別れの挨拶
「がっはっは!兄ちゃん、あんた男だねえ!」
「見てたのか、、」
会場から逃げ出した僕たちは今、入り口に回っておっさんの前にいる。
「あんなことするたあ、こりゃあこの大会で長く語り継がれそうだな。嬢ちゃんも、良かったじゃねえか。赤い帽子に赤髪の嬢ちゃん、あんたら、お似合いだぜ?」
「うう、、もう、、、」
「あーもう、それはいいから、ほら、賭け金よこせよ」
「へっ、いつもならくやしいところだが、いいもん見せてもらった代金だと思えば安いもんよ。もってけ!」
勝ち分を受け取って袋にしまい再び向き合うと、おっさんが真剣な顔になっている。
「でもな兄ちゃん。次の試合、覚悟しといた方がいいぜ」
「・・・やっぱり強いか」
「ああ、試合は3日後だ。決勝は選手の万全の状態でやろうという、向こうの気遣いだ」
「三日後、、、?おっさん、紙と書くもの、持ってないか?ちょっと手紙をかきたくなった」
「ん?遺言か?まあ、それくらいしないと、不安で仕方がないよな」
おっさんから雑な紙とペンをもらって、ラストに渡す。
「僕文字かけないから、今からいうこと書いてくれ」
「ん?おう」
読めるがかけない。悲しいな。
「じゃあ言うぞ。実況のお姉さんへ、わたくしサンタクロースは、本日の試合、棄権することをここに宣言します」
「・・・え?」
「はいはい、、本日の試合、棄権することをここに、、っておい!」
「後は適当に理由とか、店の宣伝でもしといてくれ。書いたらおっさんに渡すから、早くしろよ」
「そうじゃなくて!おまえさあ、決勝棄権するの?もったいねえぞ!?」
「ほんとだよ!それじゃあ、私が負けた意味がないじゃん!」
リィナとラストが詰め寄ってくる。
「だってお前、、3日後だよ?意味わかってるの?」
「3日後が何かあるのか?」
「ヒント。僕たち今何泊目?」
「何泊って、、今日泊まれば7泊目じゃねえか。予定は10泊だから、3日後だったら余裕で間に合うぜ?」
これはいいわけにはならないな。
次の屁理屈の用意だ!
「でもさ、はっきり言ってもうすることないじゃん?温泉、もう飽くまで浸かったじゃん?」
「うぐ、、まあ、そうだが」
「僕としては、もう明日には帰りたいんだよ」
「明日?ずいぶんと急だな、、」
「理由はいろいろあるんだが。まずはこの大会参加条件でうまいものをおごってもらうっていう約束を、まだ果たしてもらってないからな。10泊したら、その金がなくなっちまうじゃねえか」
金を稼ぐ報酬としておごってやる、いつか温泉に浸かりながらかわした約束。
昔のように思い出されて、懐かしさが半端じゃないが。
「よく覚えてたな、、」
「当たり前だろ。なんのために参加したと思ってるんだ。後もう一つ、うちで留守番してるコメットにここまで餌やらなくて大丈夫なのかってな。さっき思い出して不安になった」
「・・・ああ。確かにそろそろ限界そうだな」
そう。
うちにはカラアレオンのコメットが、一家を守るべくお留守番をしている。
せっかくこれから僕の仕事のパートナーになるのに、帰ったときに死んでたら、普通に泣けてくるじゃん。
「後はまあ?お前の金、無理して全部使う必要はないんだよ」
「そんなこと、気にしなくても、、」
「いいのか?ここで帰れば、お前の貯金、30万くらいは余るんだぞ?」
「うぐ、、で、でも、、」
それでも食いつくラスト。
ならばここでとどめのひと押しだ。
リィナにも聞こえないように、そっと耳元で囁く。
「準優勝の賞金500万ユイン。なんならそのうち100万はお前にやるからさ」
「なっ!?」
「僕たち、家族だろ?ちょっとくらい、わがまま聞いてくれたって、いいじゃん」
「・・・」
少しだけ考えこむラスト。
しかしすぐに顔を上げると、
「しょうがないなあ~!マイには俺から言っとく、今日は準優勝の打ち上げだけして、明日の朝温泉に使ってから、さっさと帰ろうか!」
「さんきゅー」
ちょろいぜ。ラストくんよ。
後はリィナか。
「リィナ。納得いかないかも知れないけどさ。ちょっとだけ、僕のわがままに、付き合ってもらってもらえないっすか?」
「・・・まあ、サンタがそういうなら」
見つめると、うつむいて短くそう告げる。
「ま、ラスト。そういうわけだから、さっさと手紙、書いちゃってくれ」
「もう書き終わってるぜ!ほれ!」
渡された手紙をたたんで、おっさんに手渡す。
おっさんは僕を見て、何かもの言いたげな顔をしている。
「ま、そんなわけだからさ。これ、決勝の日に渡しといてくれよ」
「・・・おまえなら、優勝も狙えると思ってたんだがな、、」
「この街の権力程度で叶えられる願いのうち、叶えたい願いが、はっきり言ってないからさ。だから僕は、500万もらえればそれでいいよ」
さらに軽く笑って、付け加える。
「それに、怖いのと痛いのはいやだよ」
すごく惜しいとでもいうような顔をするが、少し黙った後で、口を開く。
「わかったよ。兄ちゃんの決勝戦、見たかったんだがな。帰るというなら止めねえ。確かにこの手紙、渡しとくからな」
おっさんはそういって、右手を差し出す。
僕は少し笑って差し出された手を握ると、固く握手を交わした。
「おう!」
「それじゃ、兄ちゃんたちの行く末に、女神の加護があらんことを」
左手で十字を切って、その手を僕の手に乗せる。
「似合わないおまじないだな」
「うるせえ。俺も一応、そういうのは信じてるんだよ」
「そうすか」
「・・・嬢ちゃんも、連れていくつもりだろ?」
「わかってたかい。そうするつもりだよ」
「幸せにしてやれよ」
「まあ、なるかどうかは、これからのリィナ次第だけどね」
ちらりとリィナを見ると、目線が合う。
顔を赤くして、そらされてしまったが。
「へへ、青春だねえ」
「うるせえ。それじゃあ、また次の大会、暇だったら来るよ」
「今度その名を見かけたら最低倍率にしてやるさ」
「そうだな。ただ決勝だけは、10倍くらいにしといた方がいいぞ?そうすれば大体そっちに賭けて、おっさんの独り勝ちだ」
「はっ、兄ちゃんなりのプレゼントってやつかい?それなら、ありがたく受け取っとくぜ。達者でな!」
「おう、そっちも元気で!」
別れの挨拶を済ませて、僕たちは再びそりに乗る。
そしてリィナも連れて、旅館へと向かう。
「リィナ」
「な、なに!?」
「そんなに驚くなよ、、今日の祝勝会、リィナも出てくれよ。さっきの話の続き、したいからさ」
「さっきの続き、、、うん、わかった」
「ということでラスト。今日は特別ゲストだ。宿泊代込みで、招待してやってくれ」
「おう、そんなの、安いもんよ!」
鈴の音とともに凱旋。
大会のおかげで騒がしい町中の騒音と混ざり合って、世界一楽しい、ファンファーレのように聞こえた。
――――――
数分後。闘技場入り口。
雪だるまと、少女が現れる。
「の、のうう?」
「もう、、サンタさん、、私をおいていくなんて、、あとでゆっくりお話ししませんとねえ、、!」
「のおおおお、、、」
殺伐とした空気に、話しかけるものはいなかった。
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