。するとだんだん声の主の姿が見え始めた。
そこには二本の角を持ち牙を生やした、人間や魔族よりも屈強な身体を持つ、悪魔族の男がいた。
そして、その悪魔の奥の台座の上には1人の女性が寝かされている。
「恐れずにやってくるとは見上げた根性よな。だが、それは勇気ではなく蛮勇というものだ。ヌシらなら力の差が分かると思ったのだがなぁ」
悪魔は顎をさすりながら、こちらを睥睨している。おそらく一人ひとり実力を測っているのだろう。
「ふむ、やはりたかが2人でオレに勝てるとは思わんが...、負けると分かってここに来たのだ、何か策でもあるのだろう。良いぞ、オレがその策とやらも含めて全てねじ伏せてくれよう」
どうやら俺の思惑通りキノのことは認識できていないみたいだ。
俺たちはこの広間に来るとき、悪魔の視線から外れるように俺とサニアの間にキノを挟んで歩いてきた。
万が一視認されれば認識は可能だと思われるし、さらにこの洞窟の暗闇を利用して徹底的に悪魔からキノを隠した。
おかげでキノは悪魔のすぐそばにいるにもかかわらず、気づいている様子はない。
「俺たちはお前の持つ宝玉を求めてここに来た。それを渡してくれればお前は死なずに済むぞ?」
俺はなんとかキノが見つからないように、少しビビりながらも強がりを言う人間を装う。
「ハハハハハ!!宝玉!宝玉か!取れるものなら取ってみろ!だが、腰が引けているぞ?口だけではオレを倒せんが?」
「うるさいっ!それにその後ろの女性はなんだ?!お前の味方とは思えないが...」
「うん?あぁ、こいつか。こいつはお前たちが来る少し前に、この女の集落の長がオレに捧げたものよ」
すると悪魔は饒舌に喋り出したので、時間稼ぎのためにしばらく話を聞いていると、どうやらこの悪魔は日常的にこの近辺の魔族を捕らえては実験の材料として使っていたようだ。
それをいち早く知った村の長はその女性を捧げる代わりにその村以外から実験台を見繕う取引をしたそうだ。
「どいつもこいつも胸糞の悪いっ!!」
「ハハハッ!オレはオレの好きにやるだけだ!運の良いことにこの女はオレの実験のために求めていたスキルを持っていたからな。楽しみにしていたのだが...それをヌシらが邪魔したのだよ!生きて帰れると思うな!!」
途端、悪魔は怒りを体現したかのように可視化できるほど濃密な魔力を体に纏う。
名前:ファニタル
種族:悪魔族
Lv:896
スキル:見えざる手Lv.- 魔具作製Lv.- 暗黒魔法Lv.10 研究Lv.8 咒纏Lv.9
この1年間俺もサニアも強くなりたくて、もう誰も失いたくなくて修行に勤しんできた。
だが、超越したのと元々俺が経験値を得にくいこともあってあまりレベルの成長は著しくない。
そこで俺は単なる数値の強さだけでなく、スキルの応用法をメインに教えてもらっていた。
そう言ったこともあって半年前の俺ではこの悪魔ファニタルに勝てないと感じ、撤退したのだ。
するとタイミングよくキノから準備完了の合図がきた。
「もう良いか?ヌシらに付き合うのも飽いた。こちらから行かせてもらうぞ」
ファニタルはそういうなり、一瞬で距離を詰め、俺に爪を突き刺そうとする。
時間稼ぎをしようとしていたことがバレていたことに俺は驚いたが、刺さる寸前で横に躱す。
「ふむ、これは流石に躱すか。ならばこれならどうだ?」
ファニタルは俺たちをおちょくるように片頬を吊り上げながら爪に濃厚な魔力を纏い始めた。それは次第に爪と同じように鋭く尖っていく。
しかし、そこだけに囚われてはいけない。
やつはあえて爪にわかりやすく魔力を纏わせているその端で足にも魔力を纏っていた。
だが、それに気づいた時にはすでにやつは視界にはいなかった。次の瞬間、俺にとってはずっとお世話になっていた“予知”が発動し、体は自然と殺気に反応してしゃがむ。
すると俺の頭の真上を飛んでもない速度で爪が横切り、その衝撃で俺も同時に吹き飛ばされた。
「なに?これを躱すだと?なるほど、見た目通りというわけではなさそうだな。フハハッ!!面白くなっーー」
「ざーんねん、それ以上はもうさせないわ。カイトをいじめてるとこを見たいわけじゃないしね」
「がふっ!な、にが...起きて...いる」
俺が衝撃から起き上がり、ファニタルの方を見ると後ろからキノの腕がやつの分厚い胸に生えていた。
「カイト〜!早くとどめ刺しちゃいな?」
「あぁ!わかった、助かったよ!」
「なん、なんだ...!一体...オレになにが起きている!?」
「お前には見えてないんだもんな。別に教えてもいいんだが、お前に無為に殺されてきた人たちがいるんだ。せめてもの償いだ、何もわからず逝け」
ファニタルは何に攻撃されているかわからない恐怖に震えながら、俺に袈裟斬りに切られ命を落とした。
それと同時にやつの経験値とスキルが俺に追加される。
『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル:見えざる手 魔具作製 暗黒魔法 研究 咒纏を獲得しました』
最後はキノに助けられたとはいえ、結構あっさり終わってしまったな。
ファニタルの方がレベルは上だったのだが、まるで脅威に感じなかった。多少なりとも成長はしているのだろうか。
修行中、ガンドがずっと耳にタコが出来るくらい言っていたのは『戦いにおいて必要なのはレベルやスキルではない。それを使う頭だ』と。だから常に頭を使えと。
その時はなるほどとは思っていたものの誰しもが組むであろう〈戦術〉と何が違うのかと考えたものだが、今回で少しそれが掴めた気がする。
きっとスキル1つ1つにその人なりの〈戦法〉がありそれを使って作戦を組むのが〈戦術〉なのだ。
だからスキルの応用をいかに出来るかで自分の手札を広げることも、相手の手札を読むことも可能になる。
その幅をできる限り、そして際限なく増やすために『絶えず頭を使え』とガンドは言ったのだ。
「ナイスタイミングだったよ、キノ」
「ありがと!流石にあれ以上は見過ごせなかったからねぇ。そんなことより早く彼女を助けてあげないとっ!」
そうだった。
俺は彼女が寝かされているベッドに走り寄ると彼女の首に手を当てて脈があるかを確認する。
「うん、大丈夫みたいだ。見たところ怪我もしてない。多分しばらくすれば目も覚ますと思う」
「そう?それなら良かったわ!それじゃ早く宝玉取ってこんなところからおさらばしましょ!」
俺は彼女を背負い、元来た道を元来た並びで帰る。
ーー洞窟の奥では人知れず、淡い碧色に輝く首飾りが松明に反射して煌めいていた。
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