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無茶ぶりフラグは健在です?

 あまり回数を重ねていないけれども、おじさんとおばさん、私とで外食に行くときのテーブル席のポジショニングは大体決まっている。おじさんは通常二人掛けの席の中央にどーん、と構え、その向かい側に圭子おばさんと私とが互いに遠慮しながら座る。今日もそう。寿司の流れてくるレーン近くに私が座ることになったことぐらいで、後は今までと変わらない。


「おばさん、はまち食べます?」

「ああ、もらうわぁ。ありがとうねぇ」


 レーンから遠いおばさんの代わりに、寿司の皿を取るのが今日の私のお役目である。


 おじさんは案の定、席に着いた途端にテーブル備え付けの機械で生ビールのジョッキを頼み、ぐびぐびと飲み干していた。二杯目は清酒だったが、器に入った氷が大きくて味が薄まっていると文句を言っていた。安さに定評のある回転ずしチェーンなのだから、あまり贅沢言うのも違う気がする。店員にクレームを言いだしたら全力で止めに入ろうと思う。


「なんか、昔よりシャリも小さくて、ネタも小さくなっているよーな気がするなあ。ほら、このマグロ見てみ?」

「仕方がないよ、おじさん。昔より原材料だって高騰しているんだよ? マグロだって高くなってるよ。大学で完全養殖のマグロが成功したといっても、すぐにマグロが安くなるというわけじゃないんだから」

「はー。やっぱり大学行っとるもんは、賢さが違うなぁ、言い方からして違うわ」


 頭にタオルを巻いたおじさんがわっはっはーと笑う。後ろにいたお客さんがびっくりして振り向いたのにも気づいていないよう。思わず目が合ったので、目礼しておく。うちのおじさんがすみません。

 

「うちの悠作なんか、勉強が嫌いで馬鹿だからって、工業高校でたらすぐに就職したからなあ。こずえはかしこいでええわ。ええ高校行って、ええ大学に行って。昔からよう勉強できとったもんなあ」

「あ……いえ、そんなこともないよ? やっぱり上に上がいるものだし」


 おじさんは手放しに褒めてくれるけれども、正直、なんだかなぁ、と思ってしまう。


 いい大学に行ったからと言って、いい就職先が用意されるわけではないし、そもそも大学は基本「賢い」人ではなくて、「勉強ができる」人という基準で選んでいる。「賢い」人と「勉強ができる」人は必ずしもイコールで繋がるわけでもない。勉強の良しあしでなくて、別の賢さのベクトルが世の中にはあるのだし、私がこうした「賢い」人ではないことは自分でよくわかっている。


 だからさっきのマグロの話なんてものもただの聞きかじり。そこをおじさんに「かしこい」と言われてしまっては、ますます気まずい気持ちが募る。


 誤魔化すように、レーンを流れてきたいくらの軍艦巻きの皿を取って食べた。次はハンバーグの軍艦巻き、その次はツナマヨネーズの軍艦巻き、さらにから揚げの軍艦巻きを取ったところで、


「おまはん、せっかく寿司屋来たのに軍艦巻きばっかやな。ほれ、たまにはマグロ食わな」


 から揚げ軍艦の横に、真っ赤な大トロが一貫乗った。並べてみると、あら、不思議。相撲で言えば、幕下と横綱みたいな風格の差が漂っている。……けれども私個人としては幕下の方が好きなので、申し訳ないけど出張横綱には早々に退場願った。あ、わさびが利いてる。つ、辛い……。


「そうや、おまはん、予定はどうなっとる? 一週間いるっていうのは覚えとるけど」

「えっと、まず明日からインターンシップが四日間あるけれど、それ以外は特に何も」

「なら、明日の夕方はあいとるな?」

「ま、まあ……?」


 おじさんのこの発言の意味を理解したのは、次の日であった。





 次の日。

 インターンシップ先は地元に本社がある地方銀行だった。この地域にしては巨大なビルに、数十人のインターンシップ生が集まった。久々にスーツを着たけれど、まだまだスーツに着られている感覚がする。同い年の人たちがものすごく大人に見えて、気後れしてしまった。


 けれどもまぁ、なんとかなるかな? と思ったのは、ここに集まっているのはほとんど同い年で、ほとんどが近隣の地域や大学に通っていたから。地元優良企業には、地元就職を目指す人が集まりやすいということなのかもしれない。ちなみに、後ろの席の人は同じ大学だったらしい。仲間だ。


 他にも小中の時、そこそこ話していた同級生もいたから、ぼっち飯という悲劇には合わずに済みそうである。彼女も昔とあまり変わりなくて安心した。たまに地味だった子がいきなり大学デビューしちゃって、ギャルギャルしていることがあるけれど、そういう子には話しかけづらくなるよね。


 一日目はこれからのインターンシップの日程と業界や企業の説明会だった。

 何十もの長机を前に整然とならんだスーツの群れを見ると、オセロみたいだ。上着を着ているか、いないかで、オセロ。私は劣勢の白。……明日は上着を持って行こう。


 話は一応大事そうなところはメモしておく。この場にいる全員がそんな感じ。就活に向けた空気ができていくのをびんびん感じ、私はなんとなくこれからこういう企業で働くのかなぁ、とぼんやり空想する。


 例えば、銀行で働く私。

 仮にこういう地方銀行だったら、転勤は数年ごとにあってもそんなに遠くに飛ばされるわけじゃない。民間企業の中ではそれなりの安定を得られるんじゃないかな? おじさんだって安心するだろう。将来どうするんや、と責められることもない。ただ……。


 色々考えてしまった。

 前列の方では、人事の担当者が明日の店舗見学の割り振りを発表している。

 さて、私はどこなのかな、近くがいいなぁ……と思っていたら、県外に飛ばされた。しかもわりと下宿先が近かった。えー……こっちに戻ってきた意味は?


 悶々としながら、今の実家に戻ってくると、


「こずえ、おまはん、浴衣着て、祭り手伝え」


 頭にタオルをはちまきみたいに巻いたおじさんが、くたびれた短パンのポケットに両手をつっこみながら決定事項のように言い放つ。


「おじさん、聞いてないです」

「おばさんから聞いてなかったか? 今日はこの地区の盆踊り大会やけど」


 すると、圭子おばさんが私の浴衣を持ってやってきた。


「あなたが自分で言うって、言っとったやろ? だから私は黙っとったんやけどなあ」


 つまりは伝達ミスということ?

 インターンシップ帰りに盆踊り大会強制参加? あんまり盆踊りが得意じゃないんだけどなぁ。


「何言っとる。うちは今年は自治会の班長やから、裏方に回らなあかんの。おまはんはにこにこしながらかき氷を作る係やぞ」


 そんなわけで。かき氷係に就任しました。

 シロップはイチゴ、ブルーハワイとレモンだそうです。色合いがルーマニア国旗。



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