第608話「新章開幕!風の霊峰と太淵の宣肺」
大魔獣「炎帝」を撃破し、南海灼熱諸島に平穏を取り戻した往診チーム。島民たちに見送られながら次なる旅路へと船を出したチームが目指すのは、北方にそびえ立つ断崖絶壁の巨峰「白銀霊峰」でした。しかし、山麓の街道に入った途端、乾燥した鋭い冷風と重金属の微粉末を含んだ邪気がチームを襲い、喉の激痛と途切れない激しい咳込みを引き起こします。新章開幕、枢先生の閃く鍼が喉の危機を救います!
南海の穏やかな蒼海を背に、往診船「治癒丸」は北方の大陸を目指して順調に航海を続けていた。
灼熱の諸島を後にした往診チームの視界に飛び込んできたのは、雲を突き抜けるように高くそびえ立つ、白銀の岩肌を剥き出しにした巨大な山脈――「白銀霊峰」であった。
「へへっ、灼熱の島から一転して、今度はでっかい岩山か! 海風も急にひんやりしてきやがったぜ!」
ガストンが甲板の手すりに身を乗り出し、新緑と白い岩肌が織りなす雄大な景色を見上げて鼻を鳴らした。
「ええ、白銀霊峰は古くから鉱物資源と貴重な生薬の宝庫として知られている場所です。ですが……何やら山麓の空気が妙に張り詰めているように感じますね……」
ネネが弓を抱えながら、山肌を包む薄白い霧を険しい表情で見つめる。
一行が船を港に寄せ、白銀霊峰の山麓へと続く「銀砂街道」へと足を踏み入れた時のことだった。
ビューォォォォォッ――!!
山頂の谷間から、まるで鋭い刃物で空気を切り裂くような、極度に乾燥した冷たい嵐が吹き下ろしてきた!
その風には、山の鉱脈から削り取られた微細な金毒(重金属の微粉末)が混ざり込んでおり、光を反射して怪しくキラキラと輝いている。
「ケホッ……! ゲホッ、ゴホッ……! な、なんだこの風は……ッ!? 息を吸った瞬間に、喉の奥がカミソリで切り裂かれたみたいに痛いぞ……ッ!」
ガストンが突然喉を押さえ、吐き戻すかのような激しい咳込みに見舞われた。
「クホッ……ゴホゴホッ……! 喉が……喉が焼けるように痛くて、声が出ない……ッ! 息を吸うたびに気管が引き攣れて……息が詰まる……ッ!」
ネネも顔を真っ赤にし、涙を浮かべて胸元を押さえつけながらその場にしゃがみ込んでしまう。
「……皆さん、ハンカチで口と鼻を覆ってください……! これは白銀霊峰の鉱脈から吹き荒れる『風寒・金毒による肺気阻閉』です!」
枢がすばやく自らの往診巾着から生薬の湿布を取り出し、口元を覆いながら仲間の脈を診る。
両手の手首にある脈(寸口の脈)を触診すると、表面で軽く触れただけで緊張して跳ね上がる「浮緊の脈」が打たれていた。
「東洋医学において『肺』は、呼吸を司ると同時に、体表を保護する『衛気』を巡らせるデリケートな臓器です! 肺は乾燥と冷えに極めて弱く、口や鼻から直接入る外邪に対して真っ先にダメージを受けます。この乾燥した冷風と重金属の微粉末が肺の宣発(せんぱつ・気を巡らせる働き)と粛降(しゅくこう・気を下ろす働き)の運動を完全に麻痺させ、激しい喉の痛み、連続する激しい咳、呼吸困難、声枯れを引き起こしているのです!」
「フハハハハ! 鋭い洞察だが、気づいた時にはもう遅いぞッ!」
白銀の岩陰から、全身に黒銀の甲冑を纏い、巨大な鉄の爪を両手に装着した男たちが躍り出た。
白銀霊峰の鉱山領域を支配する悪名高き盗賊団「銀爪会」の先鋒隊であった。
「我が白銀霊峰の金毒風を吸い込んだ者に、まともな呼吸などできん! 喉を掻きむしりながら死に絶えるがいいッ!」
銀爪会の兵たちが鉄爪を交差させ、さらなる金毒を含んだ激しい風圧を往診チームへと吹き付ける!
「ゴホッ……ガハッ……! 呼吸が……呼吸が浅くなって、力が入らねぇ……ッ!」
ガストンが戦斧を支え代わりにしながら、激しい喉の痛みに顔を歪める。
「……相棒! 咳で体が引き攣れている状態では……戦いにならん……! 喉の通気を確保してくれッ!」
隠密・哭が短剣を構え、喉を抑えながら必死に銀爪会の突撃を牽制する!
「任せてください、哭さん! 肺の気を直ちに宣通させ、金毒と風寒の邪気を天へと押し戻します!」
枢の手が往診鞄の特製区画へと伸びる。取り出されたのは、清涼な風のような白銀の光を帯びた「宣肺止咳純銀細鍼」であった!
「ハク、リナ! 肺の宣発機能を高め、喉の炎症と痛みを鎮める『桔梗』と『杏仁』の宣肺清咽ミストを、全員の首元と手首へ集中噴霧しなさい!」
「了解です枢先生! 宣肺清咽ミスト、全開噴射ッ!!」
清涼でスーッとする甘苦い生薬の香りが包み込み、引き攣れていた気管の緊張がわずかに和らぎ始める!
「肺の腑に滞る風寒と金毒よ、宣発の風に乗って散じたまえッ! 手太陰肺経の原穴……解放ッ!!」
シュパッ! シュパッ! シュパッ――!!
枢の手から放たれた銀鍼が、苦しむガストン、ネネ、ハク、リナ、そして自らの**「手首の掌側(内側)にある横シワの上で、親指側のふちにある骨(舟状骨)と脈が触れる場所(橈骨動脈)の間の凹み」**へ、寸分の狂いもなく的確に打ち込まれた!
打ち込まれたのは、手太陰肺経の原穴であり、肺の機能を一気に開通させて喉の激痛と激しい咳を鎮める絶対の宣肺名穴――『太淵』!
ジュワァァァァァァッ!!!!!
「――つ……ハッ!? 喉の奥で詰まっていた不快な塊が……一気にスッと通り抜けたぞ……ッ!?」
ガストンが目を見開き、一呼吸で胸いっぱいに空気を吸い込んで立ち上がった!
「激しい咳込みが……嘘みたいに止まったわ! 喉の痛みが消えて、呼吸がすごく楽……ッ!」
ネネが首元を押さえていた手を離し、潤いを取り戻した声で力強く叫ぶ!
「『太淵』は、呼吸と肺全般を司る『手太陰肺経』の原穴であり、八会穴の脈会です! 肺の気の滞りを強力に改善して『宣発・粛降』の正常な呼吸運動を取り戻し、外邪による激しい喉の痛み、連続する咳、痰の詰まり、喘息、声枯れを即座に和らげる、東洋医学において最高峰の呼吸器・喉の特効穴です!」
枢が力強く指を突き出す!
「な……何だとぉぉぉッ!? 金毒風による呼吸障害が、手首のツボ一つで解除されたというのかッ!?」
銀爪会の兵たちが驚愕し、後退りする。
「ガストンさん、今です! 正常な呼吸を取り戻したあなたなら、あんな脅迫など恐れるに足りません!」
「おうよッ! 息が存分に吸えるってのは最高の気分だぜぇぇぇッ! 喉を痛めつけてくれた返し、一気に行くぞッ!」
ガストンが巨大な戦斧を豪快にぶん回し、黄金の気を爆発させて跳躍した!
「豪力・絆の太刀割り――宣肺爆砕断ッ!!」
ドカァァァァァァァンッ!!!!!!!!
ガストンの一撃が地響きとともに叩きつけられ、銀爪会の兵たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「ふぅ……間一髪でしたね。ですが、白銀霊峰にはまだ何か大きな不穏な気配が漂っています……」
枢が静かに鍼を納め、高くそびえる山頂を見上げる。
風の哭く白銀霊峰を舞台に、往診チームの新たなる戦いと治癒の旅が、いま幕を開けるのだった――!
第608話をお読みいただき、ありがとうございました!
新章「風の哭く霊峰と金毒の邪気」が幕を開けました! 白銀霊峰の乾燥した冷風と金毒によって激しい喉の痛みと咳込みに苦しむ往診チームを、枢先生が『太淵』の刺鍼で見事に救い出し、幸先の良いスタートを切る展開をお届けいたしました。
さて、今回は作中で枢先生がガストンさんたちの激しい喉の痛みや連続する咳、息苦しさを解消した「風寒・外邪による肺気阻閉(外邪による呼吸機能の著しい障害)」の病理に基づき、日常で「風邪のひき始めで喉がイガラっぽく痛む、連続してコンコンと激しい咳が出る、喉に痰が絡んで息苦しい、乾燥で声が枯れて出しにくい時」に、肺の働きを高めて喉の通りをスーッとスムーズに整えてくれる絶対の名穴をご紹介します。
今回登場した『太淵』は、手首の掌側(内側)にある横シワの上で、親指側のふちにある出っ張った骨(舟状骨)のすぐ下、脈がドクドクと触れる場所(橈骨動脈)のすぐ凹んでいるところにあります。
東洋医学において『太淵』は、呼吸器系を司る「手太陰肺経」の原穴であり、全身の脈が集まる「脈会」でもある非常に重要なツボです。風邪や乾燥、冷気によって肺の働きが低下し、喉の炎症や咳、息苦しさが生じた際、このツボを刺激することで肺の気をスムーズに循環させ、喉の不快感や咳を劇的に鎮めてくれます。
ケアする場合は、反対の手の親指の腹を『太淵』の凹みに当て、脈の鼓動を感じながら痛気持ちいい強さで5秒間じわーっと優しく垂直に押し込みます。これを息をゆっくり吐きながら左右5回ずつ試してみてください!
喉の詰まり感がスーッと晴れ、呼吸が驚くほど楽になりますよ!
次なる第609話は、明日**8月11日(火曜日)のお昼【12:00】**に更新を予定しております!
白銀霊峰の麓にある鉱山町へ到着した往診チームを待ち受ける新たな病魔とは――!? 12時の更新をどうぞお楽しみに!




