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地下宝物庫

 わたしたちはお目付け役のオルランド中将と一緒に、地下宝物庫へ向かう階段の前に立った。ひんやりとした石の壁には苔のようなものが生えており、かびの臭いと淀んだ空気から、長い間人が訪れていないことがわかる。ランプの灯りの外で、小さな虫が動いたような気がした。


「レディ、大丈夫ですか? 足元が滑りやすいので、お気を付けください」


 ランプを持ったオルランド中将が、わたしに手を差し出してくれるが、このどこまでも続くような螺旋階段で足を滑らせたら無事では済まないだろう。二人で落ちるよりわたしひとりが落ちた方が絶対に良いので、エスコートは丁重にお断りした。


「昔は転移の魔法陣があったので、この様な階段を降りずともよかったのですが……」


 WEFの世界は三度、大きな戦争が起こっている。一度目は発展した科学による兵器の戦争。戦争が終結したとき、人口の大半は失われ、大地は穢れ、水は毒になっていた。科学は禁忌とされ、人類は原始の生活に戻ることを余儀なくされた。だがそれに納得のいかない残された人類は、新たなエネルギーとして【魔素】とよばれる物質を発見し、【魔法】を生み出した。魔法によって人類は再び発展し、残っていた清浄な大地を空へと浮かべ、そこに移り住んだ。


 しかし、歴史は繰り返す。人類は再び魔法による戦争を始めた。それを先導したのが魔王だと云われている。少ない資源を奪い合い、争いを続け、残った僅かな自然もどんどんと失われていった。二度目の戦争は、空に浮かんだ大地を四分割するほどの特大魔法によって魔王を倒し、終戦を迎える。残された人々は分割された浮島に移り住み、それぞれに精霊を崇めた。そして四つの浮島の中央に人工の島を創り、そこに城を建て、四つの島を支配する一人の王を定めた。


 しばらくの間は平和が続いたが、再び戦争が起こる。四つの島の長が、王に対して反乱を起こしたのだ。その陰にも復活した魔王の姿があったという。偉大な魔法使いは殺され、城にあった沢山の貴重な魔法陣や魔法書が焼かれ、魔法文明は衰退した。魔王は王を倒すと、今度は四つの島の長にも牙をむいた。


 世界が滅びへと向かっていったその時、一人の勇者が現れた。勇者は光の女神の導きにより、魔王を倒し、新たな王となった。そして四つの島の自治を認め、それぞれに代表を決めると、支配ではなく、協力によって再び平和をもたらした。今の王様はその勇者の子孫と云われている。


 そして今、三度みたび魔王は復活した。魔王の力により、魔物と呼ばれる存在が現れ、人々を襲い始めた。精霊によって守られていたはずの島も悪天候が増え、作物が育ちにくくなり、人々を苦しめている。……と、これがWEFのプロローグだ。今代の勇者であるルークスが旅立つところから物語は始まるのだが、わたしは途中参加の為、割愛させてもらう。


 長い長い階段を降りきると、やっと広い部屋が見えた。階段と違い、苔も生えておらず、部屋自体がうっすらと光を放っている。わたしたちが歩みを進めると、その部分の光が強くなった。……オートライトシステムかな。その空間は、明らかに魔法によって維持されていた。


「お城の地下にこんなところがあったんだね……」

「私も入るのは初めてだ。これより先は立ち入りが禁止されているので、こんな機会でもなければ入ることはなかっただろう……」


 カイン君とオルランド中将は辺りを見回して壁に刻まれた文様に注目している。さてと、ここからはわたしとエステラの仕事だ。


「あの、皆さんに説明します! この奥には貴重な宝が眠っている宝物庫があるんですが、守りのまじないが掛けられていて侵入者を排除するようになっています。そのまじないとは……ゴーレムです」

「ゴーレム?」


「はい、ゴーレムに魔法攻撃は効きません。防御力も高く、体力も多いため普通の人が倒すことはまずできません。ちなみに攻撃力はかすっただけで即死するレベルです。侵入者が宝物庫から離れれば、ただの石像に戻りますが、石像に戻った時点で体力は全快しています」

「お、俺たちに倒せるのか?」


 本来であればこの宝物庫を訪れるのは魔王を倒す前、終盤に差し掛かったところだ。中にはゲーム上最強の武器と防具が揃っている。当然ゴーレムのレベルも終盤仕様で、体力は驚きの三万だ。ちなみに攻撃力は一万。別に倒さなくてもクリアは可能なので、避けて通るプレイヤーも多い。だが、わたしは裏技をしっている。……裏技というか根性技だが。


「倒せます。ゴーレムは体が大きすぎるので、この部屋まで入ってくることができません。遠距離攻撃手段も持っていないので、離れて物理攻撃を加えれば安全なのです。わたしがおとりになってゴーレムをこの部屋の前まで誘導しますから、エステラさん、後はお願いします」

「わ、わたし!?」


 突然話を振られたエステラは戸惑っているが、仕方ない。ルークスとカイン君は剣士だし、わたしは素手。遠距離攻撃ができるのは弓使いであるエステラしかいないのだ。その上彼女はスキル【百発百中】を持っている。このスキルはどんな敵にでも命中率百パーセントで最低でも1のダメージを与えるという優れものだ。どんなにエステラの攻撃力が低かろうが、三万発の弓を放てば確実に倒せる。


 問題は矢の数だが、これは試してみたいことがある。わたしはエステラに矢を一本借りると隅から隅まで眺め、髪飾りをつくったときのようにイメージを固める。目を開けると、私の手にある矢は二本に増えていた。出来上がった矢を鑑定してみる。……うん、攻撃力も見本の矢と一緒だね。


「すごいねユーリ、そんなこともできたんだ。なんていうスキル?」


 カイン君が興味津々でのぞき込んでくる。カイン君の質問には全力で答えたいので、わたしはステータスを確認する。


 スキル:【魔素の体】【管理者権限】【鑑定】【創造】


 あれ? なんか増えてる。魔素の体の延長線上の能力かと思ってたけど、別の能力に目覚めてたみたいだね。わたしは【創造】の詳しい説明を見てみた。


【創造】

 魔素から物質を作り出す能力。作り出された物質は本人の意思によって自由に消すことが出来る。すでに存在するものを複製することもできるが、鑑定すれば偽物とわかる。創造及び維持にはかなりの魔力を必要とする為、実際に存在するものを使った方が良い場合もある。


 ほうほう、ドレスつくったり髪飾りつくったりで魔素を操る練習をしたおかげかな? 試しに複製した矢をカイン君に手渡してみる。カイン君も持てるし、私の手から離れても矢は存在してるみたいなので、問題なくゴーレムを攻撃できるだろう。わたしはカイン君にスキルの説明をした。カイン君は手にした矢を見つめながら、眉間に皺を寄せて訝しげな表情になった。わたしは時間がおしいのでポンポンと矢を量産していく。


「……魔素から物を作り出す能力? そんなの聞いたことないよ……。それに魔力で作ったものを維持するのってすごく大変なんだよ? 僕も昨日、初めてやってみたけど、半日もしない間に魔力が枯渇しちゃった……。ユーリの魔力量ってどうなってるの?」


 わたしの魔力量? どうだったかな……。わたしは再びステータスを確認する。


 MP:∞


 あ、これ知ってる。インフィニティだ! たしか無限って意味だよね! ……無限?


「……無限みたいですね」

「…………」


 わたしの回答にカイン君は絶句した。たしか魔力量って体内に取り込める魔素の量だったと思うので、体自体が魔素でできていて、体と周囲の魔素との境目がないわたしは、世界中の魔素が使い放題ってことかな? わたしの新たなチート能力が発覚した!


 わたしはカイン君と話しながらも順調に矢を増やしていき、おびただしい数の矢が床にあふれた。



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