第185話 成長の証
「みんな、来るぞ!!!!」
耳障りな音を上げながら動物で言うところの威嚇をしている兵器を睨みつける。このことから見ても、この兵器が、それなりの知性やAIのようなものを搭載しているのは明らかだろう。
俺たちはすぐに散開し、フォーメーションを整える。場所は変わらず、俺とサニアが前衛、遊撃にミユ、後方にテミスとシルフィが努める形に収まった。
「ふっ!」
「・・・っ!」
まず、俺とサニアが同時に左右から攻める。兵器は地上から1メートルほどの場所に浮かんでいるため、自然と攻撃する位置は下部になる。サニアも反対側から氷の刃で切りあげるように攻撃を与えていた。
ガキィィンッという硬質な音が響く。手に残る痺れるような感覚を引っ下げながら、一歩下がる。よほど硬い材質なのか、魔力を充填した俺の刀が数十センチしか入り込まなかった。
「・・・くっ!」
それはサニアも同じだったようで、痛みを逃すように少し下がっていた。
「はぁっ!!」
その俺たちの後ろから追うようにミユが飛び上がり大上段から【天劔】を振り下ろす。兵器はそれに迎え撃つように広げた針を回転させ、円盾のようにする。だが、対するは全てを斬り裂く天の劔。受け止められるはずもなく——。
まるで障害物などないようにスッとその劔は振り下ろされた。
————俺に向かって。
「えっ?!」
「っ!?」
突然の仲間からの攻撃に、“予知”が反応しなかった俺だが、間一髪で躱せたことを褒めて欲しい。
受けることのまずさを知っている俺は、全力で横に転がった。そのおかげで一瞬前まで俺が立っていた場所に劔を落ちて来る。幸いと言うべきか、地面は破壊不可能なダンジョンの素材のため、破片で傷つけられることはなかったが流石に肝が冷えた。
「……ミユ?」
「ち、違うの!!……ずらされた!!」
「ずらされた?」
ミユの反応からして操られた攻撃ではないことを悟った俺は兵器からさらに距離を取る。その間にもミユから今の状況を聞いた。
簡単に言えばなんてことはない。ミユの劔撃の軌道をあの回転する針の円盾でそらしただけのこと。しかし、触れれば斬れるこの劔を受け止めずに逸らすことなど可能なのだろうか。……いや、可能だったからこうなったのだが。
ミユや俺でさえも考えていなかった防御方法によって、危うく同士討ちをするところであった。
「ごめんね、カイトくん……」
「いや、それはどうしようもない。そもそも俺たちができると思っていなかったからな。……試そうとも思わないが」
それにしても、“対守勢”というスキルがあるからなのか、防御力がここまで高いとは思わなかった。俺の刀は言わずもがな、サニアもあの武器のおかげで相当攻撃力は上昇している。
さらに、全てを斬り裂くはずのミユの【神創武具】までこの有様では、近接戦闘は厳しいかもしれない。
「なら……」
俺はテミスとシルフィに合図を出し、魔力を練り上げる。皆、ここまで培ったものは数知れない。まずは、小手調べだ。
「疾る四柱の雷霆!!!」
「蒼塵旋嵐・細!!!」
「舞い踊る嵐の剣!!!」
俺は手のひらを兵器に向け、レイピアのような白き雷を四本放つ。そして、兵器の正面にいたテミスとシルフィも新たな技を放つ。
テミスは自分の槍に蒼の嵐を纏い突き放つ。
シルフィは宙に何本も嵐のような剣を回転させながら、雨のように降り下ろす。
俺の雷は杭のように兵器へと突き刺さり、そこから数千万にも及ぶボルトが流れる。それによって兵器は一瞬ショートし、後方部分から煙が上がった。
そして、彼女たちの攻撃は離れた場所からでも、狙った場所を喰い貫かんと、蒼の嵐は槍のように細く鋭く兵器の身を削っていく。
さらに上からは同じく嵐を剣の形に無理やり落とし込んだような凶悪さをしており、俺の攻撃によって動きが固まった隙を縫って、上部の針の盾を突き壊さんと降り注ぐ。
彼女たちの攻撃が止んだのは、そこから十数秒経過した後だった。
テミスの攻撃は兵器を貫きはしなかったものの、相当深くまで喰い漁ったのが分かる。そしてシルフィの攻撃を受け止めていた針の盾は、そこかしこに隙間が見えるほどボロボロになっていた。
「ミユっ!サニアっ!」
「うんっ!はぁっ!」
「・・・こくっ!」
ところどころから煙を上げている兵器の隙を見逃す俺では無い。俺はすぐに2人へ合図を出し、全員でボロボロになった上部を狙う。
俺は魔力を湛えた刀を、ミユは全霊の力を込めた天の劔を、サニアは透き通るほど純粋で強固な氷を纏った足を降り下ろす。
「斬光!!!」
「重斬・天爆!!!」
「・・・氷楼落とし!!!」
刀に貯めた魔力を推進力としてもはや光すら斬り裂くほど速く。武技“閃断”すら追いつけぬほどの速度で斬り下ろす。
ミユは有り余る魔力を天の劔に込め、着撃と共に魔力暴走を起こして爆破させる。毀れない劔だからこそできる芸当だろう。
サニアは自身と同じ大きさほどもある氷の刃を纏った踵落としを放つ。もはや強すぎる冷気によって、触れる前から兵器は凍っていく。
「———……ピピィーー。ギ、ギガガガギ……——」
「やっ……」
思わず口走りそうになったフラグをすんでのところで留め、兵器の様子を伺う。もはや傷ついていない箇所はないほどボロボロになり、煙だけでなく火花さえ散っている。
「やったかな?」
「ここまでやれば流石に……」
ミユとテミスが呪いの言葉を嘯く。
「ガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!」
その瞬間、壊れる寸前のコピー機のような音を上げながら兵器は砕ける端も省みず、強制的にその躯体を動かしていく。
そして球体の下部、そのさらに下部分から何か扉のようなものが開き——。
「避け——っ?!」
危険を感じた俺はすぐにみんなへと警戒を伝えようとした。しかし、視界に映ったのは、防ぐような態勢をしながら鈍色の槍にも針にも見えるもので心臓を貫かれたミユとサニア。
そして、球体の下部正面より突き出た砲塔から放たれたレーザーがテミスの槍ごと、シルフィの風の揺らぎごと彼女たちの体を貫く光景だった。
「———……」
だが、何が起きたか確かめる間も無く、俺の目の前には所狭しと広げた針の穂先を全てこちらに向けた殲滅兵器が鎮座していた。