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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
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ラミュースネル

鮮やかなオレンジの光が反射して七色に光る鱗は煌いている。

見つめ返す宝玉のような紅い瞳は時を止めたかのような美しさ。


ソルは固まった。奇しくも最初に出会ったあの時と同じように。



『ラミュースネル』

目の前にいる水晶のような大蛇はそう呼ばれている。

太古に海を支配していた鋭い刃の皮膚を持つ白い蛇『ラータ』の幾つかの種族に分かれた末裔の内の一つだ。

砂漠地帯や荒野などに生息しており、自身が水を多く含んでいることもあり別名“動くオアシス”と呼ぶ。

希少種であり全体数が少なく、生息地帯も多く種族が居る生存地域から離れているため出逢うことは滅多にない。

主食は地中に含まれる僅かな水分で、寿命も他の獣よりも長い。


この巨大さから魔物と誤解されがちではあるがれっきとした獣だ。しかし太古の強種族の末裔であるからかマナの循環が出来、生息地帯ではマナの循環が豊かになるのだ。



ソルは以前見たこの大蛇の項目を思い出しながら未だ見つめ合う。


(たしか性格は温厚だったはず、主食も水だし食べられる心配はないはずなんだけど…)


確かにラミュースネルの主食は水だがまったく水分の無い土地や空腹時には水分を含む生物、つまり血液を求めて襲うことがある。

ここで問題なのだが、この場所はまだ(…)“呪われた不毛の大地”であるということ。

はたして不毛の大地と呼ばれているこの場所に水分などあるだろうか?

群れで生息しているラミュースネルだがこの一匹だけしか見えないことはいわゆる“はぐれ”と呼ばれるものなのだろう。

一般的にはぐれとは彷徨っているモノの事を指す。つまり食料を探しているのではないか。

あの時の大蛇がこの一匹だったと確証はないがはぐれがそう何匹も同じ所にいるとは思えない。

女神のおかげで近くにオアシスを創ってもらったが考える限りではあの砂漠に水分はないはず。


ならこのラミュースネルは空腹なのではないかとソルは考え、恐慌を起こす。



襲われると思った瞬間、生物の生存意思とは強烈なもので思いがけないほど早い行動が出来ることがある。

ソルの瞬発力ではあり得ないほどの速さで後ろの森に疾走した。

脇目をふらず一心不乱に走る。

森の中ならば大蛇の体を持つラミュースネルは入ってこれないと思ったソルの行動だ。


その後ろから悲痛な声が響く。


「シャー、シャー!」

蛇の巻くような声に震えながら追いかけてこない様子を見て恐る恐る後ろを振り返る。


そこで見た光景でソルは開いた口がふさがらなかった。


宝玉のような紅い瞳から水があふれて、親と離された幼子のようにソルに向かって悲痛に叫びながら泣いているのである。

食料を求めての行動とは到底思えない。演技かと一瞬思ったが獣にそこまでの思考はないはず。


(どういうこと??)


ソルは困惑した。






怯え腰ながらゆっくりとラミュースネルに近づいてゆく。

その様子に歓喜の如く声を震わせ体を左右に揺らすラミュースネル。演技だったら最優秀賞を贈りたい程の演技力だ。

見たまんま待ちに待った親との再会な子供のような喜びように引くソル。


先ほどまでの獣然とした姿などそこにはない。



(ナニコレ?)








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