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1話 偶然の遭遇①

※こちらの物語はフィクションです。

実際の建物・団体・地形等に一切の関わりはございません。ご注意ください………m(_ _)m

 紅葉色づく秋晴れが広がる十月末。


 ボーッと流れる景色を眺めながら電車の揺れを体に感じる。


 纏まっていない自身の少し長い黒髪は揺れと共に視界にチラチラと映り込む。


 久しぶりに寄った実家には社員寮に持って行っていた荷物を置き、旅行のように少しの身支度をし両親に直接顔を合わせずここまで来てしまった。


 行き先は何処とも決めず、ただ何となくで乗り込み、何度か乗り換え、再び乗った電車が次の停車駅へと止まるためのアナウンスが車内に流れ始める。


 朝から何も口にせずこのまま来たのを思い出すのと同時に自身が少しお腹がすいてきたということに気付く。


 何か食べなければいけないと思い、持ってきていたキャリーケースを手に持ち思いつくまま次の駅へ降車する。


 人々が行き交う改札口を通り抜け、券売機の前で一度周囲を見渡し薄らと夢見心地な脳内を目覚めさせる。


 視界に入ったのは駅中に存在する一軒の土産物屋。


 商品を吟味する自身と同じくキャリーケースを持った大勢の観光客の人々達でごった返していた。


「………お弁当」


 冷蔵ショーケースと思しき物の近くに設置された、目立つ配色の幟旗がはためくのが目に入り自然に瞳がそこへと吸い込まれる。


 空腹に鳴く自身のお腹を擦りながらガラガラとキャリーケースを押し、導かれるままに土産物屋へと足を運ぶ。


 ふと目を逸らし自身の腕時計に目を移せば、時刻はお昼過ぎを指していた。


 冷蔵ショーケースを覗き見れば、そこにあったのは沢山のご当地駅弁。


 何種類かの駅弁が並び、幾つか売り切れているものもあるのが確認出来た。


「あなごめし……」


 目に入ったのは正方形をした一つの駅弁。


 可愛らしいイラストの包装紙に包まれたそれを手に取り、折角だからと少し店内を見て回る。


 様々な土産物のお菓子や雑貨が所狭しと置いてあり、店内照明も相まって私の瞳にはキラキラと輝いて見えた。


 普段地元では見たことの無い土産物の包装紙。


 商品紹介用の目を惹く色鮮やかな可愛らしいPOP。


 商品の食品サンプルが飾られた様々なアクリルディスプレイ。


 空腹時に見れば見るほど、それら全てが堪らないほど魅力的に映った。


「これ、可愛い」


 商品を積み上げてある棚のとある一角に目が止まる。


 全体的なピンク色をベースに薔薇と紅葉のイラストが描かれた個箱。


 思わず足を止めその可愛らしい箱を手に取る。


 中身のお菓子はどうやら桃の果肉が入った白餡に薔薇の風味がするもみじ饅頭のようだった。


 と、ここで私は今やっと何処にいるのかを理解し、何故こんなことになっているのか頭の整理がついた。


 現実的な思考を持つが故に夢と自身のスペックに大きなギャップを感じギリギリまで進学するか、就職するかを悩み抜き、淡白な思考が相まり早々に夢を諦めてしまった。


 それでも生きて行く為、高校を卒業と同時に地元大阪で就職。


 粛々と会社に馴染もうとしていたものの、厄介なお方に目をつけられ悶々と日々を過ごしていた。


 相手を傷つけず、自分も傷付けないよう動いていたつもりでも、自身が知らないうちに何処かに積もり積もって行ったのだろう。


 私が高卒だったのが悪かったのか。


 それが気に食わなかった職場のとある先輩に毛嫌いされある事無い事を、周りに吹聴させられた。


 完全なる独り立ちをしようと決め、社員寮付きの職場だったのが更に私に追い討ちをかけた。


 行き場の無い恐怖心と焦燥感が常に私を支配していた。


 別に私以外の先輩にも高卒の社員さんは居た。


 実際、その中の一人はとても良くしてくれ、連絡先も交換し仲が良かったと言っても良い間柄だった。


 しかし逆を返せば、厄介なその人によって仲の良かった人以外は巻き込まれないように私の事を敬遠し始めた。


 三年。


 三年間だけでも耐えようと闘志を燃やし、心を奮い立たせあんな奴に負けまいと踏ん張っていた。


 夢を諦めてしまった後悔から、今度は逃げまいと耐える姿勢を曲げたくなかった。


 しかし志とは反対に、心が先に限界を迎えてしまった。


 それからは糸が切れた様に私は直ぐさま行動に移し、辞職までの一ヶ月を抜け殻のように過ごしつい今日の朝、社員寮を飛び出し今に至る。


 ここは、大阪ではない土地、中国地方に存在する広島県。


 私は今、何の宛もなく何のプランも無く只々恋愛における傷心旅行かのようにさ迷っている。


 その答えが浮かんだ途端、私の指先は一気に冷え込み目眩がしてきた。


(……………私は……またやってしまった……)


 私の悪い癖。


 後先考えず、頭で思ったことを直ぐに実行に移し大体の場合失敗に終わる。


 今回は人生をかけた盛大なる大失敗だったのだ。


 抜け殻のようになったあの一ヶ月の間では、残りの日数を如何にして過ごせばいいのかという一つの事しか考えられず。


 退職した後の自身の進路を考える余裕がなかった私の脳内は、あの環境下から『逃げ出したい』


 ただそれだけの思考しか浮かんでいなかった。


 それが仇となり、二年と少し勤めた会社を退職したと両親に連絡もせず、漠然とした『遠くに行きたい』という願望によりたった一人知らない土地へと足を踏み入れていた。


(………………)


 それでも私は私だった。


 世間的に不味い立ち位置に身を置くことになるかもしれないと頭では分かっていながら、目下の目標である空腹を満たすための商品を買う為にレジへと並んだ。


 なるようになるさ、とまたいつも通りな思考回路になった事に、自分の人格はまだ死んでいなかったと確認出来、少し安心感を覚えた。


「お待たせしました」


 会計待ちの列が進み自分の番となる。


 手に持っていたあなごめしの駅弁ともみじ饅頭の個箱をレジカウンターに置く。


 肩からかけていたショルダーバックのチャックを開け財布を取り出す。


 ちらりと店員さんを見れば、然程歳が変わらないような見た目の青年だった。


「お会計二千五百円となります。お絞りは、お付けしましょうか?」

「はい。お願いします」


 和かに笑みを浮かべ丁寧な声色で応答し、テキパキと商品をレジ袋へしまいレジスターを叩く。


 高校卒業からありとあらゆる年代が蔓延る社会の波に揉まれていた私の目には、その手際の良さがベテラン先輩の手つきだなと感心した。


 こうなるには一日やそこらでは不可能。


 となれば彼もまた、ある程度の歳月を経て技術を磨いた立派な仕事人なのだ。


 私も働くならこんな職場の先輩として最高の人材が居る所で、厳しくも優しく先輩たちに指導されながら成長したいなと漠然と思う。


 要は私情が絡む悪質ないじめ行為というものが無ければ万々歳なのだ。


「ありがとうございました」


 お会計の終わりに掛けられるその言葉にハッと意識を戻され、商品を受け取りレジを離れる。


 振り返れば、まだ並んでいた他のお客さんの対応も見事に捌いていた。


「…………私も働かなきゃな……」


 幸いにも、この二年と少しの間は社員寮で暮らしていた為、一般の一人暮らしの社会人よりかは出費が少なかったと思う。


 おまけに、たまの休日に美味しい物を食べに行く以外の趣味がなかった私は、プライベートにつぎ込むお金もあまり無かった為暫くの間ネカフェ生活をしていても問題は無い。


 だが、それでもいつかは必ず限界は来る。


 悠長にしていれば居るほど、自らの時間もお金も浪費してしまう。


 後先考えずな性格なのは、昔からの事なので直そうと思っても中々治すことが出来ない。


 ならそれを受け入れて、その対応策を直ぐさま講じれば良いと言うこと。


 電車に乗っていた時は事切れた魚のように気力がどこかへと行ってしまっていたが、先程の忙しくも輝く素晴らしい青年を見てしまえば心は奮い立つというもの。


 ライバル心とも言うか。


 同世代と思しき彼も社会の輪に入り懸命に生きている。


 胸のつまる場所から逃げる様に会社を辞職し、手に職の無い現状。


 一刻も早く安定した地盤固めが必要だ。


 一つ気合いを入れようと深呼吸をする。


 目が冴える様に思考がまとまっていく。まずはネットカフェ暮しのままでは住所不定となり、求人では大変不利だ。


 となればまた、社員寮のある職場か、はたまた直ぐさま入居のできる賃貸のアパートかマンションを探し住所を固定しなければならない。


 そうと決まればこんな所でうじうじとしている場合では無い。


 瞬きを繰り返し振り返れば、何やらこちらをじっと眺める茶髪のミディアムヘアーの女性が目の前に立っていた。


「!?」


 突然の事に驚き、まさかこの一連の私の奇っ怪な動きが見られていたのかと思い少し赤面する。


 しかし、そんな事は何も思っていないのか、目の前にいた女性は、私の方に指を指し口を開いた。


「もしかして、お仕事探しとる?」

「え?」


 その少し目尻の垂れた目を不思議そうに瞬かせて問い掛けてくる目の前の可愛らしい女性のその言葉は、普段聞き慣れない発音。


 長年大阪に住みながら、東京出身の両親の影響か大阪弁が全く移らず幼い頃から標準語の私。


 大阪で聞きなれたイントネーションとは少し違うこの地方の方言と思われる発音に、ここが少し異国かのような錯覚に陥らされる。


「今、そこのチラシ見とらんかった?」

「チラシ?」


 私を指さしていたと思っていた指は私を指してはおらず、私を飛び越えた広告掲示板に貼られていたポスターに指された物だった。


 言われるがまま、そちらに視線を移せば確かにそれは『従業員さん募集中』と書かれた接客業の求人ポスターが貼られていた。


 どうやらいつの間にか場所を移動する為、足が動いていたようだ。


「この求人うちの店のなんよ」

「うちの店?」

「うん。うちの親戚のねーちゃんがやっててね。こっからちょっと遠い瀬戸内海に面した所にあるカフェなんじゃけど」

「カフェ」


 目の前の女性がにかっと笑いながら教えてくれたその事実は私の耳を疑った。


「今ね〜社員募集中なんよ〜。おねーさんお仕事探しとるんならどう?」


 これは私にとって寝耳に水だ。


 先程まで住所を決め、職に就く為に頑張らなければと奮起し、まずは全てを探すところからだとなっていた矢先でのこの募集要項。


 既に人間関係の構築に失敗し、心を破壊された私だが、心根は拙くとも既に社会人として染まっている。


 独り立ちとは、自身の全てを自分自身でしっかりと管理し自力で生計を立てることができることを言う。


 まだ傷は癒えていないが、うじうじしていられない。


 少しだけ心に鞭打ち一歩を踏み出す。


「……あの、因みになんですが、このお店は住所不定の者が応募する事は可能ですか?」


 恐る恐るといった様子で尋ねれば、目の前にいた女性は目を見開き私が持ってきていたキャリーケースと私の顔を見比べ顔面が蒼白になっていく。


「もしかして……家出少女!?!?!?」


 盛大な誤解を招くワードが飛び出し思わず目の前の彼女の口を慌てて塞がせてもらった。

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― 新着の感想 ―
就職うまくいかなかったんだね。 人に恵まれないのは辛いよね。 私も経験があるので……。 そして旅に出る気持ちもわかります。 でも、なんだか明るい人に出会えたみたいですね! なんだかいいことありそうです…
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