第1話 ようこそフェアリーアイランドへ 前編
「おばあちゃん、お花を持ってきたよ。ほら見て、きれいでしょ。私が一生懸命育てたのよ」
それはむかしむかしのお話でした。ここは小さな国の小さな森の中。女の子は、お墓の前で誰かに向かって話しかけていました。
その人は女の子のおばあさんでした。女の子の両親は彼女が小さいときに泣くなってしまい、おばあさんといっしょに住んでいたのですが、そのおばあさんも女の子の両親と同じ病気で亡くなったのでした。
「じゃぁ、おばあちゃん、また明日も来るからね」
そう言って女の子が立ち上がって帰ろうとしたその時、誰かに見られているような変な感じがしました。
しかし、辺りを見回しても姿は見えません。でも、確かに彼女は何かの気配を感じていたのでした。
「だーれ?だれかいるの?」
女の子はそう叫んでみましたが、何の反応もありません。
「やっぱり私の勘違いだったのかしら・・・」
そう思ったその時、目の前にうっすらと何かが見えました。
それは蝶のよでしたが、何かが違います。
目をこすってよく見ると、小さな人の形をしているようにも見えます。
それは、とがった耳と小さな可愛らしい羽根、オレンジ色の花びらのようなドレスを着ていました。
そう、それは妖精だったのです。
妖精は、まさか自分の姿が見えているとは気づかないで、女の子の様子を観察するように眺めていました。
女の子はドキドキしながらも、妖精に会えるなんてこんなチャンスは二度とないと思い、勇気を出して話しかけました。
「こんにちは。あなた妖精でしょ?」
妖精は突然の女の子の言葉に、心臓が止まるくらい驚きました。純粋な人にしか姿が見えないからです。
「あら、驚いた!あなた私の姿が見えるのね。ちょうどよかったわ。私たちは自分の姿を見ることのできる心の綺麗な子を探していたの。もしよければ私たちと友達になってほしいのよ。ちょっと待ってね。あとの二人を呼ぶから。」
妖精は後ろを向いてどこかに向かって大声で叫びました。
「二人とも!もう出て来てもいいわよ。」
すると、少し離れた大きな木の後ろから、二人の子供が現れました。
二人は、どこか緊張しながら女の子のそばにゆっくりと歩いてきました。
「紹介するわ。私は妖精のルーシー、そしてこの子は姉のはフェリシア、もう1人は弟のリックスよ。二人は姉弟の中小人なの。中小人っていうのは妖精よりは大きいけど人間よりは小さいって言う意味なの。」
確かに二人の子供は、小人と言う感じはしませんでした。身長も人間の子と同じくらいのように見えます。しかし、はっきり違う部分もありました。きれいな赤毛と妖精のようにとがった耳をしていました。
「こんにちは。私はアイナ・クラークっていうの。よろしくね」
初めて会ったばかりのアイナたちはもうすっかりと打ち解けていました。
「ねぇ、アイナ。私たちの世界に遊びに来ない?私たちは人間の子を私たちの世界に招待するために来たの。」
ルーシーにそう言われたアイナは、嬉しそうに答えました。
「ええ、いいわ。ぜひ連れて行ってちょうだい。ちょっと怖いけどすごく面白そうだわ。」
「そう言ってくれてとても嬉しいわ。ほかの人たちも人間が来ることをとても楽しみにしているのよ。さぁ、行きましょ」
アイナは、ドキドキしながらルーシーたちについて行きました。
するとそこには、虹の輪のようなものがぼんやりと浮かんでいるのでした。
「なーに?これ・・・こんなの初めてみたわ。とってもきれい!」
アイナは嬉しそうに言いました。
「これは虹のトンネルよ。私たちの世界とあなたたちの世界がこのトンネルでつながっているの。そしてこのトンネルは100年に1回、3日間しかつながらない不思議なトンネルなの」
ルーシーがそう説明してくれました。
「ねぇ、詳しい話は向こうに行ってからでもいいんじゃないの。そろそろ行きましょうよ」
そう言ってフェリシアはトンネルの中に消えていきました。
その後を、ルーシーとリックスが続きました。
アイナは一瞬ためらいましたが、勇気を出してトンネルの中に足を踏み入れました。トンネルの中はフワフワとしていて、まるで雲の中を歩いているようでした。
アイナがトンネルを抜けると、ルーシーたち3人は声をそろえて言いました。
「ようこそフェアリーアイランドへ!!」
そこには、色とりどりの美しい花が咲き誇っています。その花畑は、まるでどこまでも続いているかのようでした。花の甘い香りに誘われて、見たこともないようなきれいな羽をもった蝶や、妖精たちが集まっています。
「まぁ、すてき!こんなのはじめて見たわ。なんだかここにいるといやなことを全部忘れさせてくれそうだわ」
アイナは嬉しそうに言いました。
「ね?来てよかったでしょう。別に自慢するつもりはないけど、ここよりも綺麗な場所はどこにもないと思うわ」
「よく言うよ。しっかり自慢してるくせに」
フェリシアはジロリとリックスをにらむと、また話を続けました。
「ねぇ、ちょっとこの花をさわってごらんなさいよ」
そう言われてアイナは、このラッパのような形をした花をちょんとさわってみました。すると花が、ラッパのような音を出したのです
「どう、おもしろいでしょ?これはラッパ草っていってさわるとラッパのような音をだすのよ」
「ほんと!とっても面白いわ。もう一回やってみようっと」
そう言ってアイナは、トランペット草やハープ草、そしてフルート草などを手当たりしだいにさわりました。それを見てフェリシアたちも同じように色んな花をさわりました。すると、辺りからいろんな音が流れて、まるでオーケストラのようでした。そしてアイナは、指揮者のような気分を味わっていました。すると、その音に反応してほかの花たちが動き出しました。この花は、音に反応して動き出すのです。
「すてき!まるで花たちがダンスを踊っているみたい!」
その周りでは、妖精たちも一緒にくるくると踊っていました。
花や妖精たちとダンスを楽しんだ後、リックスがニヤニヤしながら言いました。
「ねぇ、アイナ、今度はこっちの花をさわってみなよ。面白いからさ」
アイナは、今度はどんな素敵なことが起こるのだろうとわくわくしながら、その花をさわってみました。すると、ものすごい臭いがアイナの花を襲いました。
それを見てリックスは、してやったりと大笑いしていました。
「もう!リックスったらひどいじゃない。鼻がこわれちゃうかと思ったわ。ルーシーたちも黙ってないで教えてくれてもいいじゃない。意地悪ね」
するとルーシーが笑いながら言いました。
「ごめんごめん、悪かったわ。その花は動物たちに食べられないようにくさい臭いを出して身を守っているのよ。お詫びにもっと面白い花を見せてあげたいんだけど・・・その花は雨が降った後じゃないと見られないのよ。今日のこの空の様子ではちょっと無理かもしれないわね・・・」
「降らない雨の話をしたってしょうがないよ。今度はほかの場所に行こうよ」
リックスが言いました。
「ええ、そうね。じゃあ、森に行きましょうか。あそこにも見せたいものがたくさんあるから」
みんなフェリシアの意見に賛成して、森に向かいました。
その森は、アイナが知っている森とはまったく違いました。木の色がオレンジのような色をしていて、葉の色は青い色をしています。さらに、その葉の形も見たことのないものでした。
「不思議だわ。青い森なんて初めてよ。何だかまるで海の中にいるみたいだわ。ほら、見て。あそこに飛んでいる鳥達が魚で、その下に生えてある変わった形のキノコはサンゴよ」
「くだらない空想がすきなのね。どう見たって森はただの森よ。海の中には見えないわ」
「フェリシアったら夢がないのね」
「フェリシアはどちらかというと現実主義なのよ」
ルーシーが笑いながら言いました。
「現実主義で悪かったわね!」
フェリシアが少しムッとして言いました。
「別に悪いとは言ってないわよ。あら、アイナどうしたの?」
アイナは、じっと何かを見つめていました。そこには、星型の甲羅を背負ったカメが、ウサギのようにピョンピョンと飛び跳ねていました。
「ああ、あれね。あれは星ガメっていうのよ。ちょっとアイナ!どこ行くのよ!」
「星ガメに聞いて!」
アイナはルーシーの説明の途中で、星ガメを追いかけて走り出したのです。
「もう!何を考えてるのよ、あの子は・・・初めて来たばかりの世界で右も左も知らないくせに、一人でどこかに走っていくなんて・・・迷子になったらどうするつもりなのかしら。ねぇルーシー、あの子を選んだのは間違いだったのかしら。」
「フェリシアだってちゃんと賛成したはずよ。今さらそんなことを言ってもしょうがないじゃない。あの子はきっと初めて見るものばかりでとても興奮しているのよ。だから夢中になって星ガメを追いかけていっちゃったんじゃないかしら。私があの子を連れ戻すからあなたたちはここで待っててちょうだい。すぐにもどってくるから」
そう言ってルーシーは、アイナを追いかけて飛んでいきました。
「あれー?どこに行ったのかしら・・・確かこの辺りに逃げたと思ったのに・・・残念だわ。せっかく仲良くなろうと思ってたのに・・・」
アイナはしばらくして冷静になりふと辺りを見渡すと、そこにはルーシーたちの姿は見えず、ここでようやく自分が迷子になってしまったことに気づいたのでした。
アイナは、すぐにルーシーたちが探しに来てくれるだろうと思い、そんなに心配はしていませんでしたが、いつまでたっても誰もこないので少し心配になってきました。
「もしこのままみんなに会えなかったらどうしよう・・・ルーシー!フェリシアー!リックスー!」
しかしアイナの必死の叫び声も、ルーシーたちの耳には届きませんでした。しかたないのでアイナは、まったく知らないこの森の中を、みんなを探してとぼとぼと歩き出しました。
アイナの周りには、おもしろい動物や植物がたくさん見られましたが、今のアイナにはそれを楽しむ余裕はありませんでした。しばらく歩いていると、目の前に小さな家を見つけました。
「こんな森の中に家があるなんて・・・一体、誰が住んでるのかしら。何だか物語りにでてくる魔女の家みたいだわ。ちょっと怖いけど勇気を出してこの家の人に助けてもらうしかなさそうね」
アイナが家をノックすると、ギィーっというきしんだ音とともにドアがゆっくりと開きました。そして家の中から、本物の魔女かと見間違えるような怪しいおばあさんが出て来て、アイナの上から下までをじろりと見てこう言いました。
「ははぁ、なるほどね。あの子たちが人間の子を連れて来ると言ってたけど、それはあんたのことだね。そしてあんたはこの森で迷子になってしまった。そうだね?アイナ・クラーク」
アイナは、このおばあさんが全てを知っているのでとても不気味に感じました。そしてこの人は本物の魔女ではないかと強く思いました。
「そんなところに立ってないで部屋に入ったらどうだい」
「わたしをどうする気なの?」
「私が怖いのかい?」
「だっておばあさん、魔女なんでしょ?」
「あはははは。私はただのばあさんだよ。それにあんたを食べるわけではないんだからさ。安心してお入り」
アイナは、恐る恐る部屋の中に入りました。部屋の中には、たくさんの本や薬の空き瓶、そして何かの動物の骨などがたくさんありました。そして、何か不思議な臭いもします。しかしアイナは、不思議と不気味さを感じませんでした。それどころか、どこか懐かしさを感じました。このおばあさんに対する恐怖心もそれほど感じなくなっていました。
「少し変な臭いがするかもしれないけど我慢しておくれ。頼まれた薬をナベで煮ている最中だからね」
「あら、そんなの平気よ。だって死んだ私のおばあちゃんもよくこうして薬を作っていたのよ。よかったら何かお手伝いしましょうか?」
「そんなことは気にしなくてもいいんだよ。せっかくのお客さんにそんなことをさせるわけにはいかないからね。あんたは座ってればいいのさ。そういえばまだ名前を言ってなかったね。私はグリムだよ。みんなからはグリムばあさんと呼ばれているのさ」
「ねぇ、おばあちゃん。どうして会ったこともない私のことを詳しく知っていたの?」
「あぁ、そのことかい?答えは簡単だよ。私はたくさんの妖精たちと知り合いなのさ。その妖精たちが頼みもしないのにいろんなことを教えてくれるんだよ。だから私はここにいながら村や森で何があったかを知ることが出来るのさ。ほら、今も1人ここにいるよ」
グリムの後ろから、小さな男の子が出てきました。
「妖精たちは好奇心が強い反面、警戒心も強いのさ。だからあんたが来たので警戒して隠れていたんだよ」
グリムはその妖精にルーシーたちにアイナがここにいることを知らせてきて欲しいと頼みました。すると妖精は、窓から飛んでいきました。
「さぁ、ルーシーたちのことはあの子にまかせてゆっくり休むといいよ。歩き回ってつかれただろうからね」
アイナは甘い花の蜜で作ったジュースを飲んで、ほっと一息つきました。そして、人間の世界のことや、自分のおばあさんのことなどをいろいろ話しました。




