第321話 第一の刺客?
一方その頃、ジェイ達はひと足先に帰宅。それにルコが同行していた。
「うわぁ、おっきぃ……♪」
ジェイの騎獣を見るためだ。ルコは門扉を潜る前から、騎獣の巨体に興奮気味の声を漏らした。
通常の高山牛と比べて倍近くの大きさを誇るジェイの騎獣。家の前を通り掛かるだけでも、その姿はよく見える。
「あの子、どこの牛かは分かんないんだよね?」
「森で見付けたからなぁ……」
「あの頃はまだ小さ……いや、大きかったわ」
しみじみと言うモニカ。拾った当初は、その大きさから成牛だと思われていた。
すくすくと大きく育ち、まだ仔牛だったと判明するのはしばらく経ってからの事だった。
今では、背に乗れば騎兵槍でも地面の敵には届かなくなってしまう程の巨体である。ジェイは魔法で攻撃できるので問題にはならなかったが。
「おとなしい子じゃ~ん」
ルコが手慣れているというのもあるが、騎獣はおとなしく撫でられている。普段から道行く人を眺めているだけあって、初対面の人が来たからといって動じたりはしない。
戦場でも興奮して暴れたりせずこの調子なので、本当に肝が据わっているのだろう。
「てーか、この子にこの庭は狭すぎるっしょ。どこで運動させてんの?」
この家は、ジェイが三人と婚約しているのもあって学生街の中でも大きい物。それに準じて庭も広いのだが、騎獣の方が規格外過ぎた。そのため庭が手狭である事は否定できない。
「普段は演習場だな」
野外演習で使う森の演習場辺りである。繁華街と演習場の間には広い草原があるため、騎獣を持つ学生がよく利用していた。
ジェイの家の場合、ジェイ達は風騎委員の役目があるため、獣車の御者をする忍軍が連れて行く事も多い。
「でも、あそこってさぁ……」
「……まあ、今は仕方ない」
表情を曇らせるルコ。
ご存知の通り、あの辺りは魔神ダ・バルトと百魔夜行が襲来した際に戦場になった。
特に新魔王像との激戦が繰り広げられた平原の辺りは地形が変わるレベルの被害が出ている。
そう、今は騎獣達をのびのびと遊ばせられるような環境ではないのだ。あんな凸凹だらけになった場所を走らせては足を折りかねない。
実はこの問題は、騎獣を持つ学生達共通の悩みとなっている。ルコは騎獣として使っていないが、高山牛は大きいため例外ではなかった。
「この子はどうしてんの? この大きさだと特に広~い場所が必要でしょ?」
尋ねるルコ。彼女も二頭の牛を運動させる場所に苦労していた。
平原があの状態になってから、学園側も学園内の演習場を使わせてくれているが、大型獣となると手狭と言わざるを得なかった。
「『風の丘』に連れていきますっ!」
元気よく答えたのは明日香。
『風の丘』は内都郊外にあり、内都の住人にとっては気軽に行ける行楽場所としておなじみだ。
ポーラ島からは少し距離があるが、戦いの被害も無く、ジェイの騎獣でも問題無い広さがあった。
「そこ遠くない?」
「でも必要ですから! 週に一回くらい連れて行こうって話になってます!」
その日は、皆で遊びに行く事になっている。災い転じてなんとやら、明日香はそれを楽しみにしていた。
この後ルコは、家には上がらず庭で騎獣を見ながら明日香と談笑していた。
その明るい性格が似ているのもあってか、特に明日香と仲良くなったようだ。
そしてエラが帰宅したところで、ルコは「お世話になりました~」とペコリ頭を下げ、ぶんぶんと大きく手を振って帰って行った。
いつジェイにアプローチを掛けてくるかと警戒していたモニカは拍子抜けだ。
「もうちょっと踏み込んでくるかと思ったけど……」
「いきなりそういう事をするのは避けたんじゃないかしら?」
そういうのは順序があると考えているのはエラ。
今日は牛という取っ掛かりを得たので十分だと判断したのではと考えている。
「そういう難しそうな事は考えてなさそうでしたよ?」
理屈ではない。明日香の直感である。
「そんな……」
「明日香じゃないんだから」とモニカは口に出しそうなったが、なんとか堪えた。
「というか皆、そんな事考えながら話してたの?」
そうツッコんだのはアメリア。彼女にはまだ理解が及ばない世界であった。
「ジェイ、ジェイ、どう思いますか?」
「そうだな……」
現時点でジェイは、自分と誼を結ぼうと四国が動いている事は理解していた。
この状況をいかにして打破するか。彼は自身の経験に基づいて、こう考えている。
「警戒して守りを固めているだけじゃ、状況は変わらないんじゃないかなぁ……」
「なるほど! じゃあじゃあ、どうするんですか?」
「あえて踏み込んで、相手の出方を見たいところだな。それが分からないと敵か味方も判断できない」
「あえて虎穴に入るんですねっ!」
「そういう事だ」
盛り上がる明日香。やはり理解できず、首を傾げるアメリア。
エラは不思議そうな顔をしてモニカに視線を送り、そしてモニカは幼馴染の理解力でこうツッコんだ。
「ジェイ、戦基準で考えてない?」
しかも攻撃性強めの考え方であった。




