ドラゴンとの邂逅
まじか……まじでか……。わたしは目の前のドラゴンを凝視する。威風堂々たるその体躯は、先ほどの大蛇など比ではない。が、その瞳にははっきりと知性が感じ取られ、同じ鱗持ち爬虫類顔でこうも印象が違うものか、と感心してしまった。
『人の子よ…………む? 主は……人ではないのか……? まあ良い。すまぬが種をこちらへ渡してくれぬか。この泉の側に根付かせてやりたいのだ……』
種? わたしが持ってる種っていったら……
「うわー! 本物だっ! 本物のドラゴンだっ!」
駆け寄ってきたルークスが、ぺたぺたと無遠慮にドラゴンの体を触りまくっている。……空気を読んでください。
わたしはルークスを軽く諫めると、改めてドラゴンに向き直る。するとドラゴンの後ろに魔獣の首輪をもって近づくエステラの姿が見えた。……やめてください。
わたしは手で大きくバツ印を作り、エステラの行動を止める。嫌な予感がして辺りを見渡すと、カイン君が離れた位置で詠唱に入っているのを見つけたので、大声を上げて慌てて制止する。
『……続けても良いか?』
「あ、はい。すみません、お待たせしました」
話の腰を折ってしまったが、ドラゴンはおとなしく待っていてくれた。心が広い。
「種って、これの事ですか?」
わたしはポケットからレナウ村で拾った種を取り出し、手の平にのせてドラゴンに見せた。
『正しく。……我らが同胞よ、ゆっくりとこの地で魂を休めるが良い』
ドラゴンは器用に尾を使って穴を掘る。わたしがそこに種を落とし、土をかぶせた。その様子をそばで見ていたルークスが口を開く。頼むからおとなしくしててくれ……!
「ドラゴンは、魔獣だよな? なんで魔物のぽきゅぽきゅが同胞なんだ?」
『……人が勝手に呼び名を決めているだけで、魔獣も魔物も違いはない。種族は違えど、この森で生まれ育ったものは皆、等しく仲間である』
「……ぽきゅぽきゅってこの森から生まれたんですか?」
『……あぁ、彼らは花の種なのだ。より遠くへ分布を広げようとするあまり、人の住む地へ踏み入ってしまうこともあるのだが……大抵の場合、戻っては来ぬ』
わたしは胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
「ごめんなさい……ぽきゅぽきゅを倒したの、わたし達なんです。あとここへ来る前に大きな蛇も……」
ドラゴンは金の瞳でじっとわたしを見据える。瞳孔がわずかに大きくなった。……心の中まで見透かされているような気分だ。
『謝る必要はない……我らの世界は弱肉強食……強いものが生き残るのが道理。主らの方が強かった……それだけの事だ。……この世に生まれ出でた時より、我らには二つの本能がある。生きること、強くなること。その本能に従って只、生きるのみ……』
「弱肉強食? じゃあ俺たちが勝てば、一緒に来てくれるのか?」
自分に都合のいい部分しか聞こえていないルークス。目を輝かせてドラゴンの返答を待っている。だから今はそんな話では……
『……よかろう。我を従えたければ、その力を示すが良い』
いいんですねっ‼︎ さすが森の守り神様は心が広くていらっしゃるっ‼︎
ここでは他の者の迷惑になるということで、場所を移すことになった。一足早く、ドラゴンの背中に乗せてもらう。
『……では行くぞ』
ばさりと両翼を広げ、ドラゴンが飛び立つ。あっという間に高度を上げ、先ほどまでいた森が遥か眼下に見えた。わたしは振り落とされないように必死で捕まる。
「うわー! すごいなっ! もうこんなところまで!」
ルークスは大興奮でドラゴンの首に捕まり、身を乗り出して下を見ている。はしゃぎ過ぎて落ちないでくれよ……。
エステラは自分の故郷の島が見えないかと、キョロキョロしていたが、ここからでは見えなかったらしい。少し残念そうだ。
カイン君はというと、なにやらぶつぶつと考え事をしている。耳をすませてみると、ここから落ちた場合、どうすれば助かるかの算段を立てているらしい。……試しに飛び降りないでくださいね?
というわけで、わたし以外の三人は高いところ平気組らしい。苦手なのはわたしだけ。正式にドラゴンが仲間になってくれたら、座席と安全ベルトを取り付けよう。そうしよう。
しばらく飛んだ後、ドラゴンは荒野へと降り立った。わたし達は順番に背中から降りると、ドラゴンに礼を言い、申し訳無いのだが作戦タイムを取らせて欲しいとお願いした。快く了承してくれるドラゴン。その余裕は自信に裏打ちされたものだろう。わたしはこっそりとドラゴンを鑑定させてもらう。
【レッドドラゴン】
LV :99
HP :99999/99999
MP :99999/99999
攻撃力:9990
防御力:8320
素早さ:7580
スキル:【薙ぎ払う】【飛行】【咆哮】【ファイヤブレス】【詠唱短縮】
魔法 :【トルネード】【イラプション】【メテオ】
レベルカンストかよ……これ、明らかにラスボスの魔王より強いからね? わたしは頭を抱える。手に入れててよかった最強装備。エステラの弓を交換してもらい。わたし達は円陣を組んで作戦会議に入った。