第150話 森の数奇な邂逅
「うわ、蒸し暑っ」
ヤマタノオロチの居たボス部屋から続く次のエリアは霧が濃く湿度の高い森だった。しかもそこはただの森ではなく、大量の蟲が蠢く最悪の森だった。
「森に虫がいるのはわかるが、ここまで大量にいると流石に虫唾が走るな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「いや、ちがうぞ?狙ったわけじゃないからな?」
俺は誰かに対して言い訳をする。自分でも誰に言い訳しているのか分からないがな。
名前:コノハマチュウ
スキル:吸血Lv.10 木葉隠れLv.9 毒血玉Lv.8
俺は刀に炎を纏わせながら蟲を切り払い突き進む。本来、森の中であれば、木々に燃え移る可能性を考えて炎系統の魔法は使用しないのだが、この森は湿度の高い霧のおかげで木々に燃え移ることはなかった。
しかも木々の葉や枯れ葉でさえ水に濡れているため黒炎を使わない限りは燃え移ることはないだろう。さらに炎は光に釣られて寄ってくる蟲を消すこともできるため、一石二鳥となっていた。
「ほんとにこいつらしかいないのか?」
それからしばらく進んだ。景色は未だ変わらず、襲ってくる魔物も一つのこの虫しかいない。所々にはこの森に生息していたであろう魔物の死骸もあるのだが、そのどれもが干からびたような死体だった。
けれどもだからこそ、不必要な警戒をすることもなくなった俺は、焦らずに階段探しに勤しむこともできた。
それからまたさらに進むこと3時間。階段を2つほど降った俺はようやく変化を見つけることが出来た。
「キュイーーーーー!!!」
「うっ?!」
そのエリアに降り立った瞬間、頭が割れそうなほどの高音が辺りに響き渡った。それと同時にそれまで絶えず襲ってきていた蟲たちが颯爽と音から逃れるように彼方へと飛んで行ったのだ。
「なんだ?あの音が苦手なのか?」
一匹の例外もなくその音から離れるように逃げたとあっては原因を確かめなければならない。ただの高音でも奴らが逃げてくれるのであれば、俺でも出すことは可能だが、特殊な笛などが必要な場合は話が変わってくる。
そうして音の聞こえた方へと歩いて行くと、森に不釣り合いなほど映えた色をした生物が複数纏まっているのを見つけた。
「猿・・・いや、あの体格はゴリラか?」
腕が異常に長く、全身を真っ白い毛で覆われている筋肉隆々のゴリラ。そんな一体でも相当な力を持っていそうなその魔物は、群れを成すのか五体もいた。
俺は咄嗟に“偽装”スキルを使って近くの大きな木の後ろに隠れる。そして何をやっているのか聞き耳を立てていると何やら声が聞こえた。
「グアル、ゲルルァ」
「グガ、ゲガァル」
「グガァァ」
「ちっ、流石に分かる言葉で話してねぇか」
「グルガ?!グァルル!!」
「ちっ!」
俺は思わず悪態をついた。自分では小さな声で漏れ出たくらいだと思っていたのがしかし、どうやら彼らは耳もいいようで、俺の存在に気付かれてしまった。
すぐさま探知を開始した一体はよほど探査能力が高いのか、すぐに俺の居場所を突き止め、その長い腕を使って木々をなぎ倒しながら向かってくる。
「ま、ちょうどいい。この刀の初陣と行こうぜ。流石に虫は初陣としちゃ弱すぎるからな」
魔力タンクとして使えるこの刀は“賜与魔法”が必要とは言え属性の付与も可能だったため、虫を倒すのにも使い勝手が良かった。
だが、刀として活躍はしていなかったのだ。けれどこれだけ力のありそうな敵が相手であれば刀の錆になるのに不足はないだろう。
「カァ!!!」
「ふっ!!」
俺を改めて両の目で認識したゴリラは、その自慢の両腕でもって俺を握り潰そうとする。俺はそれを咄嗟にジャンプすることで回避し、その大きな腕を踏みつけた。
そして位置を入れ替えるように飛び越え、振り向きざまにその自慢の腕を一本叩っ斬る。すると、あれだけ血管が浮き上がり、筋肉が強靭な鎧のようになっていた腕があっさりと宙に舞う。
「グァァァ?!!!」
「ゲグァ!!」
「思ったより軽いな。いや、この感じは・・・、へぇ、刀身の先端に重心があるのか?」
左腕を落とされたゴリラが驚愕の声を上げ、どこか見せ物的な雰囲気で俺たちの戦いを眺めていた仲間は怒りの声を上げる。
そんな彼らの義憤を尻目に俺は改めてこの刀の振りを確かめていた。実際にゴリラの腕を落とすまではこれまで扱ってきた刀と遜色は無かったのに、腕を落とすインパクトの瞬間、振りの速度が上がったのだ。
だが、そうなると急に刀が暴れたように感じたため、刀に振り回されそうになったが、感覚を思い出してみるとなるほど、刀身の先へ重心が移ることによって遠心力を上げ、速度と威力を底上げしたのだろう。
「けど、だいぶ癖あるな。斬る時に毎回これじゃ慣れるまで時間かかるぞ?」
そう、まるで刀自身が意志を持つように、物体を斬る際にいちいちインパクトのタイミングが変われば、いくら強い刀だとしても扱いづらい。
確かに刀として面白いし、備わっている能力も強い。そのためそれだけで手放すようなことはしない。これも慣れるまで修練として受け入れるしかないだろう。
「ガァァ!!」
「グギャァァ!!」
そうしているうちに先ほどまでどこか余裕だった彼らが、怒りに任せて全員で襲ってくる。その後ろでは腕を失った奴を回復させるゴリラまでいた。
「ちっ!再生させられるのか?!」
流石にそれは厄介が過ぎる。基本的に部位欠損を治療できるのは自身のスキルのみという認識が崩れるとともに是非ともそのスキルが欲しい、と考えた俺は彼らを守るように攻めてくる奴らを突き抜けて、ヒーラーから狙うことにした。
「はっ!」
「ギャ?!」
「ギャヒ!」
俺は右から狙うやつの足首と左から迫るやつの手首を切り落とし、正面はガラ空きだった胴体を胴抜きの要領で両断する。するとここまで力の差があるとは思っていなかったのか、ヒーラーがこちらに気づいた時にはもう俺は目の前にいた。
「そのスキルよこせ」
「ギュァ・・・」
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