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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第490話「彷徨える幽霊病院船!乾燥の呪いと肺を潤す尺沢」

魔導渦の嵐を乗り越えた往診チームの前に突如として現れた、緑の怪光を放つ巨大な「漂流幽霊病院船」。

週の真ん中、水曜日のお昼休みに一行が足を踏み入れたのは、数十年前の旧ギルド時代に隔離され、そのまま放棄されたという呪われた洋上病院の廃墟でした。

船内に澱むのは、生物の水分を内側からカサカサに干からびさせ、激しい「空咳」と「皮膚のひび割れ」を引き起こす、最悪の隔離乾燥毒「燥邪そうじゃ」。

防壁すら通り抜ける呪いの乾燥に侵され、喉を詰まらせる仲間たちを前に、新メンバー・ネネの野生の調合と、聖鍼師・枢先生の白銀の長鍼が、乾ききった五臓に「瑞々しい清流」を呼び覚まします!


「医学の光から見放され、ここで乾き果てていった魂たちの無念が、新たな病を呼んでいるのですね。ですが、命の渇きを癒やすみちは、今も閉ざされてはいません! ハクさん、ネネさん、肺と皮膚を極限まで潤す清涼の調合を! 幽霊病院船編、潜入往診を開始します!」


12時、水曜昼の更新。世界往診紀行編・大航海編(幽霊病院船編)、第490話!

平日の折り返しとなるお昼休みに、喉の奥がじわぁっと潤い、深い呼吸が染み渡るような至高の鍼灸潤和劇をお楽しみください!

 ギギギィ……と不気味な軋み声を上げながら、魔導船の横に並んだ漂流幽霊病院船。

 枢を先頭に、ハク、ネネ、ガストン、シオン、リナの往診チームがその苔むした木製の甲板に足を下ろした瞬間、周囲の空気が一変した。大気は異常なほどにカラカラに乾ききっており、吸い込むだけで喉の粘膜が張り付くような強烈な違和感が一行を襲う。


「コン、コンッ……! ゲホッ! な、何これ……。お水を飲んでも、喉の奥がペタペタに乾いて、トゲで刺されたみたいに痛いよ……っ」

 ネネが自分の喉元を押さえながら、乾いた咳を繰り返す。彼女の手の甲を見ると、さっきまで瑞々しかった皮膚が、まるで冬の乾燥期のように白くひび割れ始めていた。


「フん、やはりな。これは旧ギルドが当時、不治の感染症を患った患者ごとこの船を洋上に隔離した際、病胞子を死滅させるために発動した『絶対乾燥結界』の残滓だ。大気中の水分が完全に消滅し、人間の『はい』と『皮毛ひもう』の水分を強制的に奪う『燥邪そうじゃ』の呪いと化している」

 ハクが片眼鏡の奥の目を険しく光らせ、往診鞄から取り出した潤いを持たせる特殊な濡れ布をネネの口元に当てるが、その布すらも、数秒でパリパリに乾燥していく。


「う、く……。息を吸うたびに、胸の奥が焼けるように痛むわ……。涙が乾いて、ターゲットの輪郭がかすれて見えない……っ」

 リナが魔導銃を握り直そうとするが、指先の皮膚が乾燥で割れ、小さな血が滲む。


「防御障壁でも、この大気そのものの『乾燥』は遮断できません……。ゲホッ、肺の水分(肺陰)が尽きて……魔力の循環が途切れてしまいます……っ」

シオンが魔導書を抱えたまま、カサカサに乾いた唇を震わせ、苦しげに胸を押さえて座り込んだ。ガストンもまた、自慢の筋肉が水分を失って強張り、思うように大盾を持ち上げられずにいた。


「皆さん、深く息を吐いて、極力浅い呼吸を意識してください。東洋医学において、肺は『嬌臓きょうぞう』と呼ばれ、乾燥を最も嫌う繊細な臓器です。大気の燥邪が肺を直撃したことで、体内の潤いの根本である『津液しんえき』が枯渇し、急性気管支炎と皮膚の破綻を引き起こしています」

 埃と乾燥のベールに包まれた暗い通路を進む中、聖鍼師・枢の周囲だけは、大樹海の源流を思わせるような、どこまでも清らかで瑞々しい黄金の気が漂っていた。


 彼の指先から、月の光を宿したように静かに煌めく、一本の白銀の長鍼が鮮やかに引き抜かれる。


「ハクさん、ネネさん。肺の熱を冷まし、細胞の底から潤いを生み出す『百合固金湯ひゃくごうこきんとう』のベース調合を。……その前に、私が皆さんの肺の底に、枯れることのない『清らかな泉』を掘り当てます」


「クク、船ごと焼き尽くすような乾燥だな。ネネ、大樹海の『水霊の苔』を取り出せ! 私の純水魔力で一きに水分を膨張させ、この枯れ果てた廃病院を潤してやる!」


「わかった……っ! コンコンッ……みんなの喉と皮膚がボロボロになっちゃう前に、ウチらの薬草で絶対に潤してみせる!」

ネネが乾燥に耐えながら、執念ですり鉢を回し始める。ハクの魔法と連動し、すり鉢の底から、しっとりと冷たい、お花の香りを孕んだ極上のミストが通路へと広がり始めた。


「では皆さん、肘を軽く曲げて、力を抜いてください」


 枢の長鍼が、リナ、シオン、ガストンの肘の前面へと、流れるような神速の運鍼で次々に穿ち込まれた。

肘の内側の横じわの上、太い腱(上腕二頭筋腱)の外側の窪み。肺の経絡に溜まった異常な熱と乾燥を鎮め、豊かな水を湛える最高の潤滑穴。


 チクリ。


「手太陰肺経の合水穴――尺沢しゃくたくを深く穿ちます」


 枢の鍼先が、完璧な角度で3人の尺沢の奥へと滑り込んだ。

鍼が経穴の核心を射抜いた瞬間、ガストンたちの体内へと、まるで枯れ果てた砂漠に大雨が降り注ぐような、圧倒的な「潤い」の奔流が突き抜けた。


「尺沢は、肺経の『合水穴ごうすいけつ』であり、文字通り『肺の中に尺(広大)なるみずうみを作り出す』という、呼吸器疾患最高峰の潤肺じゅんぱい・清熱穴です! 乾燥によって熱を持ち、ギチギチに収縮していた気管支の粘膜を一瞬で瑞々しく蘇らせ、激しい空咳を止め、皮膚のバリア機能を根底から急速に回復させます!」


「――はぁぁぁぁ……っ! すごい、喉のあのカサカサした痛みが、一瞬で消え去ったわ……! 割れていた指先の皮膚が、じわじわと潤いを取り戻していく……!」

 リナの瞳に、いつもの冷徹な光が完全に戻った。彼女は魔導銃を水平に構え、通路の奥から這い出てくる、乾燥の呪いで動く旧ギルドの「防衛ゴーレム」を鋭く見据える。


「胸の痛みが完全に消えました……! 肺が、驚くほど深く、冷たくて心地よい空気を吸い込んでいます!」

シオンの魔導書から、乾燥の呪詛をすべて中和する、まばゆい純白の水流結界が通路全体へと一気に広がっていった。


「ガハハハハ! 筋肉に張りが戻ってきたぜ! ――ネネちゃん、ハクの兄ちゃん、あの薄気味悪い鉄の塊どもは、このガストンがまとめて粉砕してやる!」

ガストンが完全復活の咆哮とともに大盾を掲げて突撃し、襲いかかる防衛ゴーレムたちを、圧倒的な怪力で次々と叩き潰していく。


「そこよ! ――ハイドロ・バレット!」

 リナが放った、シオンの水流魔力を纏った精密な一撃が、ゴーレムたちの動力源である「乾燥呪詛核」を正確に撃ち抜いた。


「今だ、ネネ! 命を置き去りにした狂った隔離結界を、大自然の恵みへと還元するぞ!」


「いっけえええーーーっ! ウチらの特製『水霊中和液』、病院船の中心の魔法陣に特大サイズでぶち込むよーーっっ!!」

 ハクが天空へと美しく跳躍して結界の主軸を強引に引き裂き、ネネがすり鉢から放った黄金の潤和薬液が、船の深部へと一気に流れ込んだ。


 じわぁぁぁぁぁ……。


 幽霊病院船を数十年間支配していた絶対乾燥結界は、清らかな水の音を立てて完全に融解し、船内には、まるで大樹海の朝霧の中にいるような、どこまでも瑞々しく心地よい大気が満ち溢れたのだった。

 呪われていた廃墟は、静かで穏やかな「歴史の遺物」へと還っていった。


「ふぅ……。実に見事な大往診でしたね、皆さん。肺に十分な潤いが行き渡れば、人はどんな過酷な病床をも克服することができるのです」

 枢は白銀の長鍼を鮮やかに消毒し、往診鞄へと収めた。


「へへ、先生の『尺沢』って本当に魔法みたいだね! 肘をちょっとツンってされただけで、喉のなかに美味しいお水が湧き出てきたみたい!」

ネネが自分の肌をさすりながら、満面の笑顔を見せる。


「当然だ。肺の水を司る少陽の原。ふん、幽霊船の往診としては完璧な幕引きだな」

ハクが片眼鏡の位置を直し、満足そうに不敵な笑みを浮かべた。


 乾燥の呪いを解き明かし、幽霊病院船の深部へとさらに進む往診チーム。

しかし、静まり返った診療室の奥、古びたカルテが散らばる机の上に、旧ギルドが当時、この船の患者たちを使って実験を行っていたという、人間の「心臓の鼓動(血流)そのものを支配する」最悪の魔導心臓の設計図が残されているのを、枢は見逃さなかった――。

 第490話「彷徨える幽霊病院船!乾燥の呪いと肺を潤す尺沢」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 大航海編・幽霊病院船編の第1回として、隔離結界の燥邪(乾燥の呪い)によって生じた急激な「喉の激しい渇き・空咳・皮膚のひび割れ(肺陰の枯渇)」に苦しむ仲間たちを、ガストンさんの前線圧殺、シオンさんの水流結界、リナさんの精密水流射撃、 Parsleyなハクさんとネネちゃんの「水霊の苔」の潤和新薬から、枢先生の「尺沢しゃくたく」による劇的な肺内加水の一刺しによって救い出す、最高に瑞々しい治療劇、お楽しみいただけましたでしょうか!


 週の折り返しとなる水曜日のお昼休み、少しお肌や喉の乾燥が気になるお体に、胸の奥までじわぁっと心地よい潤いが染み渡るような往診チームの圧倒的なコンビネーションが、霧と歴史を感じさせる廃病院の映像美の中で鮮やかに描き出されましたね。


 今回は、急激な乾燥や熱によって傷ついてしまった喉、気管支、皮膚を根本から潤し、回復させるために枢先生が用いた、肘の内側にある非常に重要な名穴、尺沢しゃくたくの効能について解説させていただきます。


 東洋医学において「尺沢」は、手太陰肺経てたいいんはいけいに属する合水穴ごうすいけつであり、文字通り「乾燥しきった肺の中に、広大で清らかな潤いのみずうみを出現させる」ための、最高峰の潤肺・止咳しがいスイッチです。


 ここは、肺に溜まった異常な熱を冷まし、体内の水分(津液)を呼吸器全体に行き渡らせることで、長引く激しい空咳、喉の痛み、声枯れ、気管支炎、さらには皮膚の乾燥によるかゆみやひび割れ、肘の痛みなどをその場で劇的に緩和する素晴らしい効果を持っています。


 現代における秋から冬にかけての乾燥対策のケアや、風邪の後のしつこい咳の更生、アレルギー性の気管支の不調などにも臨床で最優先される、プロの鍼灸師にとってもこれ以上ないほど重宝されている素晴らしい名穴です。この的確な一刺しで、仲間たちの肺と皮膚を一瞬で瑞々しいオアシスへと戻してみせる枢先生の臨床の冴えには、今回も深く感動させられましたね。


 見事に最初の部屋の呪いを解き明かし、ついに船の最深部に眠る旧ギルドの最悪の遺産「魔導心臓」の謎へと肉薄する往診チーム。


次なる幽霊病院船編の大クライマックス、第491話は、本日水曜日の【21:00】に更新予定です。

一日の仕事を終えてホッと一息つく夜のリラックスタイムに、往診チームが命の根源の謎に挑む、新たなる知恵と感動の決戦完結回を、ぜひお楽しみに!

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