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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第3章

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第38話 トイトニス珍道中

「そろそろンヌビタスに着くわ。そういやカイトたちはこの街に一度来たことがあるのよね?」

「...あぁ、まだミアが居た時にね」

「...ごめんなさい。嫌なことを思い出させてしまったわね」

「いや、大丈夫だよ。またここに来るってミアと約束したんだから。必ず助けるよ」

「えぇ、そうね。それじゃあもう何も言わないわ。今日はここに泊まるから。ここなら温泉にも入れるしね」

「温泉は俺もサニアも好きだから嬉しいよ。帝国には他にもこういう温泉街があるのか?」

「いえ、ここだけね。何十年も昔に遠い国から来たという男がここに温泉というものを掘り当てたって聞いたわ。その当時は温度が100度近くあったらしくて、とても浸かれたものではなかったらしいのだけど、それから試行錯誤しているうちに今の温泉街ができたそうね」


 俺は確実に過去、日本人がやってきたのだと確信した。そして、その日本人に俺は全力で感謝した。


「確かこの近くに火山があったよな。それのおかげで温泉が掘れたんだろうな」

「火山があると温泉が掘れるの?」

「まぁ俺も詳しいことまでは知らないが、そうとは限らないんじゃないか?でも火山のおかげで地下の水が温められて、それが温泉になるとか聞いたような気がする」

「へぇ、よく知ってるのね。帝国でそれを解明できた人はいなかったのに」


 ラミーがとても疑いの目で見ている。そうか、そんなに知らないものだったのか...。やってしまったな。


 別に絶対に言いたくないというわけではないが、それでもこの世界の人間ではないというのは気持ちのいいものではないだろう。


 なので俺はまだサニアやラミーに異世界人であることを打ち明けていなかった。


「い、いや適当にありそうなことを言ってみただけだよ。根拠も何もないって」


 それでもリアは疑っていたが、特に問い詰めるつもりもなかったのかすぐに諦めた。


「お嬢様、宿に着きました」

「わかったわ。降りるわよ、カイト」

「あぁ、わかった。行こうか、サニア」

「......こくっ」


 馬車を降りた俺たちの前に聳え立つ建物はとても立派な建物だった。


「というより、完全に日本のホテルじゃないか!」

「は?日本?ホテル?なにそれ!ねぇカイト!」


 しまった...。やらかした。これはもう隠せないかな...。


 それよりもこれは完全に日本のホテルだった。素人目にも分かる高級ホテルだったんだから仕方ないじゃないか!


 それも俺が日本にいた頃は写真でしか見たことの無いような豪華なホテル。


 しかし、それよりも疑問なのは俺たちが以前この街に来た時にはなかったのだ。


 前に来た時からすでに2ヶ月以上は経っているため、もしかしたらその間に建てられたのかもしれないが、それでも何の片鱗すらなかったのは少々驚きだった。


「なぁラミー、この建物って最近作られたのか?」

「聞きたいことがあるのはこっちも同じなんだけど...まぁいいわ。いいえ、この建物はもう何年も前からあるわ。でも皇族や貴族が泊まるときに使われる建物だから、普段は霧に隠しているのよ。そういう性質を持つ素材で建てられているの」


 だから前に来た時は気づかなかったのかもねと、俺たちの考えていることなどお見通しとでもいうかのように先回りして答えてくれた。


「そんな素材もあるんだな。ダンジョンのものなのか?」


 ...返事が返ってこないなぁと思っていたら、すでに俺以外の全員がホテルの中に入っていた。


 サニアが入り口のところで手招きをしてくれている。俺は急いでそちらへ向かった。



「内装も完全にホテルだな。なんか急に日本に戻ったみたいだ」

「その聞いたことない言葉のことは後で聞くわ。だから早く部屋に行くわよ」


 ここは皇族や貴族など位の高い人間しか使えないため、予約をする必要はないのだが、チェックインなどのホテルらしい手順は踏むようだ。

 それを終えたラミーが戻ってきた。


 俺たちは日本で言うところのエレベーターのような機能を果たす円盤の上に立つ。


 そしてホテルマンが魔力を流すとゆっくりと円盤が上へと登っていく。


 仕組みを聞くと魔力を流すことで互いに反発し合う素材を使った円盤を床と俺たちが今立っているものの2つを使って、エレベーターの役割を果たす。そしてそれを一定間隔で置くことによって最上階までいけるらしい。


 ただ残念なのはこれは一方通行であるため、降りる時は階段であるということだろう。


 ...地味にしんどい。


「まさにスウィートルームって感じだなぁ」


 案内された部屋の扉を開くと窓から見下ろせる広大な景色や、スプリングのあるベッドなど高級ホテルに必ずといっていいほどあるものが置いてあった。


 部屋割りは俺、ライド。もう一部屋がサニアとラミーという形になった。


 もともとは全員1人一部屋だったのだが、サニアが嫌がり、俺と同じ部屋にしようとした。


 それを防いだ(?)のがラミーで結局ラミーはサニアと同じ部屋になったということだ。


 そして、各自部屋でしばらく休んだ後、俺の部屋にライドが来た。いつもの修行の時間だ。


「おい、時間だ。行くぞ」

「はい。よろしくお願いします」


 最近は互いの手の内がわかってきたため、ウォーミングアップ程度にしか手合わせはしない。まぁそれでも勝てないのだが、読めるようにはなってきた。


 しかしそれでは今後、多様な対処が出来なくなるので最近はその辺にいる魔物を殺し、その血で別の魔物を大量におびき寄せ、戦っている時に不意打ちでライドが攻撃してくるという方法になっている。


 それを半日近くかけて魔物を狩り続けた。この辺りの魔物はすでに狩ったことがあるし、レベルも低いので得られる経験値やスキルもない。


「よし、この程度でいいだろう。では宿に戻るぞ」


 日も完全に暮れ、俺は倒れこむほど疲れているのに、ライドは息を切らす様子もない。これが超越者との違いか。



 それから俺たちはホテルへと戻り、温泉に入った後、食事となった。


 高級ホテルのためか食堂のような場所ではなくレストランのような場所だった。


 何度か皇城で食べていたためもう緊張はしなかったが、それでも相変わらず合わないなとは俺もサニアも感じたようだ。



 そしてその夜、案の定俺はサニアとラミーに異世界人であることがバレ、ひたすら質問ぜめにされた。



 次の日俺たちはすでに馬車にいた。


 よく考えてみたら、あんな高級なホテルに一晩しか泊まらないのはとてももったいないと思うのだが、ラミーは慣れているのかなんとも思っていなさそうだ。


 さて、今後の予定としては俺たちは今日中に王国へと入り、王国を横切ってトイトニスへと向かう。


 その前に地理的なものを把握しておこう。まず、国の位置的に3大国が横並びになっており、王国を挟んで帝国と宗主国が存在している。


 そして、王国の北側はいくつかの小国と海が、南側はキュケの森やその奥に位置する魔族領域となっている。


 そのため一番近い道が王国を横切ることなのだが、この馬車には皇族が乗っているので本来ならば通る際に一報入れなければならない。


 しかし、今回は非公式のため無断だ。


 なので王国は出来るだけ早めに抜けてしまいたい。だが、間の悪いことに王国は横に長い土地なので、万が一を鑑みてしばらくラミーは馬車から出ることができなくなる。


「..........」


 なのでこんなに不機嫌なのだ。


 休憩の間に王国の名物などは俺たちが買って来るつもりではいるのだが、顔を見られることも考えて窓も開けられないため、どうしようもなくつまらないらしい。


 ちなみに仮面をつけることはラミーが嫌がった。


「ちゃんと欲しいもの買ってくるからさ。それに王国は長居しないし、すぐとは言わないけど少しの辛抱だから」

「....わかってるわよ。...でもあんたと一緒にお出かけできないのがつまらないのよ」


 最後の方は声がか細く聞こえづらかったが、それでも聞こえてしまった。...俺は気づかないフリをした方が良いのだろうか?


 日本でも彼女がいたことはあったが、こんな風に想われたことはなかったからな...。どうすればいいのかわからん。


 そもそも俺はそんなに好かれるようなことをしたのだろうか?謎だ...。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エレベーターが片道通行なのはおかしく感じる。どうやって円盤を下まで運ぶのか。停める技術や下まで戻すことができるのなら、降りることも出来るだろうし、単に上げる技術の逆なだけだから難しくな…
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