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クレイジーメイド

「え! じゃああなた、カインと一緒のベッドで眠ったの!?」


 わたしはパンを頬張りながら、こくこくと頷く。あ、神の使いっぽい喋り方は開始五分で飽きた。今では普通にしゃべっているが、アメリアは特に気にしていないようだ。……若干立場も逆転してきている気がするが、気のせいだろう。


 アメリアは額に手を当て大きくため息を吐き、呆れたように頭を振った。


「……信じられない。いくらならんでも警戒心がなさすぎるわ。それに十五歳にもなって見ず知らずの女性と同衾するなんて……孤児院ではみんな一緒のベッドで寝てたっていっても……私の教育が悪かったのかしら?」


 ぶつぶつと呟くアメリア。わたしは休みなくスープをスプーンですくい、飲む。


「なまじ実力があるだけに、自分の力を過信しすぎるところがあるのよね。なんでもなんとかなるって楽観的に思ってるんだわ。状況判断能力が低ければこれから先、上の立場に立つことは難しいのに……せめて部隊長クラスには出世してもらわないと孤児院への仕送りも……」


 わたしがスープを飲み終わっても、アメリアの独り言はまだ続いていた。


「いや、一応わたしのことは捕まえようとしたらしいですよ? ただ、縄をかけられなかっただけで」


 わたしはカイン君のフォローをしておく。フォローになっているかどうかはわからないけど。


「縄をかけられなかった? どういうこと?」


 アメリアの眉間にはっきりとシワが刻まれる。せっかくの可愛い顔が台無しだ。説明するより、実際に見てもらった方が早いかな?


「ちょっとわたしに触ってみてください」


 わたしはスプーンを置き、アメリアに手を差し出す。伸ばされたアメリアの手は、わたしの手をすり抜けた。アメリアは大きく飛びのき、座っていた椅子は音を立てて倒れた。


「ど、どういうこと? あなた人間? あ、神の使い? ……でも、さっき私と握手したわよね?」


「神様から与えられた能力です。わたしから触ろうとしないかぎり、触れないみたいです。だからカイン君も諦めたみたいですよ」


 アメリアは目を見開いたまま絶句し、口に手を当ててしばらくなにか考えた後、わたしにスプーンを差し出した。


「ちょっとこれを持ってみてくれる?」


 わたしは言われるままスプーンを手にした。アメリアはわたしの腕にふれようとしたが、やはり、すり抜けてしまう。


「だめね。じゃあこれはどう?」


 アメリアはわたしが手にしているスプーンをひっぱった。ぐいぐいと力を込められるが、わたしは離さなかった。次の瞬間、アメリアは置いてあったナイフを手に取り、スプーンを持っているのわたしの手に突き立てた。


 ダンッ!


 テーブルにはわたしの手をすり抜け、ナイフが刺さっている。……こ、怖い! この子、怖いよ!


「物を持っている間は実体があるのかと思ったけど、違うのね。……あなた予想以上に危険だわ」


 危険なのはあなたです! という言葉をぐっと飲み込む。


「どういうことですか?」

「あなたを止める手立てを、私たちは持っていないということよ」


 わたしはナイフを刺された自分の手をさする。実際には刺さってないのだが、わかっていても恐怖で鳥肌がたっている。


「たとえば、今あなたが王座に乗り込み、王を殺そうとしても、私たちは逃げることしかできないわ。……お腹は空くみたいだから、餓死させるのは有効かしら?」


 見た目に反して恐ろしいことを次々と口にする少女。わたしはぶるぶると首を振った。


「と、とんでもないことでございます! わ、わたしはそんな王様を殺そうだなんて大それたこと、これっぽっちも思ってないです!」


 わたしは涙目になりながら否定した。先ほど交わしたあつい握手はなんだったのだろう?

 

「あなたにその気が無くても、できるということが問題なのよ。周りにこの能力のことはできるだけ伏せて置いたほうが良さそうね。利用されるだけよ」


 アメリアも自分のスキルの事を大っぴらにはしていない。鑑定のスキル持ちでもない限り、他人に自分のステータスがバレることはない。世の中には黙っていた方がいい事が結構あるのだ。


「あなたがこちらの味方で良かったわ。なぜかはわからないけど、カインのことを大事に思ってくれているのでしょう? そういえば、異世界から来たあなたがどうしてカインのことを知っているの?」


「……詳しくは話せません。でもわたしがカイン君の敵にまわることはありませんから、安心してください」

「そうね。信じるわ。えーと、名前をきいてなかったわね」

「あ、優理です」

「ユーリね。改めてカインをよろしくね」


 にっこりとほほ笑むアメリアは相変わらず可愛らしいのだが、初対面の可憐な印象はどこへやら……。「裏切ったら許さない」と書いてある笑顔に恐怖を感じ、額にたらりと汗が流れた。


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