第46話 一難去って
ミキスに連れられ、辿り着いた先にはひとりの男性が肘掛に肘をつきこちらを睥睨していた。
床には俺の後ろにある豪奢な入り口から男の座る玉座までレッドカーペットが敷かれており、窓の外には轟々と吹雪が吹き荒れている。
男性のいる部屋の広さはまるまる一軒家が入りそうなほど広いのにもかかわらず、物は一切無く部屋の一番奥に玉座のみが置かれていた。
「よくぞ来た。待っていたぞ、【黒隻】よ」
「はじめまして、あなたがこのミキスの主ですか?」
「ああ、そうだ。ミキスは我の大事な臣下だ。では、改めて自己紹介をしよう。我の名はカイニス、カイニス・レルナントという。【怠惰】の魔王である」
「やっぱり魔王ですか。ではこちらも。すでに知っているかと思いますが、俺の名前はカイト、カイト・ヒュウガです。どうやら俺は【黒隻】と呼ばれているらしい。よろしくお願いします」
「うむ。さてもっと親交を温めたいところではあるが、連れてこられた疑問の方が君には強いだろう。早速だが、なぜ我が君に接触しようとしたかについて説明しよう。まずはそこに座りたまえ」
そういうと俺たちの立っているあたりに床から椅子が生えてきた。...いや、自分でも何を言っているか分からないが実際に起こったのだ。理解してくれ。
お言葉に甘えて出てきた椅子に座るとテーブルも生えてきて、さらに机の上には紅茶とお茶菓子があった。
...もう考えるのをやめた俺たちはありがたくそれを頂きながら話を聞いた。
ちなみに毒味の必要はない。俺に毒は効かないし、一応サニアより先に俺が飲んで確認しているからな。
...まぁそれこそ奴隷が先に飲んで主の危機を取り払うんじゃないかと言われそうだが、いいじゃないか、サニアを死なせたくないし...。
...コホン、話を戻そう。まず、この【怠惰】の魔王カイニスの持つスキル“怠惰”は、怠ければ怠けるほど力が上がるというスキルらしい。そのため必要最低限しかこの城から動かないという。
もう確定だ。おそらく魔王は全部で7人。そしてスキル内容はそれぞれの冠する『欲望』を満たすことで力が上がる代物だ。
また、カイニスは普段動かないため日々の食材などは臣下が調達しているようだ。完全にヒモだな。
俺が落ちてきたあの日も食材調達をしていたミキスが見つけ、暇を持て余す魔王の暇つぶしのために俺を生かした。そこから適宜俺の様子を見ていたらしい。
「見ていたならどうしてミアを助ける手伝いをしていただけなかったのですか?!あなた方が参戦してくれていたらミアは死ななかっただろうに!!」
「我ら魔王同士は互いに侵犯しないという盟約を交わしているのだ。そのため手を出すことが出来なんだ。すまなかった」
「くっ!」
俺はもう唸ることしか出来なかった。ここでわがままを言っても過去は変えられない。...俺たちは乗り越えなければならないのだ。
それから人間の領土を出たところでミキスは俺に接触し、今に至るというわけらしい。
「そういうことですか。それで?俺たちを城に呼んでまで何を企んでいるんですか?」
俺は少しの反骨心で睨みながら問いかける。カイニスは企むとは人聞きの悪い、と笑いながら説明を始めた。
「結論から言おう。我は今の魔王どもを好かん。そのため可能な限り魔王を減らしたいのだ。幸い【傲慢】めが君に討たれたことで魔王同士の調和が崩れた。ここから先、それを理由に魔王同士の戦乱が起きる可能性が予想される。だが、この機会は魔王に戦いを嗾けるいい機会だ。そこで君には我らに協力してほしいのだ」
「協力といっても、何をするんですか?」
「何、簡単なことだ。我は【怠惰】であるため、攻めには向かん。だが、守りは強いと自負している。もともとこの盟約は我の発案なのだ。そのため我が先に攻め込むわけにはいかん。しかし、そこで君が攻めに回れば揚げ足を取られることもない。完璧だとは思わんか?当然援助は可能な限りさせてもらう」
「それは一方的に俺が不利な条件ではないですか?あなたは城に閉じこもっていればいいが、俺は外で身を削ることになる。それでは受けることはできない」
「護衛や報酬など君の要求するものは出来る限り全て与えるつもりだ。.......それにスキルは全て君が手にできる。それでも、やめるかね?」
「...何を、知って」
「君が強くなりたいことも知っている。我はその機会を授けよう。それに進化したてであろう?その力の使い方も教授しよう」
「...うまく転がされている気もしますが、わかりました。お受けします」
「うむ、そう言ってくれて嬉しいぞ。部屋は用意してある。ミキスに連れて行ってもらうといい。ではゆっくりしてくれ」
俺たちはミキスに連れられるまま部屋へと向かった。少し安易に依頼を受け取り過ぎかもしれないが、それでも強くなりたい気持ちは本物だ。
それに進化して得た力は大きすぎて使い方がいまいち分からない。それを教えてもらえるというのも受けた理由の1つだった。
だが、一番は俺がスキルを欲しているということを知っていること。またずっと俺のことを監視していたことなどから、おそらく俺のスキルが多い理由である“簒奪”のことも知っているのだろう。
それなら歯向ったとしても勝てない可能性の方が高い。正直今でもなぜ【傲慢】に勝てたのかわからない程なのだ。
それもあってなるべく一方的に不利になるようななことはしないように依頼を受けた、...つもりだ。
「カイトちゃん、部屋はどうする?サニアちゃんと一緒にする?」
「ああ、そうしてくれ。今までずっと一緒だったからな。サニアもそれでいいか?」
「ええ、いいわ...」
「わかったわぁ。それじゃこっちよ!2人部屋だと少し大きい方がいいから離れになるのよねぇ」
この城は外から見た感じだと中世の城のような感じなのだが、中を歩いてみると日本の家屋のような建物になっている。
城の外面である重厚さを日本の家屋に貼り付けたような感じだ。そのため、渡り廊下なども古風で日本人である俺からすれば居心地がいい。
「さぁ着いたわ!ここよ、あなたたちの部屋はぁ。1人メイドを付けるから何か欲しいものとか困ったことがあれば彼女に言ってね」
「よろしくお願いします、カイト様、サニア様。わたくしはメイドのメイコと言います。どうぞお見知り置きを」
なんか韻踏んでるみたいで覚えやすいな。
「はい。よく言われます。嬉しいことにメイドのメイコと名乗ってから名前を忘れられたことはございません」
あれ?俺今声に出したか?
「いいえ、出してなどおりませんよ?カイト様」
「な、なんで俺の心の声が分かるんだ?」
「メイドですから」
なんだそれ。なら...アイスが食べたい!
「申し訳ありません。メイドであろうわたくしにもかかわらず、あいすなるものがわかりません。その罪を償うためにわたくしは腹を切ります!」
「うわぁぁぁ!!ごめんごめん!いじわるしただけだから!そんなことで腹切るなんて言うな!」
「ふふっ冗談ですよ。カイト様はお優しいのですね」
メイコは向日葵のような笑顔で俺の顔を見ながら微笑んでいた。
...いや、綺麗だけどさ。騙されないぞ、なんで腹切るとか知ってるんだよ。
「メイドですから」
全部それで終わらせられそうな気がする...。
「それでは何がご用事がございましたらいつでもお呼びくださいませ。浴場は部屋を出て右にまっすぐ行けばございます。お食事は部屋にお持ちいたしますので、ごゆるりと」
そう言ってメイコは部屋を出て行った。
「サニア、ごめんな?勝手に依頼を受けるなんて決めてしまって」
「大丈夫よ...。わたしはあなたが行く場所へ着いていくから...」
「うん、ありがとう。愛してるよ」
サニアは俺の言葉に照れたのかそっぽを向いてベッドに潜ってしまった。俺はたまらずサニアを抱きしめ、夜を明かした。
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