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たこ焼き 八粒堂  作者: さんご


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2/7

せっかちな客と、四十分の魔法

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

商店街の外れにある「八粒堂」は、今日もゆっくり営業していた。


機械は静かに回り、

たこ焼きは——


ぽと。


五分に一粒、落ちる。


それを見守る常連たちは、誰も急がない。


ある者は新聞を読み、

ある者は空を見上げ、

ある者は、ただ「ぽと」を待つ。


この店では、時間が少しだけ長いのだ。


その日、店の前に一人の男が現れた。


スーツ姿。

スマートフォンを片手に、忙しそうに画面を叩いている。


歩き方も速い。

視線も忙しい。


——見るからに、せっかちな人間だった。


男は店に入ると、キョロキョロと壁を見回した。


「メニューは?」


壁には大きく書いてある。


たこ焼き 八個

出来上がりまで約四十分


だが男は、ほとんど読んでいない。


すぐに言った。


「たこ焼き二つ」


店主は新聞から目を上げ、静かに返した。


「はいよー」


それだけだった。


後ろで待っていた常連の一人が、小さくつぶやく。


「……俺のもまだだから」


少し間を置いて、


「あいつ、二時間待つことになるな」


別の客がくすっと笑う。


だが男は気づいていない。

スマホを見ながら足をトントンさせている。


その時。


ぽと。


一粒落ちた。


男は顔を上げた。


「今焼いてるんですか?」


店主は答えた。


「焼いてます」


「どれくらいで?」


店主は機械を指した。


「五分で一個です」


男は一瞬、計算した顔をした。


「……え?」


周りの常連が優しく教える。


「八個で四十分」


男は固まった。


「じゃあ……」


誰かが言った。


「二つ頼んだから、八十分待ちだね」


別の常連が付け加える。


「いや、その前に俺がいるから」


「二時間だな」


男は難しい顔でスマホを見た。

時計も見た。

機械も見た。


周りの客は、「見ても何も変わらないのにな」と心で思っている。


そして言った。


せっかちの客は

「……帰ろうかな」


だが、その時だった。


ぽと。


また一粒落ちた。


なぜか男は、それを見てしまった。


丸くて、少し揺れて、

静かに受け皿に着地する。


不思議と目が離せない。


男は椅子に座った。


「まあ……ちょっとだけ待つか。たまには待つのも」


五分後。


ぽと。


男はつぶやく。時計を見ながら


「……ほんとにきっかり五分だ」


常連が笑う。


「この機械、時間に正直なんだ」


十五分後。


男はスマホを見る回数が減っていた。


代わりに、童心に返ったように機械を見ている。


二十五分後。


しらない隣の客と話していた。


「この商店街、昔は映画館あったんですか。知らなかった~」

「そうなんだよ。」

三十五分後。

・・・


男は背もたれに体を預けていた。


足はもうトントンしていない。


そして——


ぽと。


八粒目。


店主が立ち上がる。


新聞を畳み、トングを持つ。


「揃いました」


湯気の立つたこ焼きが箱に入る。


男は受け取った。


そして、ふっと笑った。


「……なんか、久しぶりだな」


「何がです?」


常連が聞いた。


男は言った。


「急がない時間」


「ちょっとまって、お客さん。まだまだ、これからだよ。」


え?という顔をする。

自分が頼んだ個数をすっかり忘れている。


「まだあるんですか?」


店主は言った。


「もう一つ頼んでるでしょ」


男は少し笑った。

「ははは」


「……じゃあ、もう少し待ちます」


常連が小さく言う。


「そうそう」


「この店で待つってことは」


「この時間の流れに従うってことだからね」


ぽと。


たこ焼きが落ちる。

二時間後

店主がもう一箱詰め始めた。


「ほら、2つできたぞ。まいど」


男は、もうスマホを見ていなかった。

急いでいた自分すら忘れていた。

ただ静かに——


次の「ぽと」を待っていた。

人は急いでいる時ほど、

「急ぐ理由」を忘れています。


しかし、ゆっくりした時間に身を置くと、

不思議と心の呼吸が整ってくる。


このたこ焼き屋は料理屋でありながら、

どこか小さな時間の修理工場のような場所だった


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