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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第70話:深淵の鼓動、地の底の病巣

お読みいただきありがとうございます!


ヘイズ博士が放った刺客「虚」を退け、くるるの決意はより強固なものとなりました。

次なる舞台は、里の地下深く……地脈の心臓部。


そこに眠るのは、数百年前に封印されたはずの「災厄」の種。

聖鍼師の往診は、ついに人類の立ち入りを禁じられた神域へと至ります。


本日5回目の更新、夕暮れ時の18時にお届けします。

聖鍼が切り拓く、大地の真実を目撃してください!

 里の祭壇から地下へと続く、古の螺旋階段。くるるとリナは、カザンが率いる精鋭たちの護衛を受けながら、冷たく湿った闇の奥へと足を踏み入れていた。地上では地脈が浄化されたことで暖かな陽光が降り注いでいたが、この深淵にまでその光は届かない。代わりに、壁面にびっしりと生えた魔導結晶が、不気味な紫色の光を放ち、訪れる者を拒絶するように脈動していた。


「……枢さん、空気が重いです。……なんだか、見えない何かに胸を押し潰されているような……」

 リナが杖を握りしめ、自身の放つ聖なる光で周囲を照らす。彼女の言う通り、地下へ進むにつれ、大気に含まれる魔力の濃度は異常なまでに上昇していた。それは清浄な力ではなく、強引に圧縮され、腐敗しかけた「澱み」の気配だ。


「……無理もありません。ここは、ヘイズ博士が数百年かけて構築した『巨大な注射器』の先端部分ですから。……地脈の精髄を吸い上げるために、この場所の理そのものが歪められている」


 枢の翡翠眼ひすいがんには、もはや岩壁など見えていなかった。彼に見えているのは、血管のようにのたうち回る魔力の奔流と、そこに無数に打ち込まれた黒い杭。そして、その最奥で不自然なほど激しく、しかし苦しげに拍動する「大地の心臓」であった。


「……長老が言っていた通りですね。……地脈の主幹に、直接的な『炎症』が起きている。……これを放置すれば、里だけでなく、この大陸全体の生態系が壊死します」


 一行がついに最深部の広間に到達したとき、その異様な光景に全員が言葉を失った。

 広間の中央には、結晶化した巨大な「心臓」が鎮座しており、そこから無数のチューブ状の魔導回路が、帝都の方角へと伸びている。心臓はドクンドクンと重低音を響かせているが、その表面は黒い斑点に覆われ、腐敗した魔力が膿のように溢れ出していた。


「な、なんだこれは……。我が一族が守り継いできた聖域が、これほどまでに汚されているとは……!」

 カザンが憤怒に震え、槍を突き出す。


「……近づいてはいけません、カザン! ……その黒い膿は、高濃度の魔導汚染物質です。触れれば、肉体の細胞が内側から崩壊しますよ」


 枢は往診バッグから、これまでとは比較にならないほど巨大な、黄金の輝きを放つ「長鍼」を取り出した。それは初代皇帝がかつて「神を治めるために」打ったとされる伝説の武具であり、医具であった。


「……リナ、ここが正念場です。……『大地の心臓』の拍動を、私の合図に合わせて一時的に止めてください。……その隙に、私は心臓の奥深くに癒着している『ヘイズの種』を摘出します」


「心臓を止める!? そんなことしたら、里が……!」


「……大丈夫です。……人体の**『心兪しんゆ』**と同じ原理です。……一時的に働きを抑えることで、過負荷を取り除き、自己治癒力を引き出す。……私が責任を持って、再起動させてみせます」


 人体の『心兪』は背中、心臓の裏側に位置し、血液循環や精神状態を整える重要なツボだ。枢はこの地脈の巨大な心臓に対しても、そのセオリーを適用しようとしていた。


 枢はリナと共に、拍動する結晶の直前まで肉薄した。溢れ出す負のエネルギーが枢の肌を焼き、マントを揺らすが、その翡翠眼は一点の曇りもなく「病の根源」を見据えていた。


「……リナ、今です! **『心兪』**を封じます!」


 リナの祈りが光の帯となり、結晶の裏側を包み込んだ。瞬時、激しい地鳴りが止まり、世界から音が消えたかのような静寂が訪れる。大地の拍動が、止まったのだ。


「……聖鍼流、秘儀――『黄金の摘出術ゴールド・エクストラクション』!」


 枢の長鍼が、黒く変色した結晶の隙間へと滑り込んだ。

 ガガガガギィィィッ!!

 結晶が悲鳴を上げ、中からヘイズ博士の残した「魔導の種」……赤黒く発光する禍々しい核が姿を現した。それは地脈を食い荒らす寄生虫のように、心臓の深部まで根を張っていた。


 枢は一歩も引かず、己の全生命力を鍼に込め、その核を強引に引き抜いた。

 バチィィィィィィィン!!

 核が砕け散ると同時に、広間に溜まっていた邪気が一気に浄化の光へと変わる。


「……今だ、リナ! 再起動リブートを!」


 枢が特定の経絡を突き、リナが聖なる波動を流し込む。

 ドクン……。

 一拍、置いて。

 ドクゥゥゥゥン!!

 先ほどまでの苦しげな音ではない。深く、力強く、そして温かな脈動が、地の底から里全体へと響き渡った。黒い斑点は瞬く間に消え、結晶は元の透き通った翡翠色へと戻っていく。


「……終わりましたね。……これで地脈の『不整脈』は完治しました」


 枢は膝をつき、激しく肩で息をした。その手は震えていたが、顔には確かな達成感が浮かんでいた。しかし、その安堵も長くは続かなかった。


 ゴゴゴゴゴ……。

 浄化された心臓の奥から、ヘイズ博士の声が直接脳内に響いてきたのだ。

『……実に見事だ、聖鍼師よ。……だが、地脈を正常化したことが、逆に私への「供物」になるとは思わなかったかね? ……正常化したからこそ、吸い上げられる気の「質」が上がるのだよ』


「……何だと!?」


 枢が見上げると、帝都へと伸びる魔導回路が、かつてないほどの輝きを放ち、地脈の純粋なエネルギーを高速で吸い上げ始めていた。ヘイズは最初から、枢が地脈を治すことすらも、自分の「神への昇華」を加速させるための工程として組み込んでいたのだ。


「……どこまでも、悪趣味な患者ですね……。……分かりました。……そこまで言うなら、直接その歪んだ根性を治しに行ってあげましょう」


 枢は初代皇帝のマントを力強く翻し、地上へと続く階段を真っ直ぐに見据えた。

 第2部、最大の正念場。

 聖鍼師と魔族、そして帝国の運命を賭けた最終決戦の火蓋が、今ここに切って落とされた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


地脈の心臓を「往診」し、見事に浄化したくるるさん。

しかし、その善意すらもヘイズ博士の掌の上だったという、衝撃の展開に……!


今回登場した**『心兪しんゆ』**。

心を落ち着かせ、血の巡りを整える大切なツボですが、今回は「地脈の暴走を止めるスイッチ」として活躍しました。


次回、第71話は本日ラスト、**【21:00】**に更新予定です!

里を去る枢に、魔族たちが託した「最強の処方箋」とは!?

土曜日を締めくくる夜の更新も、どうぞお見逃しなく!


「ヘイズ博士、どこまでゲスなんだ……!」

「枢さんの黄金の鍼、格好良すぎる!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします。

皆さんの応援のおかげで、本日の5回連続更新も走り抜けられています!

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