今日の私は愉快な道化?
インターンシップの三日目と最終日は、少人数のグループに別れて、簡単なプレゼンの準備をする。最後は、社員の前で発表するんだそうだ。「学生さんの若い感性に期待します」と言われたけれども、ほとんどみずしらずの数人がいきなり集まって、忌憚なき意見を交わすというのは難しい。こういうことがグループディスカッションの訓練となって、就活の役に立つのだろう、ってことぐらいはわかる。
そもそも私自身は人の前で何か論理的な話をすることが苦手だ。小中学校の時の授業は指名制ではなく挙手制だったけれど、当てられた後に頭が真っ白になるのが嫌で、いつも控えめな挙手だった。それでも中学時代は高い内申点をもらうために頑張って手を挙げていた方だ。つまりは、下心込みの挙手をしていた。
そんなわけで高校と大学でも、人に意見を伝えることが上手くできない、人前に出る時の緊張がすごい、ということはあまり変わっていない。半年に一回ある自分の専攻の研究発表などは、ほとんど清水の舞台から飛び降りる気持ちでやっている。清水の舞台からなら飛び降りても何とか死なずに済むし。
……それでも、グループの中で何も発言しないのはまずい。私は何のためにここに来た、ってことになる。アイディア出しぐらいなら、何とかなるかな。
人が集まると不思議なもので、話し合う時、自然とリーダーとなって仕切る人、書記をかってでる人、雰囲気に敏感でそれとなく他の人との調整役に回る人、聞き手にまわるけれど時折はっとするような発言をする人などといった役割ができてくる。ちなみに、一念発起した私の立ち位置は、「割と意味のない単発の意見を『数打てば当たる』戦法で次々と出して玉砕する人」だ。決め台詞は、「あ、わかったよ!」。これに右手の拳を左手のてのひらに当ててジェスチャーすれば完璧だ。速攻で却下されるよ。そう、私は、雰囲気作りには貢献できるだけの道化。……あ。ちょっと悲しくなってきた。
私だって中身あること喋りたいんだよ……と、黄昏る今日この頃。
※
帰宅後。黒柴もどきのモモが台所の通路の床にべったり横たわっていた。
「ちょー、モモー。ふんじゃうよー? ふんじゃってもええのー?」
モモは動かない。舌を出して、はっはっ、と息を荒く吐いているだけだ。……この家に来てからふてぶてしくなったのかもしれない。最近はおばさんの料理中にきゅうりをせびりに寄ってくるんだそうだ。
よっこいせ、と自分も腰を下ろして、モモの黒目がちの眼を覗き込む。背中やお腹を撫でてやると、もっとやって、と足をばたばたさせている。でもやっぱり起きてこない。
ふむ。
私はモモが大人しくしているのをいいことに、モモの身体の角度と顔の向きを調整した。
そしてすかさずスマホのカメラでパシャリ。うん、いい待ち受けになるぞ。
当の本人(本犬?)は、シャッター音を嫌がって、身体をもぞもぞと動かして、自分の寝床に戻ってしまった。戻った後も、ぴんと耳を立てて、じっと私を見てくる。凛々しい面差しですな。
取った写真はしっかりモモ専用写真ファイルに入れておいて、待ち受けの壁紙に設定する。それからスマホをポケットにしまい、モモー、モモー、と呼びながら愛犬を構い倒した。
——モモよ、その毛並みと肉球で、プチ傷心の私を慰めて。
十分ほどでモモ癒しタイムは終了。最終的にモモは、梢ちゃんなんか知らない、とぷいと顔を横に向けるようになってしまったので、何事もほどほどがいいことを思い知らされた。
自室の中には、真新しい扇風機が存在を放っている。昨日の盆踊り大会最後のビンゴ大会で、一等賞の賞品だ。
当てた本人であるおじさんは、お気に召さなかったのか、「いらんからやる」とおっしゃったので、ありがたく使わせてもらっている。実家滞在中は重宝しそうだ。なにせ、今のところエアコンしかなくて、扇風機欲しいなと思っていたところだから。
スーツから部屋着に着替えた私はさっそくその扇風機を付ける。ふわー、天国だわー。定番の宇宙人ネタやっちゃう?
本当はエアコンもつけたい気持ちもあるけれど、おじさんが基本的にエアコンはお金がかかるから付けたくないというスタンスの人なので、憚られた。おじさんはこの家のルイ十四世なのだ。絶対王政万歳。革命は当分起こらないだろう。
でも、一応はおじさんもおじさんなりに私に気を遣ってくれているのか、きちんとここにも個室を与えてくれた。南側に窓がついているから、日当たりが十分入る。ちなみに夏限定でグリーンカーテンがついて、ほどほどに直射日光は避けられます。ほら、今も見れば力強く曲がったゴーヤがそこにぶらさがっている。
細かい雑用を済ませ、冷茶のグラスを持ってきた。四足のテーブルにグラスとコースターを置き、古典全集をセットする。もう少ししたら読み始めることにして、ひとまずはぼうっとする。
こうやってほっとした時、私は今日の出来事とか振り返りがちだけれど、なんとなく今日も色々やらかしていた気がする。ここであの言葉をもっと違うふうに言えばよかったかな、とか、グループ分けがどこかわからなくて、一番最後までうろうろしていて目立っていたな、とか。あぁ、恥ずかしい。
泣いても笑っても、インターンシップはあと一日。それから二日もすれば、私は下宿先に戻る。今回はおじさんも何か言ってくることはないだろうし、このまま平穏無事に過ぎていけばいいと思う。
けれども実際のところはそんなに上手くはいかないものだ。
インターンシップを無事に終えた次の日の昼間、私は突然、酔っぱらったおじさんに台所に来いと言われた。おじさんは重要な話をするとき、台所に座って話をする。しかも、変にかしこまったような、柔らかい声で。
「こずえー、話があるんやけど、ちょっとええか」
もうそれだけで、嫌な予感がしたのだ。




