第188話 殲滅兵器戦『後編』
「油断するなよ、ここからが本番だぞ!」
「ピギャァァァァァァァァ!!!!!!」
気色の悪い口が覚えたての言葉を誇示するかのように叫ぶ。未だ躯体は宙に浮いたままであるが、その周りを銀の槍が旋回し、俺たちへいつでも攻撃できるように構えている。
「ギャァァァ!!」
「っ!!散れっ!!」
先に動いたのは兵器だった。もはや機械らしい特徴を失った口周りの肉からギチギチと銃口が現れる。だが、その数が多く兵器は一斉射撃を行い始めた。
「まずっ!……くっ!」
「ミユ!」
機関銃のようにデタラメに発射される弾だが、当たればひとたまりもない。それゆえに回避がとても困難だった。だが、そこはこれまでいくつもの難所を乗り越えてきた仲間たちだ。回避は問題なかった。
しかし、兵器は弾丸を避ける彼女たちを狙ってさらに追撃を行う。口周りからはデタラメに機関銃を放ちながら、隙を一瞬でも見せようものならそこを突いて銀の槍が飛び出して来るのだ。
その一瞬の隙を突かれたミユが腕にかすり傷を負ってしまった。
「テミス!シルフィ!あの口の中を狙え!!」
「はいっ!」
「うんっ!」
俺はミユの様子を見て、大した怪我でないことを確認すると、“熾天魔法”で即時回復させ、すぐにテミスとシルフィに指令を出す。あれだけ内部を露呈させているのだ。構造がどうなっているのかなど全く分からないが、弱点である可能性は高い。
「サニア!ミユ!アレを叩き落とせ!!」
「・・・うん!」
「おっけ!」
俺はサニアとミユに声をかけ、銀の槍を封殺させる。兵器の攻撃はどれも受けることはおろか、逸らすことさえ危険。そして未だ機関掃射は続いているが、これだけであれば大したことはない。
気をつけなければならないのは銀の槍だ。そしてさっきまでに傷が消えたわけでも俺の設定したルールが消えたわけでもない。ならば、いずれは銀の槍を叩き斬ることも可能だろう。
そして俺は——。
「お前、どうせそれだけじゃねえだろうが。早く見せてみろよ!」
「…………ギェギェギェギエギエゲゲゲゲキョーーー!!!!」
耳障りな雄叫びを上げ、ニヤつくようにグチャグチャと口を動かす。すると口の奥に魔力が溜まっていくのが分かった。
機関掃射とテミス、シルフィの攻防と4本から2本に混ざり髪のようにゆらめく銀の槍と踊るサニアとミユ。口腔の銃も出てくる端から破壊され、銀の槍も根本は中程まで傷ついている。
本来なら焦ってもいいような窮地のはずなのに、兵器の余裕さは消えなかった。
「かいと!!あのまりょく、だいせいれいさまの!!」
「何?」
そんな時、シルフィがとんでもない発言をした。
「いまならわかる!あれはだめなやつ!!かいと、とめて!!」
「って言われても……ちっ!!」
俺はシルフィに言われるがまま、兵器の攻撃を止めるため魔法を放つ。一番早く、それでいて高威力のもの。
「疾る四柱の雷霆!!!」
「あっ……」
俺の手のひらから4本の雷が迸る。それは狙い違わず、ガムを噛むように蠢く口腔内を貫いた。
——それがきっかけとでもいうように兵器の口腔内で溜められた魔力が解き放たれた。
「なっ……」
「えっ?」
ズバァッンッという濁った音が俺の隣を駆け抜ける。俺は間一髪でなんとか躱せたのか、尻餅をついた情けない格好をしていた。そして俺の隣には突き飛ばされたような格好でテミスが転んでいる。
「テミスっ!大丈夫……な、何だこれ」
慌てて駆け寄ろうとしたテミスの側には、俺がいた場所を突き抜ける形で地面が抉られていた。そして、抉られた地面もチリチリと音を立てており、ナニカが突き抜けた後にもかかわらず、崩壊を続けていた。
「カイトさん、シルフィ様が……」
「なに?!シルフィ!」
テミスに言われてすぐにシルフィを探す。すると姿はすぐに見つかった。俺たちとは反対側に転がっていたのだ。
「おい、シルフィ!……腕はどうした!」
「ごめん、まにあわなかった……」
近づいてみるとシルフィの左腕が地面と同じように崩壊していた。そしてその崩壊は今なおシルフィの体を食い荒らそうとしている。
「きをつけて、かいと。あのまりょくは、げんしょのせいれいさまの、もの。……ふれたまりょくにはんのうして、ばくはつする。だから、まほうはつかっちゃだめ……」
「あぁ、分かったよ!でも、シルフィの体はどうすれば……」
「だい、じょうぶ。せいれいかいにいけば、からだはもどるから。……でも、しばらくいっしょにいれないかも……」
「……分かった。ゆっくり休め。……助けてくれてありがとな」
「うん」
そう言ってシルフィはとびっきりの笑顔を残して精霊界へと戻っていった。あの兵器の攻撃は俺がギリギリで避けたのではなかったのだ。命を張って俺を窮地から救ってくれた。
「テミス、立てるか?」
「はい。大丈夫です!」
俺はテミスの横に立ち、目の前の兵器を見据える。兵器は次の一撃を放つためか、既に口腔内に魔力を溜め、口を動かしていた。
「ミユ、サニア!周りは頼んだぞ」
「・・・こくっ!はぁ!!」
「まっかせて!おらぁぁぁ!!!」
先ほどの衝撃に、さすがの彼女たちも驚きを隠せないでいたが、銀の槍は止まらず彼女たちを攻撃し続ける。彼女たちはそれを引きつけ続けてくれていた。
さらに先ほど放った攻撃は兵器自身をも蝕むようで、僅かながら牙の端が崩れていた。さらに、その瞬間、兵器の後ろで、ミユとサニアが銀の槍をついに叩き切った。
「行くぞ!」
「はい!」
ガシャァァンッという硬質な音が部屋を轟かせる。それを皮切りに俺とテミスが武器を構えて突入する。
「ギュルギャガガガギャギャ!!!」
本当に斬られると思っていなかったのか、銀の槍の切断に驚き、兵器の口腔内で溜められた魔力が霧散する。
「はぁ!!」
「ギギ!!!!」
ガチィィン!と銀の躯体で口を閉じ、俺の刀をその躯体で防ぐ。流石にどれだけ傷がついていても一刀で斬り伏せられるほど柔くはなかった。
「……でもな、いっつも同じ高さじゃ飽きるだろ!」
俺は“脚刃一鉄”で足を鉄のように硬く魔力で覆う。そして、渾身の“断脚”で魔力を地面に向かって放ち、その反動で兵器の躯体を蹴り上げた。
「ちっ!重てぇな!!サニア!ミユ!」
「・・・いくよ!」
「はぁぁ!!」
蹴り上げたことで閉じた兵器の口が少し開く。その中では案の定、また魔力を溜めていた。だが、シルフィのおかげで性質は分かった。ならばものは使いようだ。シルフィは溜めた魔力に別の魔力を触れさせるな、と言っていたが、爆発はしても方向は決まっている。
「・・・炎楼流し!」
「閃断・天靁!!」
サニアが籠手から発現させた爪の形を形成するほど圧縮させた炎の刃で、ミユが濃すぎる魔力がもはや透明な雷を纏っているように見えるほどの一刀を放つ。
その瞬間、彼女たちの魔力に反応した口腔内の魔力が爆発し、指向性を持って噴出する。その結果、自身の口だけでなく、天井の一部すら焼失させた。
だが、彼女たちは無傷。
なぜなら、口の正面には立たず、張り付いたように口腔を守る兵器の上部と下部を割くように技を放ったからだ。
打ち上がった球体はその空の旅行も束の間、ミユとサニアに肉を切り裂かれながら落下する。
「蒼塵濤破・極!!!」
テミスが構える槍に蒼く輝くエネルギーが収束する。やがて槍全体を覆っていたそのエネルギーはより濃い蒼を形成しながら穂先へと集中し、指先程度の大きさへと圧縮された。
そして、兵器の落下に合わせて懲りずに魔力を溜めようとするその口の中へ槍を突き刺した。その瞬間、ズォッ!という強風が駆け抜けたような音と共に兵器の口の奥が消失した。
兵器の消失した傷跡には蒼のエネルギーが焼けつくように侵食する。
「ギョ、……ギガガガ」
「……こいつはもう機械というより、一種の生命体だな……」
武器という武器は破壊され、躯体という躯体は抉られているにもかかわらず、この兵器はまだ活動をしていた。しかし、銀の槍を叩き斬られ、牙は焼失し、魔力を溜める場所すら蒼に呑まれた兵器ではどうすることも出来ない。
「じゃあな」
「ギョ——」
————久遠より至る正しき太刀
俺は魔力を湛えた刀で兵器を一刀両断する。シャラという刀から鳴るはずのない清廉な音が部屋に響く。流石に外殻を成していた銀の躯体まで引き裂くことは出来なかったが、内部の肉は綺麗に一刀両断することができた。
『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル:スキル統合 対守勢を獲得しました』




