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平凡希望しかし現実苦し  作者: 澤木弘志
第一章 優しき愚者 ~朱ノ篇~
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森の入口へ

次にスウェンの手がかりを見つけたのは日がすっかり昇りきった昼の事だった。

森の入口まであと三分の一まで進めた頃スウェンの持ち物であるナイフが根元から折れた状態で発見したのだ。

唯一の武器であるナイフを損傷し放棄された状況にソルは焦りが募る。

この森に凶暴な獣が居ないわけではない。拠点地付近ならさほど危機を覚えるほどの獣はいないが入り口付近となれば話は別だ。

ここら辺の森は原初の森に近く外からの獣も多くこの森に入り込んでいるはずだ。

その獣と遭遇でもしてナイフを損傷したのだろうか。

ならば怪我でもしているのではないかとソルは心配になる。

しかし、ナイフの落ちていた付近には血痕もなく争ったような跡も見られない。


(ここで襲われたという訳ではないのか?)


スウェンの歩いた道筋を進んでいるつもりだがどこかで道筋がずれていたのだろうか。

獣の仕業でないとすると何らかの作業中に折れたものかもしれない。スウェンのナイフを見たことがあるが古く錆がついていたこともあり耐久性もさほどなかったように思いだす。

ソルはスウェンの身を案じながらも足を進める。時折挟む休憩も煩わしいが如何せん体力が続かない。

もどかしさの中で苛立ちも溢れていた。


(どこにいるんだ?スウェン!)


焦りのせいと体力減退による足のもつれで何度か躓きながら道なき道をゆく。

夜と違って明るさは充分にあるため夜よりは歩きやすい。

しかし獣道の険しさはさほど変わりなく歩く速度も大して早くはない。


そこから数時間後木々の隙間から砂ぼこりのような砂交じりの風が入り込んできた。

どうやら入口はまじかのようだ。

ソルはここまでスウェンに出逢わないことに落胆する。出来る事なら森から出る前に捕まえたかったのだ。

ここから先は森の中よりもソルにとって未知の領域だ。

スウェンの心配もあるがソル自身が外との恐怖に震えた。何があるか分からない恐怖がソルの体を縫いとめる。

進まなければと足を動かすが思うように動けぬ体に叱咤して外を目指した。






森の外は最初にこの世界に来た時を思い出させるような荒野だった。

砂漠で無いだけましだったが森の中の色彩に慣れた身にはなんだか呆気無い程の色彩の無さに急がなければならない状況ながら呆然と立ち尽くしてしまう。

ソルは時折舞いあがる砂風から身を守るようにフード深いローブを纏う。

念のためにと持ってきたが役に立ったようだ。


急いでいたためソル自身の装備も拙い。

幸い道中で凶暴な獣と遭遇することが無かったため武器を使わなかったがこの先はそうもいかないだろう。

獣もそうだが噂に聞く“魔物”も出るという。

獣とは断然違う強さを持ち魔法も使うことが出来る存在。ソルはこの世界に来て“魔物”には逢ったことが無い。

そもそも戦闘行為自体した事が無いのだ。襲われそうになったことは何度かあるが逃げ帰ることで回避していたため、戦うほかない状況など有ったことはない。


もし戦うことになった場合、戦い抜くことがソルのできるのか、不安げに揺れるソルの瞳は確かな恐怖が混じっていた。





スウェンを追ってから約18時間近く経った。

夕立近くになり日も暗い。

荒野に何が居るのかもわからぬまま進むのにはリスクが大きすぎる。かといって時間はさほど残っていないだろう。

獣人の移動速度がどのようなものか分かっていなかったがソルの思った以上の速さで進むことが可能のようだ。


何か移動速度の速い動物に跨って進むならいざ知らず、このままではいくらなんでもスウェンを捕まえることは不可能だ。

どうしたものかと悩むソルの前の地面が盛り上がる。



盛りあがった地面は次第に大きくなり後ずさるソルの前に土から出てきたのは見覚えのある姿だった。




水晶のような透明感のある身体。光に反射して七色に煌く鱗。紅い宝玉のような眼。

この世界に来て初めて出逢った異世界生物の大蛇がソルを見つめていた。








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