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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第3章
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第39話 トイトニス宗主国

 あれから約2週間ほどかけて王国を抜け、ついにトイトニス宗教国に入った。


 街の雰囲気は異様の一言だった。


 本来、一般には【傲慢】の魔王のことは知られていないし、そもそも教祖として活動していても大衆の前に姿を現したことはないらしい。


 それでどうやって人心を掌握しているのかは知らないが、気味の悪いことにどこもかしこも「教祖様バンザイ」だった。


 そして当然だが、帝国のように普通に生活する獣人たちはいないし、王国のように一部の貴族のような人たちしか奴隷を持っていないということもない。


 一般の人も普通に複数の奴隷を連れ、彼らの労働環境は目も当てられないほど劣悪の一言だった。


 俺はサニアに“妖幻”で人間に見せかける。いつ馬車を覗かれたり、止められたりするかわからないからな。万全を期しておいて損はないだろう。


 こっそり来ているのに騒ぎを起こして【傲慢】に気づかれることは一番避けなければならない事態だ。


 慎重に進みつつ俺たちは【傲慢】がいるとされている聖都をまっすぐに目指す。



 ここから聖都リミスまでは5日ほどで着くらしい。いよいよ決着が近づいている。


「もうすぐ...ミアに会えるんだな...」

「...えぇそうよ、主さま」


 その日、俺たちはトイトニス宗主国の一番端の街、ガスヌの宿に泊まった。ここにはンヌビタス領のような高級ホテルはなかったので、ラミーも渋々宿に泊まることを了承した。


 高級ホテルの時と同じように俺、ライド、サニアとラミーという部屋割りになる。もう日はだいぶ前に暮れており、夕食はすでに取っていたため、それぞれ部屋に帰っていった。


 部屋へと入った俺はふと窓の外の月を見るが、ミアやサニアと旅の途中で見た月を思い出し、寂しくなってベッドに潜る。


「...もうすぐだ。あと少しでミアの下に行ける。待ってろ、すぐに助けてやるからな...」


 その時、ふと俺に影が覆ったような気がして体を起こす。すると机の上にはさっきまではなかった手紙が置いてあった。


 俺はそれを手に取り開く。


『こんばんは、黒髪隻眼の少年よ。しばらくの間うちのナバスがお世話になりました。私の創った国トイトニスはもう楽しんでくれていますでしょうか?ああ、そうそう、君の大切な奴隷はきちんと預かっていますよ。私はいつも聖塔の最上階にいますので、いつでもお仲間と共に来なさい。楽しみに待っていますよ。

  リトレア・オルデスより』


 なぜ俺たちの場所が?など考える必要などなかった。俺より遥かに強いのだ。そんなこと簡単にできるのだろう。


 知らず、掌から血が滴るほど握りしめていた。


「おまえか...!!【傲慢】の魔王、リトレア・オルデス...!!!」


 俺は部屋を出てライドとサニアたちを呼ぶ。


「急にどうしたの?カイト」

「今、【傲慢】の魔王から手紙が届いた」


 俺は努めて冷静に報告する。


 俺の言葉を聞いた途端皆の空気が変わった。さっきまでの気の抜けた雰囲気は吹き飛び、緊張と憎しみの篭った顔をしている。


「見せてもらっていい?...なるほどね。建国者を名乗るってことは本物ね。聖典とか詩吟ではこの国の建国者は語られていないし、語るのを禁止されているもの」

「聖塔ってのはどこにある?」

「聖都よ。そこにある一番高い建物が聖塔よ。でもそこは神のおわす場所として何人も立ち入りを禁止されているわ。...なるほどね、【傲慢】の魔王は教祖であり、崇められる神でもあったわけね。趣味が悪いわ」


 とにかく向こうは逃げも隠れもせず待っていてくれるとのことなので、焦っても仕方がないと諭され、各自部屋に戻りいつも通り出発することに決まった。


「おやすみ、カイト。...考え込まないで、何があってもあたしたちがついてるから」

「うん、ありがとう。気が楽になったよ」

「...そう、それなら良かったわ」


 それだけ言ってラミーはサニアと部屋へ戻っていった。サニアはまだ俺と居たそうな顔をしていたが、ラミーが連れていった。


 うまく隠せただろうか?気付かれているだろうか?


 ミアの行方は知れた。でも気が逸って仕方がない。顔が強張ってはいなかっただろうか?険しい表情をしてはいなかっただろうか?


 本当は今すぐにでも飛び出してミアのところへ行きたいが、一人で向かっても勝てない。そんな無謀は出来ない。


 それにこうして俺について来てくれる彼女たちに顔向けできなくなる。


 俺は眠れないことなど分かりきっていたが、明日のためと言い聞かせて布団に頭まで潜った。












 ーーーーーー〜数週間前〜ーーーーーー












「教祖様、黒髪隻眼が帝国から出発しました。馬車に乗って皇女とその護衛と共にこのトイトニスへと向かうようです」

「そうですか、ようやく来ましたか。私も待ちくたびれましたよ。...そうだ、彼に招待状を差し上げましょう」

「招待状ですか?わざわざ我らの居場所を教えるということですか?」

「えぇ、私を知っているものは少ないですからね。あの脳筋皇のところに行かなければ確かに分からなかったでしょうが、それでもどの辺りにいるかはわかっても具体的な場所は分からないでしょう?それでは面白くない」

「...なるほど。かしこまりました。すぐに用意いたします」

「ねぇ、主人!カイトくんもうすぐ来るの?!楽しみだなぁ、ちゃんと強くなってるのかな?前から成長してなかったらつまんなくなるけど」

「...ナバス。勝手に話に入ってこないで。今は私が教祖様と話してるんだから」

「いいじゃんかアイヤ。もう主人とは話し終わっただろ?」

「まだまだ足りません。それに教祖様と呼びなさいといつも言っているでしょうが」


 私は部下2人の言い合いを尻目に黒髪隻眼の彼へ手紙を記していく。彼らの口喧嘩などいつものことだ。


 私は筆を手に取り特に考えることもなく、さらさらと書き記していく。


 そしてそれを終わらせた私は方々から帰ってきていた部下のうちの1人に研究の進捗を聞きため、研究室に向かう。


 もともとこの『要』を探すことと私の野望のために必要な『鍵』を探すため各地へ派遣していたのだ。その任も今は完了し、私の元に戻している。


「セントナ、進捗はどの程度まで行きましたか?」

「おお!我らが教祖様!我々の研究はもうすぐ完成いたしますですよぉぉ!!」

「...そうですか、完了しましたらまた報告してください」


 甲高い声に耳を抑えながら、私は研究室を出ると、まだ、2人は言い争っていた。


 もはやいう言葉が無くなったのかただの子供の喧嘩になっている。


 それを無視して私はそこそこ大きな声で言い合っているにもかかわらず、その横で呑気に眠っている部下の元へ向かった。


「リアト、この手紙を彼らへ届けてもらえますか?」

「..........zzz」

「...リアト、起きて.....」

「起きなさい!!リアトォォォォォ!!!」


 ...こうならないように私が起こそうと思ったのだが、いつものようにアイヤの蹴りによってリアトは空を舞っていた。


 そして、鈍い墜落音と共にリアトと呼ばれた女性が目を覚ます。


「.......んぅ、なに?」

「教祖様が話しかけているのです!起きて額を地面に擦りつけ靴を舐めなさい!」

「......やだ」

「こんのっ!」

「いいですよ、アイヤ。リアト、この手紙を彼らが私の国に到達した時に届くようにしてもらえますか?」

「......ん、わかった」


 そういうと腕に青いカラスを作り出す。その足に私が書いた手紙を括り付け窓に向かって飛ばした。そしてリアトは、カラスを飛ばした途端また眠ってしまった。


「寝るなぁぁぁぁ!!!」


 はぁとため息をつく。アイヤも昔はこんなに癇癪持ちではなかったのだが、癖の強いものばかりが部下になっていくと共にこうして変わってしまった。


「まぁいいでしょう。これでようやく彼のための舞台が整います。彼にはとびきりの喜劇を見せて差し上げましょう。...クフフ」

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