会話
ソル・バートル。
この名前はこの身体の基である二つのキャラクターの名前からつけた。
前の名前をつけるわけにもいかないならこの選択肢が妥当だと思ったのだ。
ソルは自分で納得してスウェンの様子を改めて見た。
悪化していた。
無駄に力んだ威圧感はどうやらスウェンの体力を削り昏倒させたようだ。
自身の威圧感を知らないソルは大いに慌てた。
名前を告げてしたり顔で相手を見たら相手は気絶していたのだから。
鈍さは時に凶器になる。
気絶しているスウェンを見ながら考え込む。会話がまったく成り立たない現状を憂い、ソルは元凶を探ろうと思ったもだ。
そして思いついたのが自分だった。
何か自分がやらかしたのだと結論づける。何せ対象が自分とスウェンしかいないのだ。消去法で考えてもやっぱり自分になった。
自分が原因だとしてもどうしてそうなったのか分からない。
分かったのはスウェンが恐れる対象に自分が入っていると云うこと。
会話を進めるには自分を隠した方がいいと結論する。
漸く気絶から復活したスウェンがみたものは果物を入れていたであろう籠を逆さにして頭から被っているソルの姿だった。
気絶している間に何があったのかと困惑するスウェン。
彼の困惑を無視してソルは気がついたスウェンとの会話を一方的に開始した。
「なぜこのような辺境な場所で倒れていた?あの傷はどこで負った?」
早継ぎに質問をぶつける。
会話を続けようとした結果質問をし続けることにしたソルだった。
スウェンは困惑気味の頭で質問に答える。スウェンも会話を進めて状況を把握したかったのだ。
「追手に逃れるために無我夢中で…背中の傷は逃げている途中で負いました」
「追手とは誰だ?」
「バーレシア王国の兵士です」
バーレシア王国?この世界にある国の一つだろうか。
なんで兵士に追われてるの?もしかして…
「…お前は何か罪を犯したのか?」
「いえ!そんな事実はありません!僕は…その…獣人だから……」
「獣人がどうした?」
意味が分からない。
獣人だからどうしてそうなるのだろう?こうして言葉を交わせると云うことは意思疎通出来ているのだから人間と大差ないのでは。
もしかして差別意識だろうか…
「…貴方様は僕を見て嫌悪感をお抱きにならないのですか?」
スウェンは尋ねる。
最初に対峙してから威圧感はあれど彼の人の瞳に嫌悪感の色が無かった。それはなぜなのか、ずっと疑問だった。
「獣人も“人”だろう?あって間もない人に嫌悪感を抱くことなどない」
この人は獣人を“人”だと思ってくれているのか?
スウェンはソルに威光を感じた。
同時に喜びも感じて胸が熱くなった。
今まで獣人を人と同列に見てくれる者など居なかった。獣人は汚物のような目をされ、奴隷が当然だと決めつけられた生き方を強要されてきたから。
それを同等に平等に見てくれるなどあり得なかったのだ。
「違うのか?」
ソルは不安になった。情報の書籍には人の認識感情など書いていない。唯人間と云う分類に獣人が入っていることしか知らないのだ。
そのことを告げたらスウェンは涙を堪えたような顔をして俯いていしまった。
「…いえ、そのように言ってくださった方は初めてだったので…」
「そうか」
やっぱり差別意識なのだろう。前の世界にも黒人や白人差別であったように自身とかけ離れた容姿をするものには差別感を覚えてしまうのだろう。
哀しいかなどの世界でも人間は人間のままだ。
スウェンはこれまであったことを赤裸々に語った。
「…僕が追われているのは奴隷狩りの対象だからです。バーレシア王国は特に人間至上主義の強い国ですから、人間以外の種は奴隷にしてもかまわない法律なんです。…住んでいた村に兵士が押しいて来て皆捕まりました。僕はたまたま狩りに出かけていたため、難を逃れましたがそれでも兵士に気付かれ…無我夢中でどこに逃げていいのかも分からず、東の方にひたすら走りました。三日間くらい走り抜けた所で兵士に捕まって抵抗したら、切りつけられました。その傷のまま数日間この場所まで逃げてきたんです」
スウェンの語りを静かに聞いていたソルは籠の中で涙していた。
哀しすぎる。なんて悲劇なんだ!
ソルはこういう話が非常に弱かった。悲劇や感動モノなんかの小説やドラマを見たら常に号泣していたのだ。
ソルは決意した。
このままスウェンを森の奥の住処へと連れて行こうと。
一人や二人連れて行った所で困ることはないし、最近一人が寂しく思っていたのだ。
そのバーレなんとか王国の兵士も森の奥まではやってこないだろう。念のために奥まで来ないように策はしておこう。
スウェンに近寄って右手を差し出す。
「手を取れ。私が安全な場所に連れて行ってやる」
スウェンは安全な場所が得られて、ソルは寂しさから逃れられる。一石二鳥だ!




