『本当に俺・・・、悪の組織にはいっちまったんだなぁ・・・』
とりあえず着てみた戦闘服の具合を確かめる。
手を握る、開く。
腕を回す、曲げる、捻る、振る、上げる、下げる。
うむ、実に動かしやすい。なんというか、物理的に体が軽くなった感じだ。
「その戦闘服は着ているものの身体能力を飛躍的に向上させる機能がついとる。逆にいえばその機能しかないんじゃがな」
「む、説明求む」
「簡単にいうと、お前さん自身を一回り・・・、いや二回り強化しているものと考えてほしい。だから、水中を自在に動き回ったり、空を飛んだり、姿を消したりといったオプションは付いていないんじゃ」
「それができたら戦闘員なんてレベルじゃないからな」
「といっても、ゲームのステータス的に言うと攻撃力・防御力・素早さはプロアスリートや鍛えられた軍人の比ではないのじゃがな」
俺が理解で着たことを確認すると、爺は扉へと向けて歩き出した。
「ついて参れ、これから我々ヒール団についての説明をしよう」
「あいよ」
アタッシュケースと一緒に渡されたヘルメットに近い形状をしたマスクを小脇に、俺はのんびりとした足取りで、爺の後を追いかける。
ひょこひょこと目の前を動く、年の割には綺麗に生えそろった白髪の後頭部を眺めていると、だんだんと自分の置かれている状況に現実味が増してきた。
なんだか大学から出て、新入生の連中とすれ違ったのが随分と昔のように思える。
ずしりと響くヘルメットの重さを感じながら静かに溜息をつく。
「本当に俺・・・、悪の組織にはいっちまったんだなぁ・・・」
「後悔しとるか?」
「まあな。どちらかと言ったら・・・・・・後悔してるよ」