第610話「旧鉱道の罠!重悪の腰痛と委中の清熱」
『陰陵泉』の刺鍼によって寒湿の邪気による激しい膝痛とむくみを劇的に解消し、銀爪会幹部・冷角を打ち破った往診チーム。銀嶺町に平穏を取り戻したチームは、寒湿鉱脈の源流を絶つべく白銀霊峰の地下深くに広がる「旧大鉱道」へと潜入します。しかし、最深部の暗闇で待ち受けていたのは、極度の湿気と熱気が混ざり合った「湿熱」の毒気と、重痛い腰痛で動けなくさせる恐ろしい病魔でした。枢先生の冴え渡る刺鍼が、腰の危機を救います!
銀嶺町の地下深くに穿たれた「旧大鉱道」――そこは、打ち捨てられた採掘器具と鋭い鉱石の結晶が不気味に転がる、光の届かぬ暗黒の迷宮であった。
往診チームは松明の炎を頼りに、湿り気を帯びた薄暗い坑道を慎重に進んでいく。
「気をつけてください、皆さん。この奥から流れてくる空気は、先ほどの単なる冷えとは違います……。不快な熱気と重苦しい湿気がねっとりと肌にまとわりついてきます」
往診鞄を抱えた枢が、壁面の岩肌に触れながら警戒を強める。
「けっ、蒸し風呂の中に泥水をぶちまけたような不快な空気だな! 息をするだけで体に重石を乗せられてるみたいだぜ」
巨斧を肩に担いだガストンが、額の汗を拭いながら不機嫌そうに鼻を鳴らした。
坑道の最深部である「巨結晶の間」に到達したその瞬間、天井から粘り気のある黄濁した水滴が一斉に降り注いだ!
その水滴が身体に触れた瞬間、往診チーム全体を襲ったのは、まるで腰骨を巨大な万力で押し潰されたかのような、尋常ではない重痛い腰痛であった!
「ぐぁぁぁッ!? な、なんだこの重さは……ッ!? 腰の骨が……腰の骨がへし折れそうだぞ……ッ!」
ガストンが突然両手で腰を押さえ、その場に崩れ落ちるように膝をついた。背中を伸ばすことすらできず、激しい腰痛と熱感に顔を歪めて荒い息をつく。
「あぐっ……! 腰の奥が熱く煮えて……鉛を流し込まれたみたいに重くて動かない……ッ! 立ち上がろうとすると、激痛でズキズキと響くわ……ッ!」
ネネもまた、弓を手放して岩肌に背中を預け、腰を押さえながら激しい痛みに耐えている。
「……皆さん、無理に腰を動かさないでください……! これは地下脈に溜まった邪気が化熱して生じた『湿熱の邪気』が、腰部の経絡に停滞した『湿熱腰痛・腰重如石』です!」
枢がすばやくガストンの腰部に触れる。腰の筋肉はカチカチに硬直しており、触れると嫌な熱感を帯びていた。
舌を診ると、体内にねっとりとした熱と水毒が充満していることを示す「黄膩苔」がびっしりと付着している。
「東洋医学において『腰は腎の府』であり、太陽膀胱経という巨大な経絡が背中から腰、足の裏までを広く包み込んでいます! 重く粘り気のある『湿』と、燃えさかる『熱』が結合した『湿熱の邪』が膀胱経の巡りを完全に塞ぐことで、**『腰に千斤の重石をつけられたような激しい重痛』**と、灼熱感、運動制限を引き起こしているのです!」
「クハハハハ! 鋭い診察だが、動けまいッ!」
巨結晶の影から、黄銅色の不気味な甲冑を纏い、身の丈ほどもある巨大な鉄槌を構えた男が現れた!
銀爪会の副頭領――「黄銅の砕骨」であった。
「我が『湿熱腰圧術』の前に屈した者は、二度と腰を伸ばして立つことはできん! 泥の底でのたうち回りながら、我が鉄槌で頭骨を砕かれるがいいッ!」
砕骨が巨大な鉄槌を地面に叩きつけると、黄濁した湿熱の衝撃波が地表を走り、ガストンやネネの腰をさらなる激痛が襲う!
「ガハッ……!? 腰が……腰が千切れそうだッ!」
ガストンが悶絶し、地面に這いつくばる。
「……相棒! 膝の裏の『血の滞り』を抜けッ! 腰の気が通れば……あのような力任せの巨漢など、俺とガストンの敵ではないッ!」
隠密・哭が白銀の気を腰回りに巡らせ、激痛に耐えながら短剣を滑らせて砕骨の接近を阻む!
「任せてください、哭さん! 太陽膀胱経の邪熱と鬱血を一気に放散させ、腰に溜まった湿熱の重みを打ち払います!」
枢の手が往診鞄から取り出したのは、漆黒の邪気を打ち払う清涼な気をもつ最高級の「清熱利湿・絡脈開通純銀三稜鍼」であった!
「ハク、リナ! 腰部の熱を冷まし、湿熱の粘り気を分解する『黄柏』と『防己』の清熱利湿スプレーを、全員の腰と膝の裏へ集中噴霧しなさい!」
「了解です枢先生! 清熱利湿スプレー、全開噴射ッ!!」
ひんやりとした苦味のある涼やかな香りが包み込み、腰にこもっていた不快な熱感がわずかに引き始める!
「膀胱経に滞る湿熱と汚血よ、委中の流路より天へと抜け出たまえッ! 足の太陽膀胱経の合穴……解放ッ!!」
シュパッ! シュパッ! シュパッ――!!
枢の手から放たれた銀鍼が、苦しむガストン、ネネ、ハク、リナ、そして自らの**「膝の裏側にある横シワの中央(ひざ裏の曲がり目の真ん中)」へ、寸分の狂いもなく的確に打ち込まれた!
打ち込まれたのは、背中から腰の全領域を統括し、腰痛と邪熱を一気に解消する東洋医学至高の腰痛特効穴――『委中』!
ジュワァァァァァァッ!!!!!
「――つ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!?!? 腰にぶら下がっていた巨大な鉄の重りが……ドカンと外れて落っこちたみたいだ……ッ!」
ガストンが目を見開き、両手で腰を叩きながら力強く立ち上がった!
「腰の激痛と熱さが……一瞬で消えたわ! 背中から腰にかけて、スースーと涼しい風が通り抜けていく……ッ!」
ネネが軽やかに背筋を伸ばし、力強く弓を引き絞る!
「『委中』は、頭から背中、腰、足へと通る『足の太陽膀胱経』の合穴であり、古来より『腰背は委中に求めよ(腰や背中の病はすべて委中を取れ)』**と称えられてきた腰痛治療において最高峰の名穴です! 経絡に溜まった過剰な熱と湿気を急速に排泄し、ぎっくり腰、慢性腰痛、腰の重怠さ、坐骨神経痛を劇的に改善する、腰の救急治療において絶対の特効穴です!」
枢が力強く往診鞄を構え直す!
「な……何だとぉぉぉッ!? 我が湿熱の腰圧が、膝の裏のツボ一つで完全に解除されたというのかぁぁぁッ!?」
砕骨が驚愕し、巨大な鉄槌を構えて後退りする。
「ガストンさん、今です! 腰の軽さを取り戻したあなたなら、あの重甲冑など一撃で粉砕できます!」
「おうよッ! 腰が軽すぎて空も飛べそうだぜぇぇぇッ! 腰を痛めつけてくれた返し、叩き込んでやるッ!」
ガストンが巨大な戦斧を豪快に振り回し、黄金の気を爆発させて跳躍した!
「豪力・絆の太刀割り――委中爆砕断ッ!!」
ドカァァァァァァァンッ!!!!!!!!
ガストンの一撃が地響きとともに砕骨の鉄槌と甲冑を真ん中から粉砕し、銀爪会副頭領・砕骨を叩き伏せた!
砕骨が倒れるとともに、旧鉱道を覆っていた湿熱の黄濁した空気も一気に引き去っていくのだった。
「ふぅ……これで旧鉱道の湿熱邪気も治まりましたね」
枢が静かに鍼を納め、汗を拭う。
しかし、崩れ去った砕骨の奥――巨結晶の亀裂から、さらに冷たく鋭い「金毒の首領」の恐ろしい気配が解き放たれようとしていたのだった――!
第610話をお読みいただき、ありがとうございました!
旧鉱道の湿熱邪気によって重痛い激しい腰痛に苦しむガストンさんたちを、枢先生が『委中』の刺鍼で見事に救い出し、銀爪会副頭領・砕骨を粉砕する痛快な展開をお届けいたしました。
さて、今回は作中で枢先生がガストンさんたちの重痛い腰痛や熱感を解消した「湿熱腰痛・膀胱経阻痺(湿気と熱による腰部の著しい不調)」の病理に基づき、日常で「蒸し暑い日や汗をかいた後に腰が重痛くズキズキ痛む、腰が熱っぽくて重石を乗せられたように重い、ぎっくり腰で腰が伸びない、立ち上がりに腰が痛む時」に、腰周りの滞った熱と血流をスッキリと通して痛みを和らげてくれる絶対の名穴をご紹介します。
今回登場した『委中』は、**膝の裏側にある横シワの中央(膝を曲げた時にできるシワのちょうど真ん中)**にあります。
東洋医学において『委中』は、背中から腰を通る「足の太陽膀胱経」の最も重要なツボであり、古くから「腰背は委中に求めよ」と教えられてきた腰痛治療の第一選択穴です。腰に溜まった過剰な熱や不要な水分、血行不良(瘀血)を排泄し、腰全体の緊張を一気にほぐして軽やかな動きを取り戻してくれます。
ケアする場合は、両手で膝を包み込むようにして、中指の腹を『委中』に当て、膝の裏の中心に向かって痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと垂直に押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
腰の奥の重みがスーッと抜け、背筋がすんなり伸びるようになりますよ!
次なる第611話は、明日**8月12日(水曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
白銀霊峰の最深部に君臨する銀爪会首領との最終決戦! 12時の更新をどうぞお楽しみに!




