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近親憎悪の反対ことば

私は、普段のぐうたらっぷりを全て返上せんとばかりの全力で神社の階段を駆け下りていた。この辺一帯は広く森に覆われているので、飛んでも人の姿を見分ける事は出来ないからである。

何故走っているのか、と問われると答えは見当たらないが…多分、自分の為だろう。このままぐたぐだと歩いているだけでは頭がどうにかなってしまいそうだった。

「……ったく、どこ行ったってのよ!」

唯衣が行きそうな場所は…と考えて、頭の中に一つも候補が浮かばない事に気が付く。

本当に今更だが、彼の事を自分から理解しようとなんて、全くしていなかったのだと思い知った。

「…………ッ。」

身勝手なダメージを受けている暇は無い、こうしている間にも唯衣はどんどん私から遠ざかっているのだ。

付近の妖怪達にも、私と唯衣の関係(あくまで同居人として、だが)は知られているから、滅多な事は起きないと思うが…それでも、万が一ということがある。

こうなったら、しらみつぶしにあたるしか無いだろう。


ようやく階段を下り切った。さぁ、ここからが正念場だ。一刻も早く唯衣を見つけ出さねばーー

「あ、霊夢。」

「!?」

突然、横から声がかかった。

驚いた拍子に石に躓いて、地面を何回転かしながら漸く止まる。

痛い。

「……………」

「れ、霊夢!大丈夫!?」

倒れ込んで暫く動けないでいると、私に声を掛けた人物が慌てて駆け寄って来た。

「……唯衣、あんた…つくづく間が悪いわよね……」

階段の始まる所に据えられている、小さなベンチ。鳥居に遮られて上からは丁度見えない位置に、唯衣はいた。よりにもよって、そんな所に座っていなくても…

あちこち打ってしまったのか、身体中が軋む。これは…今日の演舞、大丈夫なのだろうか?

更に、身体中が砂埃にまみれていた。せめて顔に着いたものだけでも落とそうとぺちぺちと頬を叩いた、その時。

「いっつ……」

鋭い痛みが走った。手を見てみると、僅かながら赤い点が。

「顔、切れてる!!」

「そんな大声で叫ばなくたって聞こえてるわよ。……あー、やっちゃったなぁ、よりにもよって顔か……」

紫に何と言われるか、わかったものじゃ無い。

だが、とりあえずこの顔のことは放っておいて、だ。


「……唯衣。」

立ち上がり、探していた少年の胸に顔を埋める。唯衣は戸惑いながらも、私の体重を受け止めてくれた。…服が血で汚れてしまっているが、彼は気にする素振りも見せない。

そして、私はそんな彼に、自分の全てをぶつけるつもりで語りかける。

「ごめんなさい、私には、やっぱりあなたが何を考えてるのかなんてわからない。……でも、想像すること位はできた。それが私の望みと違っても、私はそれを受け入れるべきだった。」

「…………」

……いや、違う。私が言いたいのはこんな事じゃない。私はちゃんと、素直に謝りたかっただけの筈なのに。

「笑っちゃうわよね。子供みたいに癇癪起こして、挙句はあなたに当たり散らして。」

半ば懺悔の様に、唯衣に対して想いをぶち撒ける。だがそれは、私の言いたい事では無い。…不思議な、そして不気味な感覚だった。

「つまらない女でしょ。始めて好きになった男の子の事すら理解出来なくて、挙句の果てに酷い事も言って…」

自分で言いながら、少し涙が出て来た。でも、この涙も自分の為のものなのか、それとも唯衣の為のものか、わからない。

「……じゃないの?」

「え?」

だが、そんな私へ返って来たのは、意外な言葉だった。

「良いんじゃないのかな、それで。変に気を遣われるよりは、僕はそっちの方が百倍良いよ。」

唯衣は私の目を正面から見据えながら、はっきりとそう、言い切った。

そこには、普段の弱気な唯衣の面影など欠片も残っていない。垂れ気味の目尻を目一杯に釣り上げた、一人の少年の姿があった。

「……そうだ。少しだけ、僕の話を聞いてもらえないかな。」

「良いわよ。聞いて、あげる。」

こんな時すら、表面だけは強気な口調を崩す事が出来ない。もう何だか、色々とうんざりしてきた。

「ちょっと自分勝手に、冷たく聞こえるかもしれないけどさ。僕は、自分を他人と同じだと思う、思い込む人間は少し嫌いなんだ。」

「……?」

「自分がこう考えているんだから、その影響を相手も多少ながら受けている筈。こういう考え方、どうしても出来ないんだよ。……だからなのかな、霊夢に惹かれたのも。何処と無く親近感みたいなのもあったと思うんだ。」

「………そうなの、かな。」


唯衣の、突然の告白。しかし私は、それに少し思い当たるところがあった。

「あっ。もしかして唯衣、あなた……」

「なに?」

「始めて会った時のあなたの丁寧語、あれってもしかして……」


思えば、その様な気もする。

唯衣はつまり、自分と他人の線引きを必要以上に意識してしまうのだろう。だからこそ、あまり人が寄って来ない。

それはつまり、人と話すことに慣れる機会が無い、つまり慣れられないという結果へ直結する。

今こうして思い出してみると、唯衣の性格を表す為の表現として、単に気が弱いだけという言葉はあまりにも乱暴なものだっただろう。

それに比べて私は、確かに他人は他人と思ってはいても、単にそれだけのものだった。

唯衣の様に誰かと接しようと努力して、そして結局内気になってしまう様な、そんな経験など積もうとも思っていなかった。むしろ自分から離れようとすらしていた気がする。

そんな自分が唯衣と似ているだなんて…口に出す事すら許されない事の様な気がした。


考えれば考えるほど、唯衣の新しい一面…いや、私が今まで見る事が出来なかった一面が浮き彫りになって行く。

……でも、恐らくそれで良いのだ。

多分、唯衣が親近感を持った私は、私が思う私では無いけれど。でも、それさえも受け止めて愛し合っていよう。

互いに似ている様で似ていない、そんな自分に嫌悪感を抱きながら、それでも自分を包む幸せに溺れていよう。

誰かを想うというのは、恐らくそういう事なのだろうから。


身体を離し、唯衣の方へと向き直る。

そして私達は、どちらからともなく手を緩く繋いで、歩き出した。

「……神社に、帰りましょう。それで、あなたが元の世界に帰るまで、いっぱいいっぱい、話をしましょう。」

「うん、そうだね…帰ろうか。」

彼はいつも通りのへにゃっとした笑みを浮かべて、私を見つめ返した。

なんだかこの回は、書きたい事を詰め込み過ぎて何が何だか分からなくなってしまっている感がすごいです…


その辺も少しずつ修正しながら、どんどん書き進めていきたいなと思っています。

これからも、よろしくお願いします!


あと今更ではありますが、題名の東方迷人譚ってそこはかとなく語呂が悪いので、迷人記に変えようかと思います。

メイジンタンって、ンが二つ続くとなんか不思議な感じになってしまいがちですので。


あと、もう少しでPVが3000に届きそうです!読んで下さっている皆様方に、心の底から感謝、感謝です!!

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