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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第6章
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第184話 星霊の誕生

「……あたししってるよ」

「シルフィ?」


 俺の側を飛んでいたシルフィが神妙な面持ちで告げる。しかし、その目は人生の仇でも見つけたように、球体を睨め付けていた。


「むかしはね、せいれいもみんなこのせかいのしぜんといっしょにすんでたんだ——」


 動く気配がない球体に一応注意を向けながら、シルフィに続きを促す。すると、ゆっくりとシルフィは精霊の歴史と戦いを語り始めた。






 ——今から何千年も前の話。世界の誕生とともにこの世にはさまざまな自然が生まれた。空や大地だけでなく、雨や風など全てが世の調律とともに生まれた。


 そこにある一つの意識体が産まれた。


 これは完全に偶然の産物であった。世の調律に混ざって起こる災害が擦れ合い、エネルギーが飽和し弾けるその寸前、エネルギーに意識が宿り、瞬く間にエネルギーを制御した。



 それが始まりの星霊。



 シルフィのような一属性に特化した『星霊』ではなく、まさしく星を具現化した存在。自然を一つの生命として捉えた存在だった。


 そしてその『自然星霊』とも言うべき存在はさまざまなものに意識を与えた。樹、音、風、火、水、土など自然に属するありとあらゆるものに意識を与え、自らの存在をなぞらえて『聖霊』と称した。


 それが、属性を代表する精霊たちの頂点となる意識体。そしてさらに葉や枝、それらの擦れる音、そよ風、種火、水滴、小石など、ありとあらゆるものに『精霊』が『聖霊』の系譜として宿り、世界に精霊が満ちた。


 また、世界に精霊が満ちる頃には、その他の種族も数を増やしていた。獣人、魔人、人間だけでなく、エルフやドワーフなど、さまざまな種族が群れを作り、共同体として生活していた。




 彼ら精霊は自分たち以外の生命に興味津々だった。しかし、彼らを目にすることが出来る者などほとんどいなかった。


 それはそうだろう。

 何せ、彼ら精霊は自然に宿る意識体。実体となる体を持たず、また何かに媒体していないとエネルギーを保てない矮小な存在だったのだから。


 彼らは自らの体の役割を果たす自然から動くことが出来なかった。


「やぁ」


 誰もが意気消沈していたそんな中、一人の人間が彼ら精霊に話しかけて来たのだ。彼らは歓喜に包まれた。ようやく彼らも他種族とコミュニケーションを取ることが出来る、と。


「うーん、こちらの声は聞こえないのかな……。確かに()()ことは分かるんだけど……」


 しかし、悲しいかな。

 彼ら精霊は喋る言語を持っていなかった。知識を持っていなかった。関わり方を知らなかった。


 喜びに舞い上がったのも束の間、すぐに悲しみが彼らを覆った。


「ア、アナ、タハ?」

「え?」


 そんな時、たまたま近くに来ていた『土の聖霊』がその青年へと話しかけることができた。どこで学んできたのかは知らない。彼ら精霊には畏れ多く聞くことなどできない。しかし、確かに話すことが出来たのだ。


「僕の声が分かるのかい?」

「エ、エ。ワカ、リ、マス、トモ」

「ほんと?!よかったぁ!!これで、————に済む……」

「ドウカ、シタ、ノカ?」

「ううん!!僕は君みたいな子を待ってたのさ!話をしようよ!」

「ア、ア」


 青年との会話は耳を疑うものばかりだった。灯りの消えない町、白に染まった街、血湧き肉躍る戦い。どんな豪奢な街並みもどんな悲惨な戦場も彼らにとっては娯楽でしかなかった。


 なぜなら彼ら精霊には互いを思う心がなかった。自然に宿った意識体、そこで死ぬことなく、また互いに干渉することなく時を過ごす彼らにとって、同族という意識がとても低かった。


 そのため、青年の語る物語の裏で、どれほどの精霊が犠牲になっているか想像もつかなかった。そしてそれは『聖霊』であっても同じことだった。


『聖霊』はあくまで同じ自然を媒体とする意識体を生み出す装置。精霊の母なる立ち位置にあるが、母性は一欠片もなかった。


 たとえ、『星霊』によって産み出された聖霊(もの)たちだとしても、意識体でありながら感情をも持つ『星霊』とは、存在の格から違っていたのだ。



 ——だから、気づかなかった。



 彼らは娯楽を求めて、青年の求めるがまま従った。青年に魔法を与え、契約を与え、力を与えた。そしてその結果、青年は笑顔で最悪の提案をするのだった。


「君たちの()に会わせてよ」









「こうだいなしぜんがひろがっていただいちは、なぞのきかいにもやされて、ちからをもつせいれいは、にんげんたちのどれいになった。つちのせいれいからせいれいたちとのけいやくほうほうをきいたから」


 結果的に『土の聖霊』やその他の精霊たちが、好奇心に従って人間を歓待した結果、悲劇は起こった。


 どこから聞きつけたのか『星霊』の力に目をつけた人間が、彼らを利用したのだ。


 青年に出会った母なる『星霊』はすぐにその人間が邪悪であることに気づいた。しかし、『星霊』のいる場所は本来であれば、人間では到底辿り着けない大地の遥か向こう。


 けれど、青年を歓迎した精霊がその人間と交わした契約により精霊の大地へ自由に行き来できるようにしてしまった。


『星霊』の持つ“星霊眼”で人間を見て、全てを悟ったときには、もう手遅れだった。


 人間の後ろには数人の人間と夥しい数の機械が蠢いていた。


 その結果、『星霊』が棲む広大な自然が広がる大地は、この機械の大群に焼き尽くされたらしい。


 だが、『星霊』もただでやられることはしなかったようだ。進軍してくる機械を打ち倒しながら、同族を救うため、『星霊』自身のエネルギーを爆発させて新たな小世界を創り出した。


 その爆発によってほとんどの殲滅兵器は大破、損傷、再起不能にしたらしい。そして、その小世界に手の届く範囲の精霊たちを移した。それが今の『精霊界』だそうだ。


 さすがに全ての精霊や聖霊を救うことは出来なかったそうだが、世界に散らばるほとんどの精霊を精霊界へ転移させることが出来たらしい。


 だが、元はこの世界に根付いた存在。それが異なる世界なら力が弱まるのは当然だった。


 今の精霊界は精霊にとって安全なだけで、攻め込まれれば敗北必至なのだそうだ。


 目に見えないシャボン玉。場所が割れれば、指の一本で壊せてしまう脆い世界。


 目の前のこの殲滅兵器はそんな精霊たちの苦い思い出を作り出した当人だそうだ。


「そしたらシルフィはその時代から生きているってことなのか?」

「ううん、これはあたしじゃないきおく。ほしをかたどるせいれいになってから、おもいだしたきおくなの」

「なるほどな。だとしたらこいつの弱点とか分かるか?」

「……ごめんなさい。倒したのはせいれいさまだけだし、えねるぎーのばくはつでしかたおせてないからわかんない」

「そうか。それなら仕方ない。殲滅兵器なんていう物騒な名前なんてしているが、所詮は機械なんだ。破壊できるってことは分かってるんだから、それで十分さ」


 俺は肩に掛けていた大太刀を抜き構える。俺の動きを感知したのか、それまで一切の挙動を行わなかった球体が僅かに()()()


「それにまだまだ色々聞きたいことはあるが、いつまでも休んでちゃいられねぇだろ?シルフィ、お前にも因縁があるってんならここでそのケリをつけようぜ」

「そうだね!!こんな松ぼっくりは早くやっつけちゃおう!」

「・・・まつぼっくり?」

「……うん、そうだよね。またばったりがなにかはわかんないけど、せいれいのちからがどんなもんかおしえてやる!!」

「そうですね!それにこのダンジョンも終わりが近いと思われます。早く脱出しちゃいましょう!」

「あぁ!!」

「ギギギギギギ……ギチッ…ピィーーーーー!!!!」


 意気込みをそれぞれに、全員が戦闘態勢に入った瞬間、耳障りな機械音を鳴らしながら、先程うっすらと上下にずれた断面が完全にずらし、下は半球のまま、上部は幾本もの針を作り出した。


 そしてその針は傘のように大きく広がり、回転しだした。


「みんな、来るぞ!!!!」

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