死ぬまでズット
「順二さん、なぜ嘘をついたんですか」
良子は、普段会話する時のように、さん付けで順二を呼んだ。
もちろん叱るときは呼び捨てだ。
その時は体罰も容赦しない厳しい良子だ。
「何のことですか?」
「刑事さんが尋ねたことよ。あなたが、言った言葉、三分上げますと誰かに言った言葉よ」
「僕は、嘘なんて…言ってません」
「順二!刑事さんをごまかせても私はごまかせないわよ!」
良子は順二の顔を睨み付けた。
順二は背筋を伸ばし、目を瞑った。
「お前は嘘をつくと瞬きを激しくする癖がある。それと鼻の穴が大きく開く」
順二は思わず両手で鼻と目を覆った。
「怒らないから、言ってごらん。なぜそんなことを言ったの?」
「助けてもらうために、どうしてもその言葉を言わなければならなかった。僕の人生の三分をあげた」
良子は順二をジッと見つめた。
「人生の三分?」
順二は目を背けず良子の鼻のあたりを見つめた。
良子のするどい視線だけは見たくなかった。
おもむろに良子は言った。
「それが本当なら順二さんは、その場を助けてもらうためだけに、三分寿命を無くしたわけね。もったいない話」
「ところで誰にその三分をあげたの?」
「それは、…言っても信じないから言わない」
良子の顔が、また、みるみる怒りの表情に変化した
「順二、信じるか信じないかは私がが決めること。だから言いなさい!」
黙っていれば、頬に平手が飛ぶのは間違いない。
順二は話した。
電車での経緯を正直に養母、良子に話した。
良子は暫く沈黙した。
「それで、その黒いスーツのおじさんというのは今どこにいるの?」
良子は、部屋の中を見回した。
「あそこにいるよ」
順二は指で部屋のある場所を指し示した。
黒のスーツを着た男が、血のように赤い太い杖を左手に持ち順二を見つめている。
良子は順二の指さす方に目を向けた。
黒スーツの男は、良子の側に近づき唇が重なるぐらいまで顔を寄せ言った。
「ばあさん、わしが見えるか?」
「そのおじさん、良子さんの目の前にいるよ。直ぐ前に」
良子は目を直ぐ前の空間に合わせた。
「順二を助けてありがとう。お礼は何をあげたらいいかしら」
黒スーツの男は驚いた顔で順二のほうに顔を向けた。
「わしにプレゼントをくれるのか…面白い」
黒スーツの男は腕を組んで考えた。
「そうだな、とりあえずは…」そう言いながら順二の方を見て、
「坊主、お前の命が欲しい。でなければこのばあさんの命だ」
「ええっ?」
「どうしたの、何か欲しいものがあると言ってるの?」
「う、ウン」
「ウンじゃないでしょ」
「はい」
「で、何が欲しいって?」
「僕の命が欲しいって言ってます。でなければ良子さんの命を」
それを聞いた良子はカッと目を大きく開き順二に言った。
「順二、お前を助けた黒スーツの男と言うのは悪魔か!」
「…かも知れない」
良子は叫んだ。
「順二の命も、私の命もやるものか!欲しければ奪い取るがいい!」
黒スーツの男は、苦笑しながら言った。
「冗談だ。冗談。ばあさんに言ってやれ。欲しい物は何もない。強いて言えばお前といつも一緒にいたいだけだ。お前が死ぬまで」
男は順二に満面の笑みを浮かべた。




