第1話 ようこそフェアリーアイランドへ 後編
それからしばらくして、フェリシアとリックスがやって来ました。それを見てアイナはのんきな顔で言いました。
「ねぇ、フェリシアたちもこっちに来ていっしょに飲まない?とってもおいしいわよ」
「妖精に教えてもらってここに来たけど・・・あなたここで何やってるのよ!私たちがどれだけ心配したかわかってるの?ルーシーはまだあなたのことを真剣に探してるのよ」
「それは本当に悪かったわ。でもしょうがないのよ。私だっていろいろと大変だったのよ」
「それはアイナが勝手に走り出したのが悪いんでしょ?」
「こうしてちゃんと出会えたんだからもういいじゃないか。もうすぐルーシーもここに来るだろうからさ、あんた達たちもゆっくり休みなよ。薬草入りのおいしいクッキーもあるよ」
グリムは、アイナをかばうように言いました。
「クッキーだって?」
リックスは嬉しそうにクッキーを食べました。
アイナたちはおしゃべりをしながらルーシーが来るのを待っていました。すると、窓の隙間からルーシーが部屋に入ってきました。
「もう!アイナのせいで大変よ。おまけに雨にも降られてもう最悪」
「雨だって?おや、本当だねぇ。いつの間にか雨が降っていたんだね。しばらく雨宿りしていくといいよ。どうせ通り雨だからすぐに止むだろうからさ」
グリムは、窓から空を見ながら言いました。
アイナも窓から外を眺めてみました。すると、外にはうっすらとピンク色をした雨がしとしとと降っていました。
「この世界ではピンク色の雨が降るのね。とても驚いたわ」
「あら、ピンク色だけではないのよ。全部で7種類あるの。赤色、黄色、オレンジ色、紫色、茶色、緑色、ピンク色の七色よ。しかもただ色が違うだけではなくてそれぞれいろんな味がするのよ。赤色はさくらんぼ味、黄色はレモン味、オレンジ色はみかん味、紫色はグレープ味、茶色はチョコレート味、緑色はメロン味、ピンク色はイチゴ味よ」
フェリシアの説明を聞くとアイナは、どうしても自分で確認したくなって外に出ました。そして、両手をのばしてピンク色の雨を受け止めると、ぺロリとなめてみました。
「おいしい!本当にいちごの味がするのね。ほかの雨の味見もしてみたいわ」
「感激するのもいいけど、早く部屋に入らないと雨にぬれて風邪を引くわよ」
アイナは、フェリシアにそう言われていそいで部屋に入りました。そして雨が止むまで部屋の中でおしゃべりを楽しんでいました。
雨はすぐに止みました。どうやらグリムの言うように通り雨だったようです。
「雨も止んだみたいだし、外に遊びに行きましょうよ」
「ねぇ、アイナ。花畑に行くと面白いものが見られるかもしれないわよ」
ルーシーがそう言いました。
「本当?それはぜひみて見たいわ」
そう言うとアイナはうれしそうに外に飛び出して行きました。
「ちょっと!せめておばあさんにお礼くらいしなさいよ。散々お菓子を食べたり飲んだりしたくせに、さっさと出て行くんだから」
フェリシアは大声で叫びましたが、アイナの耳には届いていないようでした。
「私のことならいいんだよ。そんなくだらないことなんて気にしちゃいないよ。それよりも早くあの子を追いかけたほうがいいんじゃないかい?そうしないとまた迷子になってしまうよ」
「それもそうね。あの子、何も知らないくせにおかまいなしにどんどん前に進んで行くんですもの。ほら、リックス行くよ。ちょっと!あんたいつまで食べてるのよ」
フェリシアは、リックスの耳を引っ張って外に出て行きました。その後ルーシーも出て行きました。
みんなが出て行って静かになった部屋でグリムがつぶやきました。
「やれやれ・・・やっと静かになったね。それにしてもあのアイナって子。面白い子だね。いつの間にかみんなあの子のペースに巻き込まれてしまう。不思議な子だよ、まったく。さすがのルーシーやフェリシアも、あの子には手を焼くだろうね」
その頃アイナは、森の中を夢中になって走っていました。後ろからフェリシアの叫び声がします。
「ちょっとアイナ待ちなさい!待ちなさいってば!一体どこまで振り回せば気がすむのよ」
しかしアイナにはその声は聞こえていないようでした。ただまっすぐ走っていました。
森をぬけて花畑にたどり着くと、アイナはその光景に驚きました。なんと花がハートや星の形をしたシャボン玉を飛ばしているではありませんか。
アイナが日の光を浴びて光り輝くシャボン玉に見とれてうっとりしていると、ようやく追いついてきたルーシーが説明してくれました。
「どう?すごいでしょう。アイナはとても運がよかったわ。これが見られるなんてとてもめずらしいのよ。これはシャボン花というの。この花は雨が降るとその水を吸収して特殊な液体を混ぜて、種をつつむようにシャボン玉を作るの。そして風の力を借りて遠くに種の入ったシャボン玉を飛ばすのよ。しかもこの花は気まぐれで雨が降ったからといってかならずシャボン玉を飛ばすとはかぎらないのよ。本当にラッキーだわ」
その頃ようやくフェリシアとリックスもやって来ました。フェリシアは、一言アイナに文句を言おうとしましたが、きれいなシャボン玉を見るとそんなことはどうでもいいと思いました。この世界に住んでいるフェリシアにとってもこの光景はとてもめずらしいことだったのです。
「また失敗した。今度こそ!」
リックスは、花畑に来ると同時に必死になってシャボン玉をつかまえようとしていました。
「ねぇ、フェリシア。リックスは何をしてるの?」
不思議そうにアイナが言いました。
「ああ、あれね。もしシャボン玉を壊さないように上手につかまえることができたらとてもいいことがあるっていう伝説があるの。リックスはまだ一度もつかまえたことがないものだから必死になってるのよ。私は一度だけつかまえたことがあるけどね」
「おもしろそうな話ね。私もやってみるわ」
そう言うとアイナは、フワフワと風に舞っているシャボン玉を追いかけました。しかし、シャボン玉はそう簡単にはつかまらないようです。
その様子を見てルーシーが笑いながら言いました。
「どう?思ったよりも難しいでしょう?」
「ええ、そうね。リックスの大変さがよーくわかったわ。でも私は諦めないわよ」
最初は笑いながら見ていたフェリシアやルーシーも、アイナが必死にシャボン玉を追いかけている姿を見て、いつの間にか応援していました。疲れ果てて座り込んでいたリックスも、手に汗握って応援しています。
みんなの応援に勇気をもらったアイナは、よりいっそうがんばりました。そして、ついにシャボン玉をつかまえたのです。それは、ハートの形のシャボン玉でした。
「見て!つかまえたわよ。ほら!」
「まだよ。そのままシャボン玉が壊れないようにして3秒数えるの。3秒間壊れなければ成功よ」
ルーシーにそう言われてアイナは、手の中にあるシャボン玉を壊さないようにゆっくりと3秒数えました。
「いーち、にーい、さーん」
「やったわね。おめでとう!」
ルーシーが飛んできて言いました。その後ろからフェリシアとリックスも笑顔でアイナのもとに走ってきました。
「すごいじゃない。初めてでいきなり成功するなんて・・・私なんか3回目でやっと成功したのよ」
「ありがとう、フェリシア。みんなの応援のおかげだわ」
リックスは少し悔しそうでしたが、素直に認めて言いました。
「すごかったよ。おめでとう」
「ありがと」
アイナはニコリと笑いました。
「さぁ、踊りましょう」
近くで見ていたたくさんの妖精たちにさそわれ、アイナたちはみんなで輪になってくるくると踊りました。
アイナたちが楽しそうに踊っていると、突然何者かが目の前に姿を現しました。
それは妖精の女王でした。女王はほかの妖精たちとはまったく違い、人間の女の人と同じくらいの身長で、とても美しい姿をしていました。そして頭には黄金のティアラが光り輝き、その眼差しはすべてをつつみこんでくれるような優しさと女王としての威厳がありました。
女王の姿を見て、さっきまでいっしょに踊っていた妖精たちはサッといなくなりました。
「ルーシー?人間の子を連れてきたら、まず最初に私に報告する約束ではなかったの?」
「ごめんなさい。女王様・・・紹介します。この子が人間の女の子のアイナです」
ルーシーは小さな声で言いました。
「初めまして。私が女王のメアリーナです。フェアリーアイランドへよく来てくれました。少しの間ですが、みんなと楽しんでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
挨拶が終わると女王は、またどこかに消えていきました。
「あら、いつの間にかすっかり日が暮れてるわ。そろそろ帰らなくちゃ。ねぇ、アイナ。私の家に泊まりにこない?お父さんもお母さんもあなたに会うのをとても楽しみにしているのよ」
「ありがとう、フェリシア。でもやめとくわ。ここは夢のように素敵な世界だけど、やっぱり自分の家が1番落ち着くの」
「それもそうね。じゃあ、また明日会いましょ」
「みんなさよなら。また明日遊びましょ」
アイナは元気に手を振って虹のトンネルの中に消えていきました。
アイナに手を振りながらフェリシアは、少し不安そうに言いました。
「ねぇ、ルーシー。もしもよ。もし突然トンネルが消えちゃったらどうしよう。もう一生、あの子には会えなくなるのよね」
「大丈夫よ。それは絶対にないわ。必ず3日間はつながっているはずだから安心しなさいよ。その後のことは、今は考えるのはやめましょ。今はたくさんの楽しい思い出を作りましょうよ。でもおかしいわね。だってフェリシアったらあの子の文句ばっかり言ってたのに・・・」
「私だって最初は本当にこの子を連れてきて良かったのかしらって思ったわ。でも・・今日初めて会ったばかりなのに、もし会えなくなったらどうしようと思うと何だか変な気持ちになるの。どうしてかわからないけど・・・」
「そんなことはどうでもいいじゃんか。ねぇ、早く帰ろうよ。今日はいっぱい走ったから、いっぱいお腹がすいちゃったんだよ」
「あんたは食べることしか頭にないわけ?」
「ねぇ、今日の夕食は何かな」
「私が知ってるわけないでしょ」
そう言いながら二人は帰っていきました。
「やれやれ・・・」
そう言ってルーシーも帰りました。