表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/122

子ども達の名前を聞きました

「遅いぞユーリ、どこに行ってたんだ?」


 営業開始五分前にギリギリで間に合った! カイン君は服を着替えに行ってしまったので、わたしがルークスに説明をする。


「す、すみません。ちょっとアイテムバッグを探しに行ってました。……見つかりましたよ」


 わたしはルークスにアイテムバッグを手渡す。ルークスは、ものすごく驚いて喜んでくれた。すぐにエステラにも報告している。エステラも飛び跳ねて喜んでくれた。猫耳メイドのぴょんぴょんジャンプ、かわいい。着替えを終えたカイン君も階段から降りてきた。


「ありがとう! ユーリ、カイン! どこにあったんだ?」


 わたしはカイン君と顔を見合わせる。正直に話すと、色々めんどくさいので「道に落ちていた」と、説明した。


「そうか……歩いてる途中で落としたんだな。見つかって良かった……! で、その子たちは? ん? どこかで会ったことあるよな……?」


 ……やっぱり、気になりますよね? エステラは覚えていたみたい。子ども達に話しかけているが、盗みの罪悪感からか、どの子も口を閉ざしてしまっている。


「えーとですね……父親が事情があって育てられなくなったみたいなので……引き取ってきました」


 正確には金貨を偽造して金で買ってきたのだが、そんなことは言えない。訂正されるかな? と思い、ちらりと子ども達に目をやるが、相変わらず口を開こうとしない。俯いて、人形のようにじっとしている。そうこうしてるうちに、ご主人がわたし達を呼びにきた。


「おーい、そろそろ店を開けるぞ。……って、どうしたんだ? その子達?」


 わたしはご主人にも同じ説明をする。同じ年頃の子どもを持つ親として、心苦しいのだろう。ご主人は、いつもは見せることのない、悲しげな表情になった。


「あ、それと財布が見つかったんです! 遅くなって申し訳ございません。宿代、お支払いしますね」


 わたしはご主人にも不足分の金貨を渡す。少し多いと言われたが、迷惑料だと思って受け取ってほしい。


「あなた? アイスクリーム売り場にお客さんが並んでいるわ。早く店を開けないと……あら? どうしたの? その子達?」


 奥さんが戻ってこないご主人を呼びにきたので、わたしはまた同じ説明をする。奥さんは子ども達の身なりを見て、「サンの服でよければ」と言って、走って二階に行ってしまった。


「みんな! 何してるんだ? もう八時過ぎてるよ! ……ってなんだ? そいつら」


 いつまでたっても誰も戻ってこないので、サン君がしびれを切らして呼びにきた。わたしはサン君に同じ説明をしたが、事情を知っているサン君は、なんとなく予想がついたみたい。大きなため息をついて、首を横に振った。


「はぁ、お姉さんの行動には驚かされるよ……。とにかく! 今は店を開けないと! せっかく並んでくれてるお客さんに悪いだろ? 父さんと三つ編みのお姉さんは厨房に入って! 金髪と黒髪のお兄さんは接客して! 母さんとお姉さんは……あれ? 母さんは?」

「あ、サン。この方達の財布が見つかったみたいで、お代はもういただいたんだ。もう手伝っていただかなくても……」


 サン君は再び、大げさなため息をつく。


「……父さん、俺たちだけであれだけのお客さんを捌ききれるわけないだろう? この状況を作ったのはその人達なんだから、責任は取ってもらわないとね」


 ……ごもっともでございます。流石跡取り息子、しっかりしてんな。それだけ言うとサン君たちは持ち場にすっ飛んで行った。わたしは奥さんが戻るのを子ども達と一緒に待っている。サン君から、奥さんが戻ったらすぐに、受付で泊りのお客さんのチェックアウト対応をするように指示を受けた。ただ待っているのもあれなので、子ども達に自己紹介をしてみる。


「……あの、わたしはユーリと言います。あなた達の名前を教えてもらえますか?」

「「「…………」」」


 ……心を開くまでは口も開かないってやつですね。マルセルがおろおろしながら必死で取り成そうとしてくれているが、効果は薄いようだ。……ここは場を和ますために、わたしが一発芸でもするべきだろうか。


「お待たせ、これなら多分ちょうどいいと思うわ。……男の子の服だから、女の子は気に入らないかもしれないけど我慢してね」


 奥さんがサン君の服をもって、階段から降りてきた。た、助かった……! 奥さんの明るい声で、重かった空気が一気に軽くなる。もう少しでわたしの一発芸、「無表情で鼻の穴ひくひく」を披露しなければならないところだった。子ども達は奥さんが手にした服をじっと見つめ、どことなく嬉しそうな顔をしている。


「そうね、ついでにお風呂にも入っちゃいなさい。まだお客様もいらっしゃらないから、今の内よ! 急いで!」


 子ども達は奥さんに連れられて風呂場へと行ってしまった。ぽつんと一人残されたわたしは、誰もいなくなったカウンターに座る。え、普通に金庫とか置いてあるんですけど……。不用心だな。ここも改善ポイントかも……。


 しばらくするとチェックアウト希望のお客様がいらっしゃったので、あわてて宿帳を確認して代金をいただく。……いや、これわたしに任せちゃだめな仕事じゃない? え……合ってるよね? このお客様は二名様一泊で、夕食ありの朝食なしだから二万Gだよね? ひいい、責任重大だ! 奥さん、早く戻ってきて……!





「お待たせ! ほら、みんなきれいになったでしょう?」


 おかえりなさい奥さん! 心の底から待ってました! 奥さんの後ろに隠れるようにして一列に並んでいる子ども達は、お風呂に入って服を着替えた結果、見違えるようにきれいになった。……あれ? なんかみんな奥さんになついてる……? ちょこちょこと、奥さんの後をついて回っている。その様子をみて、わたしはカルガモの親子を思い出した。


 わたしは奥さんに宿帳を見せながら、チェックアウトされたお客様の報告をする。いただいた代金を渡して受付を変わってもらった。あ、WEFは国産ゲームなので、わたしでも問題なく字を書いたり読んだりできるよ! でも登場人物の名前は西洋風が多いよ! 世界観? なにそれ!




 今度はわたしが子ども達を引き連れて食堂へと向かう。お客様がいない間に賄いを食べなければ! エステラはアイスクリームを次々にカイン君とルークスに手渡し、ご主人はランチの仕込みにかかっていた。ものすごい速さで野菜を刻んでいる。こ、これが【調理速度UP】スキルの実力か……! みんなが働いている横で申し訳ないが、わたしは子ども達と一緒に賄いをいただくことにした。カイン君も食べていないはずなので、あとで交代しなければ。


 本日の朝の賄いは、トマトチーズリゾットです。野菜もたくさん入ってるし、自家製コンソメがいい味出してる。子ども達にも勧めると、はふはふしながら急いで食べ始めた。……やけどしないようにね。わたしは子ども達に話しかけてみる。


「おいしいですか?」


「……うん、おいしい」

「おいしいっ!」

「もっと食べたい!」

「おかわりっ!」


 おぉっ! 初めて会話が成立した! このまま名前も教えてもらえるかな? わたしは再び名前を聞いてみる。金髪おかっぱの女の子がリタ、ふわふわ緑髪の男の子がノア、一番体が大きい茶色の髪の男の子がウィル。そして青髪の男の子がマルセル。第一印象はかなり悪かっただろうが、ちょっとは心を開いてもらえたみたい。子ども達はおかわりを貰っていたので、もうちょっと時間がかかりそうだ。すでに食べ終わったわたしは、カイン君と交代してアイスクリーム売り場で接客に励んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ