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決勝戦

※少しですが流血シーンがあります。苦手な方はご注意ください。

「遅かったわね。そろそろカインの試合が始まるわよ」


 わたしは何事もなかったかのように席へ戻る。カイン君の第二試合が始まった。一回戦とは打って変わってカイン君は魔力を温存し、剣による攻撃のみで勝利する。続く第三試合も同様に、全く危なげなく勝ち進んでいった。


 準決勝ともなると少しは骨のある相手が出てくると思いきや、よぼよぼのおじいさん魔導士で、魔法の詠唱中にサクッとやられてしまった。わたしの記憶にはなかったが、このおじいさんが城の第三部隊の代表だったらしい。地位もそれなりにある国にとっても重要な人物で、ガチで命が危ないと、救護班が慌てふためいていた。……なんで出場したし。


 さあ、いよいよカイン君とルークスとの決勝戦だ。決勝戦はこの会場で行われることに決まり、わたしはリングに近い関係者席から決勝戦を観戦できることになった。他の二つの会場からも人が集まって来て、場内は割れんばかりの歓声に包まれている。


 がんばれカイン君! 負けないで! ……と、いいたいところだが、ごめんね。ルークスが勝つと知っているわたしは、なんとも複雑な気持ちでカイン君を応援した。


「それではこれより決勝戦、カイン対ルークスの試合を開始する! はじめっ!」


 まずは様子見とばかりにルークスがカイン君に打ち込んだ。カイン君はそれをよけずに剣で受け止め、つば競り合いが続く。力はルークスの方が上らしく、押し勝ったルークスがカイン君に一撃を加えた。が、斬られる瞬間に体を逸らしたおかげで、大した傷にはなっていないようだ。カイン君と距離を取ったルークスが詠唱を始めた。魔法で攻撃するつもりらしい。それに気が付いたカイン君も詠唱を始めた。


 ルークスの周りに数個の小さな火の玉が浮かび上がる。火の玉はカイン君めがけて一斉に飛んで行った。その瞬間カイン君の周りにも氷の刃が浮かび上がり、向かってきた火の玉めがけ飛んでいく。


 火の玉は氷の刃に散らされ、撃ちもらしたのは二個、三個だ。カイン君は残った火の玉をマントで防いだ。火の玉と同時にすでにカイン君へと駆け出していたルークスは、頬を氷の刃で裂きながらもマントで視界が隠れた瞬間を狙って剣を振り上げ、斬りつけた。マントはバサリと叩き落されたが、そこにカイン君はいなかった。素早く後ろへと回り込んだカイン君がルークスの背中を斬りつけ、返す刀でもう一撃を加える。


 ルークスは素早く立ち上がると、カイン君に向き直り剣を構える。その後何度か斬りあいが続いたが、完全に不意を突かれた先ほどの傷は深いようで、ルークスの動きが少々鈍い。ダメージらしいダメージを受けていないカイン君は軽々と攻撃をかわし、隙をついてルークスの傷を増やしていく。わたしはカイン君が押し始めたのをみて、疑問に思った。


 ……ん? ルークスなんでアイテム使わない? ひょっとして……持ってない? え、ちょっと待って。


 わたしはルークスがこちらへ近づいた瞬間を狙って【鑑定】してみた。


 名前 :ルークス

 職業 :勇者

 LV :17

 HP :614/1200

 MP :55/70

 攻撃力:185(+32)

 防御力:150(+25)

 素早さ:118

 スキル:【瀕死攻撃力UP】【強運の持ち主】【鑑定】

 加護 :

 魔法 :【ファイヤボール】【魔法剣 火】


 表示されるステータスをスクロールしていき、所持アイテムを表示させる。ちなみに周りにこのウィンドウは見えていない。というか試合に夢中でわたしの事は誰も見ていない。


 所持アイテム:【毒消し】【魔獣の首輪】【王への手紙】

 所持金   :120G


 馬鹿な……! 回復アイテムをもっていない……だと? 何故だ! 冒険の基本だろう⁉︎ ルークスは回復魔法を使えない。エステラがいなければ、アイテムでしか回復手段がないのだ。しかも、レベルが17? 低すぎる! せめてカイン君と同じ20は欲しいところだ。レベリング大好き人間のわたしからすれば信じられない。あと関係ないけど所持金も少なすぎるっ‼︎


 ルークスの攻撃手段としては、剣による通常攻撃か遠距離攻撃魔法の【ファイヤボール】の二択。だが水の加護持ちのカイン君に火炎系の魔法は効果が薄い。目くらまし程度にしかならないだろう。となると、実質物理攻撃一択だ。ルークスは【瀕死攻撃力UP】とクリティカルの確率が上がる【強運の持ち主】のスキルがあるものの、回復魔法持ちのカイン君との戦闘は長引きやすく、体力を削りきる前に攻撃をもらえばお終いだ。……あれ? これ、詰んでない?


 ルークスもヒット&アウェイでなるべくダメージを受けないようにはしているが、カイン君の素早さに手こずっている。そうこうしている内にルークスが瀕死状態になった。……これはまずい。わたしはカイン君のステータスも確認してみる。


 うーんやっぱりあんまりダメージ入ってないね。……ん? なんか予想よりMPの減りが激しいような……。カイン君が魔法を使ったのって、一回戦の時の【水牢】と【ブリザード】の二回だけだよね? どっちも消費MP多いっていってもそこまでではなかったはず……ってあれ? だんだん減っていってる? なんだこれ。バッドステータスにもなっていないみたいだし。でもこの残りMPなら【アイシクルエッジ】か【ウォーターヒール】のどちらかを一回使えばお終いだ。ルークスにも勝ち目が見えてきた。


 カイン君はルークスの体力が残り少ないことに気が付いたのか、距離を取り詠唱を始めた。近づいて攻撃してくれたのならまだ反撃のしようがあるが、遠距離攻撃魔法では避けるか耐えるしかない。瀕死状態の今のルークスにとっては、初級魔法の【アイシクルエッジ】でさえ命取りだ。 


 ルークスも詠唱を始める。【ファイヤボール】だろうか。【アイシクルエッジ】より球数の少ない【ファイヤボール】ですべての氷片を撃ち落とすのは至難の業だ。これは悪手だろう。


 詠唱完了したカイン君から無数の氷の刃が放たれる。ルークスも詠唱を終え、自らの剣をすっと撫でると、剣は炎に包まれた。


 ええっ魔法剣⁉︎ ここで⁉︎


 わたしが驚いていると、ルークスはぐるぐると剣を振り回し、向かってくる氷の刃をすべて弾いた。……わたしは炎につつまれた剣を回すその姿に既視感がある。なんだっけ、これ。……あ! ハワイのファイヤーダンスだ! テレビで見たのにそっくり!


 わたしがファイヤーダンスを思い出せたことにすっきりしていると、ルークスが掛け声と共に上段の構えでカイン君に向かって行った。……これもなんか既視感あるわー。


 掛け声と共にルークスが剣を振り下ろす。リングの端まで移動していたカイン君は逃げる場所がなく、剣を横にし、両手で受け止めたが、炎をまとった剣からの熱が伝わり、金属製の刃はもっていられないぐらい熱くなっていった。思わず片手を離すが、その瞬間力の均衡が崩れ、カイン君は袈裟懸けに斬られてしまった。斬られた瞬間、鎧をまとっていない部分から大量の血が噴き出す。斬られると同時に炎で焼かれた為、すぐに出血は止まったが、カイン君は痛みで意識を失ってしまったようだ。


「カインっ‼︎」


 アメリアが悲鳴を上げ、立ち上がる。


「大丈夫だ。落ち着きなさい。すぐに救護班が向かう」


 そうアメリアに声を掛ける隊長の顔にも焦りが見える。意識を失ったカイン君は戦闘不能とみなされ、ルークスの優勝が決まった。歓声に包まれる場内。ルークスは笑顔で手を振っている。


 救護班が持ってきた担架にカイン君をのせ、医務室へと運ぶ。隊長とアメリアが付き添うようなので、わたしも後ろをついていく。だが、関係者以外立ち入り禁止だと言われ、中には入れてもらえなかった。


 わたしは医務室の前で一人、呆然と立ち尽くした。

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