第72話:黎明の進撃、帝都正門の封鎖
おはようございます!
ついに運命の日曜日。
魔族の里を後にし、夜を徹して荒野を駆け抜けた枢たちの前に、帝都の巨大な正門が姿を現します。
聖鍼師としての往診か、それとも反逆者としての進撃か。
朝の光の中で、枢の翡翠眼がかつてない決意を湛えて輝きます。
本日から2日目の更新祭、スタートです!
【08:00 / 10:00 / 12:00 / 15:00 / 18:00 / 21:00】の1日6回更新でお届けします。
帝都の門を叩く、最初の一撃をどうぞお見逃しなく!
地平線が白み始め、夜の帳が静かに剥がれ落ちていく。黎明の光が照らし出したのは、かつて枢が追放されるようにして後にした、白亜の都「帝都」の巨大な城壁だった。だが、今の枢の背後には、かつて彼を嘲笑った者たちが想像だにしない光景が広がっていた。魔族の精鋭戦士たちが、カザンの号令の下、一糸乱れぬ隊列を組み、朝靄の中を静かに進軍していたのだ。
帝都の正門を守る衛兵たちは、地平線から迫り来る「異形の影」に、言葉を失って立ち尽くしていた。魔族と人間は、数百年間にわたって不戦条約を保ちつつも、決して交わることのない不倶戴天の敵。その魔族が、あろうことか一人の人間の男を先頭に立て、正面から帝都へ向かってきている。それは帝都の歴史上、一度として想定されたことのない「異常事態」であった。
「……枢さん。ついにお戻りになりましたね。……なんだか、あの門を潜るのが、遠い昔のことのように感じます」
リナが聖女の杖を握り直し、隣を歩く枢の横顔を盗み見た。彼女の目には、かつて帝都で無力感に苛まれていた青年の面影はもうなかった。そこにあるのは、世界の病理を捉え、それを正すために歩みを止めない、冷徹で慈悲深い「聖鍼師」の姿だった。
「……ええ。……ですが、ここからが本当の往診です。……リナ。……門の衛兵たちが、こちらに向けて防衛魔導を展開しようとしています。……彼らに罪はありませんが、今は立ち止まるわけにはいかない」
枢の翡翠眼は、遥か前方にある正門の、魔導的な「急所」を見抜いていた。帝都の正門は、巨大な一枚岩に強力な結界魔法が何層にも重ねられており、物理的な突撃や魔法攻撃では傷一つ付かない。だが、その結界の維持には、城壁の四隅にある魔力集積点からの供給が不可欠だ。人体で言えば、呼吸を司る鼻孔のように、外気(魔力)を取り入れる特定のポイントが存在する。
「……帝都の正門。……人体の顔面に位置する、呼吸の要所**『迎香』**と定めます」
枢は歩みを止めず、往診バッグから一本の、空を貫くような白銀の長鍼を取り出した。
「……鼻の詰まりを通し、呼吸を楽にするのが『迎香』の役割。……ならば、この硬く閉ざされた門の呼吸も、一刺しで通して差し上げましょう」
「て、敵襲だ! 魔法障壁、最大出力! 全員射撃用意!」
衛兵隊長の絶叫と共に、城壁の上から無数の光の矢が降り注ぐ。だが、カザンが一歩前に出ると、その巨大な槍を旋回させ、烈風のような一振りで矢の雨をすべて弾き飛ばした。
「……我らの友、聖鍼師殿の往診を邪魔する者は、このカザンが許さん! ……さあ、往きなさい、枢! あなたの鍼が、この都の傲慢な目を覚まさせると信じている!」
カザンの力強い咆哮を背に、枢は風を切って地を蹴った。
あまりの速度に、城壁の狙撃手たちは照準を合わせることすらできない。枢は吸い込まれるように巨大な正門へと肉薄し、その結界が最も密に、しかし「気の滞り」を見せている一点――門の蝶番のわずか上にある、魔力の集積経絡へと、白銀の鍼を突き立てた。
「……聖鍼流、開門術――『迎香の解放』!」
パシィィィィィィィン!!
まるでガラスが砕けるような、清涼な音が響き渡った。
次の瞬間、帝都を数百年守り続けてきた絶対的な魔法障壁が、水泡が消えるように霧散していった。それだけではない。門を固く閉ざしていた物理的な機構までもが、内部の摩擦を失ったように滑らかに動き出し、ゆっくりと、しかし確実に、その巨大な扉を左右へと開いていった。
「な……馬鹿な! 門が勝手に開いていく!? 結界が完全に無効化されたというのか!」
混乱に陥る衛兵たち。彼らの目には、開かれた門の向こう側、朝日を背負って静かに歩みを進める枢の姿が、神々しいまでの威圧感を持って映っていた。
「……衛兵の皆さん、おはようございます。……体調はいかがですか? ……顔色が少し青ざめているようですが、無理もありませんね。……今の帝都の空気には、ヘイズ博士の放つ『毒』が充満している」
枢は門の真ん中で立ち止まり、冷徹な視線で都の奥、白亜の宮殿を見据えた。
「……私は、帝都を攻めに来たのではありません。……この都という巨大な患者にこびりついた、ヘイズという名の『病根』を摘出しに来たのです。……道を空けてください。……私は、一度決めた往診を途中で投げ出すほど、物分かりの良い医者ではありませんから」
枢の放つ圧倒的な「気」に、武器を構えていた衛兵たちが次々と膝をついた。それは恐怖による屈服ではない。枢の気が放つ、あまりに清浄で、慈愛に満ちた生命力に、彼らの本能が「抗う必要はない」と判断したのだ。
「……カザン、リナ。……行きましょう。……ヘイズ博士は、今まさに宮殿の最奥で、自身の『昇華』という名の自滅を始めようとしている。……手遅れになる前に、特効薬を届けてあげなければ」
枢を先頭に、魔族の軍勢が静かに、しかし力強く帝都のメインストリートへと足を踏み入れる。かつて自分を追放した都。自分を嘲笑った街並み。そのすべてを「診る」ために、聖鍼師は帰還した。
その様子を、宮殿のバルコニーから眺める一人の老人がいた。
ヘイズ博士。
彼は不気味な笑みを浮かべ、自身の喉元を弄った。
「……クク、……来たか。……落ちこぼれの鍼師が、どこまで私の『神域の医学』に迫れるか……見せてもらおうではないか、枢君」
帝都中を震撼させる、史上最大の往診が、今ここに始まった。
聖鍼の一刺しが、偽りの平和を切り裂き、真の再生への扉を開く。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ついに帝都へと帰還した枢さん。
難攻不落の正門を一刺しで「治療(解錠)」してしまうその手腕、まさに聖鍼師の真骨頂です。
魔族たちとの共闘も始まり、物語はついにクライマックスへと加速していきます。
今回登場した**『迎香』**は、小鼻のすぐ脇にあるツボです。
鼻詰まりを解消し、文字通り「香りを迎える(呼吸を楽にする)」ための場所ですが、枢さんはこれを「帝都の呼吸」の要所として利用しました。
次回、第73話は本日**【10:00】**に更新予定です!
帝都の街中で待ち受けていたのは、かつての枢の同僚たちでした……。
本日の1日6回更新、この後も怒涛の勢いで続きます。
「枢さんの帰還が格好良すぎる!」
「門を一撃で開ける展開、スカッとした!」
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次の更新まで、あと2時間。どうぞお楽しみに!




