日常の稀人
一人称視点から三人称視点に変わります。
不都合があったら元に戻すかもしれません…
燦々と照りつける陽日を受けようと葉を大きく広げ天高く伸びる木。
生い茂る樹木のほのかな香りを纏いながら十五歳前後の一人の少年が歩いていた。
紫混じりの黒い長い髪を後ろで一つに括り歩くたびにゆらりと揺れ動く。
紺碧の瞳には僅かな憂いも浮かべさせることなく澄んだ色をしている。
表情のない顔はまるで彫刻か人形のように整い人間離れした美貌だ。少年は背に籠を背負い、中には小ぶりの果実が数種類入っている。
僅かに滲んだ額の汗をぬぐい少年は立ち止る。
彼がこの世界に来て月日が流れ早二年が過ぎようとしていた――
背負っていた籠を下ろして少年は近場の岩に座り込む。朝から歩き通しでかれこれ五時間は経っていた。
さほど疲労感を感じさせないのは二年もの間に多少なりとも上がった体力のおかげとこの無表情のせいだろう。
本人は疲れているのに全くその様子を表すことのない表情筋の死んだ顔では笑顔や泣くことすら困難だ。
とはいえ誰かに見せることもないので不満をぶつけることはない。
元凶に対しては多少なりとも思う所はあっても過ぎたることでもう諦めの境地にいる。
この森を創って二年目にして初めての探検であったがすでにもう帰りたくなっていた。
自然豊かで時折見かける動物とのふれあいは非常に楽しいのだが如何せん足場が悪く二年で鍛えたとは言っても家の近場で運動するぐらいで長時間足場の悪い森を歩くのには堪えている。
何よりこの森は広過ぎた。
どれだけ広いんだと愚痴りたくなるがコレは自業自得でもあるので心の中でも愚痴るのは憚れる。
力を抑えるべきだったがあの状況ではそれも難しかったし何より初めてだったのだ。仕方ない。
自分自身を慰めながら来た道を見通す。
ずいぶん遠くまで来た。
自宅のある森の奥から果樹園を抜けると生態系が徐々に変わっていた。
近場では見られない珍しい果物もあって意気揚々と採ったものだ。そのせいで荷物が増え足取りが重くなったのだが。
この辺りは本の情報で見た本来この世界にある一般的な森の形態に似ている。
おそらく能力の端の端であったため少年に既存するイメージとは離れたこの世界基準のものになっていったのだろう。
そのあたりを実際に見ることが出来たのは僥倖だった。
多少疲れたが収穫もあったことだしそろそろ引き返すかとゆっくり岩から腰を上げる。
背伸びをして籠を持ちなおすと中に入っていた果実の一つが籠から落ち転がってしまった。
慌ててその後を追う。
五歩くらい先の石で止まった果実を拾い上げ目線を上げると奇妙なモノが視線の端に映った。
黒い塊だった。
長細くいたるところ汚れ土や草がまとわりついているのが見えた。
動物の排泄物かと思ったがそれにしては大きすぎる。
訝しげに近寄ってみた。
近くに落ちていた小枝を携えおもむろに枝先を怪しい物体に押し付ける。
反応はなくまったく動かない。
近寄ってみて分かったがこの物体から何か鉄くさいにおいを感じた。
まさか血だろうか?っと及び腰になりながら良く見てみることにした。
危険と感じたら即逃げれるようにして覗きこむ。
遠目からは見えなかった容貌がはっきり見えた。
どうやら人のようだ。
なぜこんなところに?ここは辺境の果てだったはず…
かつての砂漠であった頃の端に来て人と出逢う。
かれこれ二年ぶりの他者との邂逅だった。




