謁見の間
王様の前に出るのだからと、意気込むアメリアにまたしても洋服を選んでもらった。といっても実際には”つくる”のだが。流石に村娘の恰好は普段着すぎるらしい。約束の時間を前にアメリアに別れを告げる。
「アメリアさん……本当にお世話になりました。あなたのおかげでおいしいご飯が食べられました。ありがとうございます」
深々と頭を下げるわたしに、アメリアは軽い口調で返した。
「アメリアでいいわよ。ユーリの方が年上なんだし。敬語も使わなくていいわ。私達、友達でしょ? 旅の途中で近くに来たときは寄ってちょうだい。お土産、期待してるから」
「アメリア……」
カイン君推しのわたしだが、今日からはアメリアの事も全力で推していこうと思う。わたしはアメリアと熱い抱擁を交わした。
「じゃあ、カインの事よろしく頼むわね。あんまり無茶しないように、目を光らせておいてくれると助かるわ」
アメリアの中で完全にカイン君は、私達と一緒に旅立つ事になっているらしい。
「あの、まだカイン君は旅立つかどうか決めたわけじゃ……」
「あら、そうなの? でも昨日……。ま、本人の口から言うのが一番よね、さあそろそろ時間よ。謁見の間の場所わかる?」
「はい!」
勇者パーティーの一員として認められた今、城の中は歩き放題だ! 謁見の間へは何回も行ったことがあるのでルートは把握している。
「じゃあわたしもそろそろ仕事に向かうから、頑張ってねユーリ」
わたしたちは手を振って部屋の前で別れた。さあ、謁見の間へゴー!
長めのスカートを踏まないようにしずしずと歩く。うーん考えてみればエステラは旅の服のまんまなんだから、わたしだけがこんなちょっと良い服を着てるのおかしくないだろうか? なるべくおとなしめな服を参考にしたが、それでもこのドレスのポイントであるスクエアネックは外せない! とアメリアが譲らなかったため、襟ぐりが大きくあいている。まぁ、もう着てしまっているのでしょうがないが……。ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていると、廊下で一人の男にすれ違った。
「……この私の顔に泥を塗って……絶対に許さないからな……」
その男もわたしの様にぶつぶつと独り言を言いながら歩いていたが、呟いている内容は穏やかではなかった。男はわたしには目もくれず、まっすぐ前を見つめ通り過ぎて行った。もの凄い形相ではあったが、あれはグラン少尉だ。手足も無事だったようで、自立歩行ができている。ここは良かったと言うべきだろう。
謁見の間に繋がる控えの間には、すでにルークスとエステラ、それにカイン君がそろっていた。あとおじいちゃん。わたしが一番遅かったみたいなので慌てて駆け寄る。
「すみません、遅くなりまして」
「いや、時間通りだ」
わたしの後ろからオルランド中将が入ってきた。
「本日のドレスも素敵ですね、レディ。さあ、全員そろったようなので参りましょう」
オルランド中将がわたしをエスコートしようとして、手を差し出してくれた。が、エスコートなどされたことのないわたしはどうしたら良いのかわからない! 戸惑っていると、低く優しい声で「手をこちらに重ねてください」と、囁かれた。一瞬で顔が赤くなる。そんなわたしに気付いたのか、カイン君が「中将、あまりからかわないでください」と言った。オルランド中将は「からかってなどいない。全ての女性に敬意を払うのは当然のことだ」と肩をすくめてみせる。そして再び手を差し出してくれた。わたしはこれ以上注目を浴びるのも嫌なので、オルランド中将の手を取り、エスコートしてもらった。
その様子を見ていたルークスもエステラの手を取り、エスコートした。それを羨ましそうに見つめるおじいちゃん。そんなおじいちゃんに気を遣ってか、カイン君がおじいちゃんに手を差し出した。……ほんのりと頰を染めるおじいちゃん。カイン君はおじいちゃんの手を取り、背中に優しく手を添え歩く。その姿はエスコートというよりは、介護に近かった。
王様の前まで進むと、オルランド中将はわたしに一礼をし、数段高くなっている王座の横へ控えた。わたしはドレスの両端をつまみ、王様に跪く。
「よいよい、楽にしなさい。この場では其方達以外に人もおらぬ故、堅苦しい作法などなしじゃ」
王様はぱたぱたと手を振り、柔和な表情を浮かべている。……意外とフレンドリーだな。
王様の言葉を受け、わたし達は立ち上がった。それでもまだ、王座の方が位置が高いので、少し見上げる形にはなる。
「それでは昨日の闘技大会の褒美を授ける」
三位だったおじいちゃんから順番に望みを聞かれる。……一位からじゃないんだね。おじいちゃんの希望は温泉旅行だった。王様はオルランド中将と何か相談をし、中将が日程を調整しておじいちゃんの休暇が決まった。良かったね。
続いて二位のカイン君の番だ。カイン君は結局何にしたのだろう?
「……私も、休暇をいただきたく存じます」
カイン君の望みにオルランド中将が口を挟んだ。
「だが、カインは本日よりすでに一週間の休暇を取っていただろう? どのぐらい休みたいのだ?」
「……私も勇者であるルークス達と共に旅に出たいのです。魔王を倒し城に戻るまで何年かかるかわかりませんが……」
カイン君の発言にオルランド中将は難しい顔になった。おじいちゃんの温泉旅行程度ならいざ知らず、主戦力であろうカイン君が長期的に抜けるのは痛いのだろう。おじいちゃんもカイン君を、不安そうな表情で見つめている。
「構わぬ。行きなさい。必ず魔王を倒し、世界を救って参れ」
オルランド中将が答えを出すより早く、王様からのお許しが出た。
「しかし、陛下……」
「魔王を討てば、結果的に魔物の数も減り、我が国にとっても世界にとっても助けになる。近頃は大型の魔物の被害や、天候の悪化による作物の不作が続いておる。……これも全て魔王の力によるものだ。其方等が魔王を倒してくれるというならば、我らも尽力しよう。なに、いざとなれば儂が剣を振るえば良いのだ。まだまだ若い者には負けん!」
王様が力こぶを作って見せてくれた。……王様、良い人じゃん。ゲームプレイしてただけじゃわかんなかったよ。
王様によってカイン君の旅立ちは認められ、わたし達は晴れて一つのパーティーとなった。残るはルークスの望みだけだ。
「さて、勇者ルークス。其方はなにを望む?」
「……実は、俺たちもカインのパーティーへの参加をお願いしようと思っていたのですが、すでに叶ってしまったので……」
ルークスとエステラは顔を見合わせ、どうしようかと悩んでいる。わたしにもどうすれば良いか相談してきた。
……うーん、細かいところでストーリーがかわってきてるなー。ゲームではそもそも宴なんか開かれなかったし、ルークスがカイン君を希望しただけで、二位や三位の人まで褒美をもらえるような話じゃなかったと思う。カイン君も自主的に旅に出たいって言ってるし……。
わたしはちらりとカイン君に目をやる。カイン君は昨日の貴族の服ではないが、鎧の下に着ていた布の服と身長にあった青いマントをつけている。マントは新しいものだが、まだ鎧は支給されてないらしい。
……あ、そういえばこのお城って
わたしはルークスとエステラに、任せて欲しいと伝え、王様へ向き直った。
「王様、わたしたちは地下宝物庫への入室許可を望みます」
「む? 城の地下宝物庫か? だが、あそこには守りのまじないがかかっておって、先の戦争によって解呪の法が失われた今、誰も近寄れんようになっておる。いくら其方等が強いとはいえ、あそこは危険じゃ。……貴重な武具や宝もあるのだが……致し方ない」
「知っています。大丈夫です。もしわたしたちが、宝物庫に入ることができたら……そこにある武具をいただくことはできますか?」
「それは構わん。どの道眠らせておくよりほかにないのだ。好きなものを持ってゆくがよい」
よし、言質はとった。まだ序盤ではありますが、最強の武器と防具、いただいちゃいましょう!




